現代コリア

TOP     日本     韓国(大韓民国)     北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)     その他     コラム一覧     佐藤勝巳     岡林弘志     五味洋治     田中明     会社紹介      

「経済大国」以前に懸命の食糧確保
岡林弘志

(2011.8.16)

 

    北朝鮮は、来年「強盛大国の大門を開く」ためにひたすら走り続けている。しかし、最後の課題という「経済大国」「人民生活の向上」の実現ははるかに遠く、いまなお人々の腹を満たすこともままならない。こうした現状を取り繕うため、なりふり構わず、周辺国の支援をはじめとした食糧調達に励んでいる。ただ「恫喝」「瀬戸際」は相変わらず目に余る。

 

    「砲撃」か「発破の爆発」か

    この間の砲撃騒ぎはよくわからない。

    韓国国防部は、北朝鮮が黄海上の南北軍事境界線付近で二回にわたり合わせて5発の砲声を確認したと発表した(8・10)。このうち2発は、昨年11月に砲撃を受けた延坪島近くの北方限界線(NLL)付近に着弾したという。

 

    北朝鮮は、8月16日から始まる米韓合同軍事演習「乙支フリーダムガーディアン」について、かねて激しい言葉で非難し中止を求めてきた。警告のためにやったかと思われたが、北朝鮮軍事当局は翌日「建設作業の発破の音」と全面的に否定した(朝鮮中央通信)。

 

    これに対して、在韓米軍筋は、「2発はNLLの韓国側水域に落ちた」(8・12朝日新聞)と砲撃を認め、韓国軍も「疑念の余地はない」と再確認している。韓国軍が自信を持つのは、さる7月に“新兵器”を設置したからだ。

 

    これは、音響標的探知装置「HALO」だ。延坪島砲撃の際はレーダーがうまく作動せず、発射・着弾地点を正確にとらえることができなかった。これを反省して、購入したのが英国製の1基40億ウォン(約2億8千万円)のこの装置だ。同時に、1基120億ウォンの最新鋭対砲レーダー「ARTHUR」も導入した。

 

    これらの装置は、7月に延坪島や近くの白翎島に設置されたばかり。とくに「HALO」は音響を追跡するため、当日は深い海霧だったが、正確に捕捉できたという。したがって、韓国側には「北は新装置の性能を確かめるため、数発だけ砲撃したのではないか」という見方もある。

 

    米韓演習に対抗して燃料、食糧を費消

    真相は不明だが、北朝鮮が米韓軍事演習に神経をとがらせているのは間違いない。一つは言うまでもなく安全保障上、最新装備による演習を見せつけられたら心中穏やかでないからだ。北朝鮮は、黄海上の米韓演習に不快感を示す中国に合同演習を呼びかけたが、断られたという情報もある。

 

    もうひとつ、北朝鮮が米韓演習を嫌うのは、これに対抗して軍事演習をせざるを得なくなり、そうでなくともひっ迫している燃料、食糧を大量に消費することになるからだ。軍に対してこれらの物資を優先供給すれば、民生部門の燃料、食料はさらに足りなくなる。

 

    「人民生活向上」は遠ざかる

    昨年来、北朝鮮は「人民生活の向上」を当面の最重点目標にしている。「強盛大国」のうち、「思想(政治)」「軍事」は「大国」に達したが、経済部門とくに民生経済が大幅に遅れているからだ。

 

    しかし、事態は目標に近づいているかというと、むしろ反対だ。先にもふれたが、昨年の哨戒艦沈没、延坪島砲撃を受けて、米韓による大掛かりな軍事演習が繰り返し行われ、北朝鮮軍も対抗上何回となく演習を行い、燃料と食糧を使い果たし、民生経済を圧迫している。

 

    また、ようやく兆しが見え始めた米朝関係改善を有利に進めるため、核・ミサイルの開発、とくに米国が神経をとがらせるウラン濃縮に資材、資金、労力を注ぎ続けなければならない。最大の“カード”としても使えるからだ。

 

    その上、来年の金日成生誕百周年を祝うため、神格化作業、記念事業にも力を入れざるを得ない。いわば、非生産的な部門への巨額の投資が引きも切らないのである。

 

    さらに悪いことには、今年も大水害に襲われた。朝鮮中央通信も時々水害報道をしている。韓国統一部の分析によると、6、7月に三回の豪雨に襲われ、770平方キロメートルの農耕地が浸水、このほか炭鉱が浸水、通信網の寸断、橋の流失などの損害が出た(7・29)。

 

    農耕地の浸水は、これだけで昨年の約1・4倍に上るという。この後も台風9号(8・7-8)が黄海を北上、黄海南北道が大きな被害を受け(朝鮮中央通信)ており、被害は例年を大きく上回るのは間違いない。要するに、来年の大祝祭年に向けて、食糧事情はむしろ悪化の一途をたどっているのである。

 

    外交も食糧調達に動員

    このため、北朝鮮はなりふり構わず食糧調達に乗り出しているようだ。最近の動きをみると、激しい李明博政権非難を続けてきたにもかかわらず、インドネシア・バリ島で行われた東南アジア諸国連合(ASEAN)の会議の際、韓国側と会談をした(7・22)。

 

    これは、北朝鮮が接触を求める米国が「まず南北対話を」と主張しているからだ。これを受けて、ニューヨークで米朝接触が行われた。米側はウラン濃縮計画をはじめとする核開発計画の中止などを求めたが、北朝鮮は拒否した。

 

    何の成果もなかったが、北朝鮮代表の金桂冠第一外務次官は「今後も対話を継続し、連携していく」と機嫌が良かった。表向きは、朝鮮戦争休戦協定を平和協定に移行させるのが目的だが、本音では経済制裁解除の足がかりを作ったと判断したからだろう。

 

    それ以前に、対話を始めることで、人道支援への道筋を開いたと見たからだ。米国でも人道支援の話がくすぶる。韓国との対話についても、韓国側が求める核問題の協議はする気はないが、対話の座に着くだけで、人道援助を許可せざるを得なくなると踏んでのことだ。

 

    実際に、韓国政府は、大韓赤十字に対して、北への水害支援を許可し、50億ウォン(3億5千万円)相当の乳幼児用栄養食、菓子を贈ることになった(8・10)。格好だけの対話でも効果があったのである。食糧確保のためには、当面の外交方針を曲げるなどはさしたることもないのだろう。

 

    国際価格の上昇で食糧買い付けに困難

    外国からの食糧買い付けにも力を入れている。北朝鮮貿易相は北京の北朝鮮大使館に周辺国駐在の経済関係外交官、貿易関係者を集め、9月末までに決められた量の食糧を確保するよう指示したという(7・8)。

 

    北朝鮮は、昨年末にも5千トンの食糧調達を海外公館や駐在員に指示したが、外貨不足で実現できなかった。今回も外貨事情はさらに悪化しており、目標達成は難しそうだ。

 

    また、中国からの食糧輸入は、上半期(1~6月)、価格で14%増えたが、国際価格があがっているコメと大豆の割合は減り、トウモロコシなど比較的価格の安いものの割合が増えたという(8・14聯合ニュース)。

 

    外貨不足の中、少しでも全体量を増やすことに腐心しているのだろう。しかし、地球規模の異常気象で穀物の国際価格はさらに上がりそう。食糧入手はさらに厳しさを増しそうだ。目標未達成となれば、また中間の責任者の処刑・粛清もありそうだ。

 

    「先軍政治」と「人民生活向上」の矛盾

    それにしても、食糧を確保するならするで、もう少しうまいやり方がありそうだが、対話を通じてやるのか、強面でやるのか、手段が錯綜してわかりにくい。というより、一貫性がなく、とりとめがない。

 

    かなり前に、金正日総書記は、下から相矛盾した政策や提案が上がってきてもすべてサインをしてしまうので、現場は困っているという分析があった。最近の北の外交政策、対韓政策を見ると、対話に傾いたと思ったら、軍事緊張を高めたり、そうした動きが時間をおかずに現れたりと、わかりにくい。

 

    特に、延坪島砲撃に見るように、軍事面での強硬姿勢が目立つ。その結果、韓国や周辺国との関係はより厳しくなり、支援獲得に支障をきたす。金正日の統治方式である「先軍政治」の現れともみえるが、かつてのように脅しは効かなくなっている。経済協力も含めて外交的にマイナスなのは間違いない。

 

    もともと「先軍政治」と「人民生活の向上」は、矛盾する。両立しえない。「経済大国」そして「強盛大国」への道は、まさに「苦難の行軍」である。