現代コリア

TOP     日本     韓国(大韓民国)     北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)     その他     コラム一覧     佐藤勝巳     岡林弘志     五味洋治     田中明     会社紹介      

露出度をます金正日
岡林弘志
(2011.9.15)

 

    もともと表に出ることが嫌いだった金正日総書記の露出度がここへきて異常に増している。訪ロ・訪中や閲兵式などかつてない頻度だ。いまの苦境を乗り切るには、自らが内外に身をさらして指導力を誇示する必要があるのか。独裁体制を守るための切羽詰まった心境からか。

 

    「一号管理」は人民生活の最優先義務

 

    「一号管理」。

    東京新聞に脱北者の話の中でこの言葉が紹介されていた(9・8夕刊)。「一号」とは金日成、金正日のことを指す。二人が写っているのは「一号写真」、二人にかかわる書籍などは「一号図書」となる。

 

    人民はいかなる非常時、火事でも水害でも、家財道具を持ち出すより先にこれらを救い出す。いわゆる「一号管理」を強要される。怠れば、重い処罰があるのは言うまでもない。もともと「革命の首脳部を決死擁護」する義務は繰り返し強調されている。

 

    この言葉にひっかかったのは、考えてみればなんてことはない、周辺国も「一号管理」をさせられているのではないかと思ったからだ。これまで金正日父子を守るため、カネやモノを出してきた。

 

    日米韓もかつて、核開発を阻止するために食糧支援をし、軽水炉型原発まで作りかけた。特に韓国は巨額のドルを差し出した時代もあった。その結果が「核保有国」である。中国はいまだに食糧や原油支援を続けている

 

    北朝鮮の住民が十分に食わせてもらえないのに、「一号管理」を強いられていると同様、周辺国も地域の安定を損なう存在なのに、結果として「一号」を存続させるために、北の言う「管理」を強いられたのである。

 

    勘ぐりついでにもう少し勘ぐると、最近の金正日のかつてない露出は、内外における「一号管理」をさらに推進するのが目的ではないか。金一族を大切にしないと大変なことになるぞということだ。

 

    一年間に2回も軍事パレード

 

    「偉大な金正日同志を首班とする党中央員会を死守しよう」(金永春人民武力部長)。金日成広場で行われた建国63周年の軍事パレード(9・9)は異例ずくめだった。

 

    北朝鮮での軍事パレードは、これまで5年か10年に一度だったが、今回は昨年10月の労働党創建65周年に大々的に行ったばかり。しかも建国記念日とはいえ63年という中途半端な年でもあり異例だ。

 

    また、前回は各軍の精鋭部隊や最新ミサイルも行進に加わり史上最大と言われたが、今回のパレードの主体は民兵組織の労農赤衛隊だった。それでも金正日・正恩父子が金日成記念堂の閲兵壇上に姿を見せた。

 

    壇上には、前回と同様、中国共産党の周永康政治局常務委員も並んで立ち、観覧席には、中国だけでなく各国の外交官や国際機関の職員の姿も見えた。もっとも、財布以外はカメラや筆記用具などは持ち込み禁止だったという。

 

    金正日の姿を1時間もナマ中継の異例

 

    さらに異例なのは、このパレードが朝鮮中央テレビやラジオで中継されたことだ。前回は一日経っての録画中継だった。金正日が登場する映像を同時中継したのは初めてかもしれない。

 

    金正日は行進する隊列に向かって右手を上げ答礼、金正恩は敬礼でパレードに応える姿が時々画面に登場し、パレードが終わり、壇上から引き上げる姿も放映した。

 

 

    8月の訪ロ・訪中も大宣伝

 

    そういえば、8月下旬の訪ロ・訪中の報道もかつてないほど早かった。首脳会談や工場などの視察の映像は、北朝鮮内でも翌日には放映された。今年5月の訪中までは、国境を越えて帰国するまで、公式発表や報道はなく、中国にもこの規制を強要していた。

 

    また今回、労働新聞は帰国直後、2日間にわたって数ページを使い訪ロ・訪中の特集を組んで、写真中心に報道した(8・29-30)。テレビも特集ビデオを繰り返し流している。さらに、平壌市内には訪ロ・訪中のコースを地図入りで紹介する看板まで立てられた。

 

    これまで、金正日については、公の場に姿を現すのが嫌いと言われてきた。かつては「朝鮮人民軍に栄光あれ!」以外の肉声が放映されることもなかった。また、いまだに演説する姿は公にされたことがない。

 

    これまで日時を特定しないのが通例

 

    金正日の動静についての報道は、現地指導が中心だが、日時については報じられたことはない。軍部隊については位置も特定しにくいのが通例だった。

 

    動静予告は一切なく、後になっても日時場所をはっきりさせないのは、テロを警戒してとも言われてきた。平壌にいる時も居場所を明らかにしたことはない。

 

    2004年4月、訪中から帰国した金正日の列車が通過した竜川駅で貨物列車の大爆発事故があった。金正日は自分を狙ったテロ未遂事件とみて身辺警護により神経質になったという。

 

    昨年10月のパレード以前、特定多数の人々の前に長い間姿を現すことはほとんどなかった。厳重な警戒態勢を続けてきた中で、今回の1時間もの同時中継はまさに異例中の異例だ。

 

    さらには、北朝鮮の報道はすべて検閲される。しかし、生中継では途中で中継を止めることはできても、検閲はできない。

 

    ちなみに、北のテレビが生中継をしたのは、かつてニューヨーク・フィルハーモニック公演、サッカー・ワールドカップ(W杯)南アフリカ大会の2試合の3回だけ(10・10聯合ニュース)。いずれも政治的に問題の少ない内容だ。

 

    不自由な体を押して指導する姿を誇示

 

    問題はなぜこの期に及んで、金正日が登場する生中継をするなど露出度を高める必要があるのかだ。
警備態勢が整い、テロの可能性が低くなったのではないだろう。独裁者は、時間がたてばたつほど疑心暗鬼を募らせるのが通例だ。

 

    ここは、従来のテロ警戒の態勢を幾分弱めても、首領様が外交内政両面にわたり先頭に立って汗をかいているところを人民に存在を誇示する必要を感じたのだろう。

 

    不自由な体を押してまでも国家・人民のため、外国にまで行ってがんばっている姿を見せた方が得策と判断したのだろう。

 

    それだけ、独裁体制維持について危機意識が強いということだ。来年の「強盛大国の大門を開く」目標も、三本柱の一つ民生経済が思うように進まず実現は極めて難しい。

 

    食糧は相変わらず「深刻な問題」

 

    特に食糧は、肥料不足、水害などが重なり、当局者も「深刻な問題」と認めているようだ。

 

    「強盛大国」に向けて、せめて目に見えるものをということか、平壌の「10万戸住宅建設」などに大車輪をかけている。このため市内は従来になく多くの大型トラックやダンプが行きかっているという。

 

    道路整備などに住民が大動員をかけられ、手作業で歩道を修理する姿があちこちで見られるという。大学生は全員勤労奉仕に駆り出され、今学年は授業なしという情報もある。

 

    しかし、住民に十分に食糧を配れないままでは、独裁体制への畏怖心は弱まり、権力世襲を歓迎する雰囲気は出てこない。また、市場の普及で「個」を意識し始めた人民も増えつつある。

 

    このままでは「一号管理」が危うくなる。金正日の露出度アップは、それを防ぐ意味も出てくる。

 

    さらには、権力世襲がらみの思惑も考えられる。三男への権力世襲を決めたが、権力移行の流れが速まるのを抑えるために、健在を誇示する必要がある。

 

    今回のパレードの際、閲兵のバルコニーで、金正恩は金正日から二人目ですぐ隣ではなかった。またテレビ映像の中で、金正日は一人で大写しされた画面が何度かあったが、金正恩を一人大写しする画面はなかったと思う。

 

    中ロにも「1号管理」を求める?

 

    また対外的には、金正日はここ一年半の間に3回も中国に行き、ロシアも8年ぶりに訪問した。この成果については明確ではないが、中ロは食糧支援だけでなく、様々な経済協力に乗り出している。

 

    ロシアは、北朝鮮の対ロ累積債務110億ドルの削減を受け入れたという情報もある。北朝鮮が求めた日本海での合同軍事演習も受け入れ、来年には実施されるという。

 

    中ロに対しても、首領様自らが出かけ健在ぶりを示して「1号」をおろそかにしてはだめだよというアピールが実った格好だ。

    果たして次はどんな姿を見ることができるか。