「強盛大国」で平壌と地方の格差拡大か 岡林弘志 (2011.9.27) 平壌はいま建設ブームだ。来年に「強盛大国の大門を開く」象徴にするための「10万世帯住宅建設」を大々的に進めているからだろう。地方でもダムや工場などの建設、整備などが報じられるが、人民の生活へのしわ寄せは避けられない。平壌と地方との格差は拡大する一方だ。 平壌は建設ブーム 「荘厳な大建設戦闘の熱風が吹き荒れる万壽台地区」(9・21労働新聞) このところ、北朝鮮のメディアは、ひんぱんに平壌・万壽台地区での住宅建設の進み具合を取り上げている。 「万壽台での建設場で世人を驚かす奇跡が生み出されている」(9・17朝鮮中央通信)「万壽台の景色が日々変わっている。超高層アパートの骨組み工事が40階に達した」(9・24同)といった具合だ。 「強盛大国」の主事業の一つである「平壌市10万世帯住宅建設運動」は、資金や資材不足で来年までの実現は無理、目標戸数を低く修正したといわれるが、建設そのものは大車輪で進んでいるようだ。 実際に、最近の北朝鮮旅行者によると「平壌は建設ブーム」という。ダンプカーなど大型トラックが盛んに行きかい、埃っぽいほど。また、万壽台地区では、これまで北では見たことのなかった大型クレーンが林立し、45階建て14棟をはじめ、工事が進められている。 女性の間では日傘が流行 また、平壌市内では多数の市民が動員され、歩道の整備をしている姿があちこちで見られたという。来年の金日成生誕百周年に向けて、磨きをかけているのだろう。 平壌では、数年前から少しずつ自動車が増えているが、街の様子もかなり変わりつつあるようだ。屋台の商店が一年前の数倍に増え、飲料水や焼き芋に加え、豚マンや生花、アイスクリームなどの人気が高い。 女性もおしゃれになり、ハイヒールが増え、日傘をさしている姿が目立ったという。日傘は今年の流行のようだ。配給ではなく市場が機能しているためだろう。 田んぼに増えた監視小屋 平壌は、確実に変化しつつあるようだが、地方はどうか。北朝鮮の大動脈であるはずの平壌―開城間の高速道路は、相変わらず交通量は少なく、1時間に4、5台通るだけだという。20年ほど前とほとんど変わらない。 また、収穫期をまじかに控えた田んぼでは監視小屋が各所で見られたという。監視小屋は前からあったが、数がふえた。それだけ作物の盗難が増えている。食糧事情がひっ迫していることの現れだ。 その反映の一つだろう。能登沖で脱北者の小型漁船が保護された(9・13)。9人の家族、親戚が載っていて、韓国への亡命を希望した。日本海を経ての脱北は2007年6月以来だ。 この漁民は、海軍の管轄下でイカ漁をしていたが、軍への供出が厳しく生活が苦しかったという。また、韓国のテレビドラマや映画を見て韓国の暮らしにあこがれたと脱北の動機を語ったようだ。 この漁民は、船に少しではあるが燃料、食糧を積んでおり、家庭ではDVDを見ることができる生活をしていたようだが、それでも脱北をせざるを得なかった。 韓国への脱北者は2万人を超えたというが、平壌出身というのは数少ない。やはり食糧事情が厳しい地方が多いようだ。 建設資材は平壌に優先供給 ある脱北者は「地方は強盛大国のとばっちりを受けている」という。要するに、地方は後回しにされていることの不満がある。 「建設資材は国家的措置により、(平壌市内の)各住宅現場に優先的に供給されている」という。「朝鮮新報」は首都建設総局の副参謀長に取材した内容を紹介している。(8・24) 主な供給元として、千里馬製鋼連合企業所、金策製鉄連合企業所、順川セメント連合企業所など、北朝鮮で有数の事業所があげる。 要するに、このところ住宅建設などにかかわる資材を作っている工場の製品は、ほとんどが平壌に送られているのだ。これでは、地方の住宅建設などの工事は後回しされざるをえない。 「強盛大国」献金の強要も それに、強盛大国のための献金を強要されている。労働党宣伝部が市場など人が集まるところで「強盛大国は我々自身が作り、早期達成すべきだ」と演説し、その場で献金を強いる。 また別の地方では「わが軍が砲射撃で敵の島をぶっ飛ばしたことに感激した住民が強盛大国建設のため献金をした」と宣伝、献金を集めた。「献金をする人にはどうやってカネをもうけたか問わない」と誘いかける例もある(9・15聯合ニュース)。 地方は「強盛大国」のとばっちり こうして吸い上げられたカネの多くは、平壌において、強盛大国の格好をつけるためにつぎ込まれるのだろう。資材もカネも平壌へと吸い寄せられていく。 独裁国家はもともと中央集権だ。とくに北朝鮮は、平壌を革命の成果を内外に誇るショウウインドウと位置付けている。平壌はそのために整備され、成分のいい選ばれた人民しか居住できない。 その傾向が強盛大国建設のためにますます強まっている。 9月初めに平壌にいる息子を訪ねた寺越君枝さんは、「野菜の配給が昨年の三分の一になっていた」(9・15テレビ朝日)という。息子は「水害や天気が悪かったからしようがない」と言っていたようだが、食糧のひっ迫は平壌でも深刻だ。 全国的に十分に食えない中で、平壌と地方との格差はますます広がりつつある。「強盛大国」がその最大の原因というは、なんとも皮肉なことだ。 地方にもいきわたる韓国の映像 先にふれた漂流事件で、注目すべきは漁民が脱北の動機として韓国の映像を見たと語っていることだ。かねて韓国のビデオ、DVDなどの人気が高いといわれていたが、地方にもかなり浸透していることがわかる。 こうした実物教育は、理屈よりも効果がある。陸続きの国があるというのに閉鎖国家というのは無理がある。平壌と地方との格差がさらに広がれば、住民の不平・不満はさらに強まる。 |