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写真偽造は日常のこと
岡林弘志
(2011.7.25)

 

    北朝鮮が水害写真を偽造して、世界に発信した。この国で、文化芸術から報道などは表現する権利は独裁体制を維持強化し、宣伝するための道具にすぎないことを象徴している。時には、自然現象までが金一族を讃えるために利用される。従って、写真ぐらいでは驚かないが、人道支援を得るため偽造するとは何ともいじましい。

 

    水害写真を配信して翌日取り消し

    「水害写真は偽造されたもの」「水害写真に加工疑惑」

    韓国の日刊紙は一斉に、一面ででかでかと北朝鮮の水害を伝える写真が偽造だったことを、当の写真付きで伝えた。(7・19)。

    この写真は、朝鮮中央通信が15日に撮影し、16日にAP通信の平壌支局に提供したもので、直ちに世界に配信された。しかし、APは「デジタル技術で加工した」と判断、翌17日に契約各社に削除を通知した。

 

    このころ、北朝鮮が水害に見舞われたのは間違いない。天気図を見ても梅雨前線らしきものが発達している。朝鮮中央通信も「朝鮮各地に12日から15日に降った大雨で被害が発生した」(7・16)と報じた。

 

    農地の被害は「約1万5000町歩」また、「家屋が崩れ、人命被害が発生」「道路が崩れて交通が遮断された」という。北朝鮮は山を畑にするなど治山治水の反対を続けてきたため、山河は荒れ、毎年恒例行事のように水害が発生している。

 

    大被害を受けた90年代後半から被害状況を外に向けて公表しているが、かねて支援をより多く受けるため、被害を水増ししていると見られてきた。それに加えて、今回の偽造写真である。北朝鮮の数字に対しての信用度があらためて失墜したのは間違いない。

「朝鮮中央通信からAP通信経由で配信された
大同江沿岸の水害写真(日本の新聞を複写)」

 

    北朝鮮に利用されたAP平壌支局

    ここに登場したAP通信であるが、6月末に平壌支局開設を発表したばかりだった。朝鮮中央通信と覚書を交換し「北朝鮮内のAP取材網を保障・拡大し、AP通信は朝鮮中央通信の映像を国際社会に独占配給する」ことになった。

 

    平壌には西側メディアとしては、日本の共同通信が06年9月に支局を開設したが、特派員は常駐していない。これに比べるとAP通信への待遇は契約通りなら破格である。

 

    ただ、おそらく最初の方の仕事だった水害写真を「独占配給」したところが、偽造と判明し取り消しをせざるを得なかった。AP社長は「朝鮮と世界を理解するための門を開いた」と胸を張ったが、信用が財産である通信社としては最初から顔に泥を塗られた格好だ。

 

    国交ない国への支局開設は冒険
    かつて、報道機関の常駐特派員は国交樹立に伴う外交案件として処理されてきた。西側諸国としては、身の安全と報道の自由を確保するため必要だったからだ。しかし、報道機関、とくに国際的な競争にさらされる通信社は一刻も早く空白地帯に取材拠点を設けることに腐心する。

 

    北朝鮮については、90年代から日本の全国紙、通信社、放送局が平壌支局開設を盛んに働きかけた。このため、最新の機材を北朝鮮側に寄付したり、特別な取材をする名目で巨額の取材費を払った。

 

    結果は、共同通信だけが支局開設を許可された。しかし、取材が自由にできるわけではない。特派員は1、2カ月に一度平壌を訪問するだけ。普段は北朝鮮当局が紹介した助手が取材、送信することになっているようだ。

 

    むしろ、支局を作ったために、北朝鮮に都合の悪いことは書けなくなってしまった。送信できるのは北の公式発表だけ。これでは、支局の家賃、助手の給与などなどかなり高額な経費を払いながら、国外にいて朝鮮中央通信を読むのと変わりがない。

 

    というより、他の報道機関やジャーナリストは、中朝国境辺りでの取材によって、北朝鮮の体制に都合の悪い情報も拾うことができ、かえってふくらみのある北朝鮮報道ができる、という皮肉な現象も起きている。

 

    社会主義国での取材は、多くの制約を受ける。経済に資本主義を取り入れた中国ですら、共産党や体制批判の動きを取材するのは容易なことではなく、さらには金正日訪中の際などの際の直接取材は一切許されない。周辺取材をしていて拘束された特派員さえいるくらいだ。

 

    まして、「先軍政治」を掲げる北朝鮮では、取材の自由は一切ない。北へ行く機会があっても、すべて当局お仕着せのコース、場所、人物に取材できるだけだ。AP通信はしてやったりと、勇躍平壌へ乗り込んだが、まんまと北朝鮮に利用された。

 

    「フォトショップ」で簡単に写真偽造

    さて、偽造写真だが、北朝鮮では日常茶飯事だ。記憶に新しいところでは、金正日が08年夏に脳卒中で倒れ、現地指導を再開した時の写真が偽造だった。金正日と周りの軍人の影の向きが違っていた。また、初冬だというのに背景の草木が青々しているという写真もあった。

 

    韓国各紙は、偽造写真の例をいくつも列挙している。北の写真誌「朝鮮」10年10月号の元山海水浴場、各グループとも同じ格好の人間が泳いでいた(朝鮮日報)。労働新聞(6・13)の高山果樹農場の写真では、トラクターは明らかに張り付け、畑に植えられた果樹の列は3か所ほど全く同じ(中央日報)。

 

    かねて、写真偽造は行われてきたが、最近はデジタル時代とあって、例えば写真加工・整理のソフトである「フォトショップ」を使えば、素人でも簡単にマウスの操作で写真をいじることができる。かつては写真そのものを切り貼りするなどある程度の器用さが必要だったが、こうした技術を最大限に利用して、都合のいい写真に作り替えている。

 

    もともと、全体主義、独裁主義の国では、表現の自由はない。芸術も報道もすべての表現活動は、独裁者や体制を擁護、称賛、宣伝するためにある。時には自然現象ですら、独裁者を讃えうる道具に使われる。北朝鮮では、金親子の威力を示すために突然豪雨が止んで晴天になり、太陽に二重の虹がかかり、真っ白な鯛が漁船に飛び込んできたりする。

 

    体制に不利なら事実隠蔽も

    さらには、体制のためにならないとなれば、事実そのものを隠してしまうことすらする。つい最近の中国の新幹線脱線事故は(7・23)その標本を見せてくれた。中国当局は、追突脱線した先頭車両を事故直後にパワーシャベルなどで粉々にして近くの農地に穴を掘って埋めてしまった。

 

    当局は「危険回避の緊急措置、救助作業を円滑に進めるため」と釈明したが、これを信じる人は誰もいない。しかも、一日半で線路を修復し、運転を再開させた。現場や証拠は意識的に消されてしまった。当局は「原因は落雷のため」とだけ公表したが、これでは原因究明はほぼ不可能だ。

 

    この新幹線は中国共産党創立90周年を大々的に祝う「目玉プロジェクト」。「中国の最新技術の結晶」と宣伝してきた。しかし、実際は日独、カナダの技術の寄せ集め、ただ、自動列車制御装置(ATC)だけは国産だったが、これがまったく作動しなかった。

 

    全体主義、共産主義の国にとって、体制あるいは指導者は絶対に間違いを犯さない(無謬性)ことが必須要件。人民の生命・財産・生活は、二の次、三の次の課題でしかない。今回の事故はこうした体制の本質を図らずも白日のもとにさらした。

 

    中国共産党にとっては、恥を満天下にさらす結果となってしまった。大宣伝は完全に裏目に出たのである。不名誉は隠すに限る。というわけで、証拠隠滅、臭いものにはふたをしたということだろう。

 

    北朝鮮でも、時に列車事故の情報が漏れてくるが、公表されることはない。人工衛星と称するものを打ち上げ、西側諸国は失敗と見たが、1年後も金正日を称賛する音楽を流しながら地球の周りを飛行しているという報道もあった。

 

    こうしてみると、北朝鮮の写真偽造などは初歩的な宣伝活動である。我々はそうした独裁体制の病弊をよく知っておく必要がある。