現代コリア

TOP     日本     韓国(大韓民国)     北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)     その他     コラム一覧     佐藤勝巳     岡林弘志     五味洋治     田中明     会社紹介      

成果なかった大名行列の中国詣で
岡林弘志
(2011.5.31)

 

    1年間に3回――金正日総書記の中国訪問の回数は異常だ。来年の「強盛大国」を控えて、経済立て直しがうまくいかないため、できるだけカネとモノを手に入れようとする焦りの表れか。中国側はかねて求めてきた「改革・開放」を進めないことへの不信感が強く、せっかくの中国詣ではうまくいかなかったようだ。

 

    時代錯誤の“お忍び”

    相変わらずの時代錯誤だ。特別列車、パトカー先導の4、50台の自動車の列、行く先々と道筋の異常なほどの警戒態勢……。延べ5000キロ(図門―長春―瀋陽―揚州―南京―北京―丹東)、6泊7日の“大名行列”をしながら、お忍び扱いにというのは、どだい無理な話だ。

 

    5月20日から26日までの中国訪問が、中朝両政府から公式発表されたのは、いつものように最終日だった。テロなどを恐れる北朝鮮側の要請によるものだ。しかし、この情報化社会、付き合わされる中国側はうんざりしているのか、日中韓首脳会談で日本訪問中の温家宝首相は、22日の李明博大統領との会談で、早々と金正日訪中を明言した。

 

    また、新華社系の時事専門紙「国際先駆導報」は、26日付で公式発表の前に「経済視察の旅」と工場視察などを詳しく報道した。揚州や南京訪問(5・22-24)の最中には、上海のテレビが日韓の報道を引用して伝えた。当局も取り締まることのばかばかしさを感じているのだろう。

 

    それだけでなく、中国で急速に広がる「微博」と呼ばれる簡易型ミニブログには金正日が載ったリムジンなどの車列の動画、行く先々のホテルや工場での目撃情報が寄せられ、さながら「生中継」が続いた(5・23東京新聞)。いつまでも時代錯誤につき合っていられないということだ。

 

    中国側9人、北朝鮮4人で主脳会談

    「両国関係のさらなる発展について虚心坦懐に意見交換し、完全な見解の一致を見た」

    朝鮮中央通信(5・26)の中朝首脳会談について発表は、経済協力などの具体的な言及はなく極めて抽象的だ。北朝鮮が求める食糧やエネルギーの援助強化や経済・開発協力について、満足する対応がなかったからだ。

 

    それを象徴するのが、北京で開かれた首脳会談だ(5・25)。中国側は胡錦禱主席をはじめ習近平副主席、それ経済閣僚ら9人が顔をそろえた。これに対して、北側は金正日総書記ら4人だけ。しかも姜錫柱副首相、金永日国際部長、金桂寛外務次官と外交関係者だけ。

 

    今回も同行した金正日の妹婿、張成沢国防委員会副委員長は同席しなかった。張は外資導入、経済協力関係を統括するというのにである。昨年8月、吉林省長春での首脳会談では双方9人ずつ出席していた。今回は明らかに北朝鮮側の不快感の表明だろう。

 

    中国は口ばかりの「改革・開放」に不信感

    原因は、首脳会談に先立つ金正日・温家宝会談にある。これには張成沢も同席し、経済協力、支援が議題だった。新華社通信によると、金正日は「両国の経済協力に新たな局面を切り開く」よう強く求めた。要するに中国共産党・政府主導での支援強化を求めたのである。

 

    しかし、温家宝は「通常の業務システムに従って行わなければならず、地方政府と企業の積極的な姿勢を引き出す必要がある」と応じた。要するに経済協力というからには、東北3省や民間企業が投資や技術協力の意欲が出るように努力をしろ。採算がとれない、施しのような協力はダメ、ということだ。

 

    温家宝は、李明博との会談でも、金正日訪中について「中国の発展状況を理解し、自国(北朝鮮)の発展に生かしてもらう機会になるよう招請した」と説明している。昨年5月の訪中の際にも金正日に直接「中国の改革・開放の経験について紹介したい」と率直な希望を伝えた。

 

    「中国共産党の改革・開放政策が正しいことが理解できた」

    金正日は、揚州、南京などで太陽光発電や液晶などのハイテク工場、大型スーパーを見学したあとで改革・開放を評価した。(新華社のみ、朝鮮中央通信は伝えてない)。昨年5月の訪中でも「四年ぶりの訪中で、中国の発展の成果を目の当たりにした」と称賛している。

 

    「天地開闢以来の偉大な変化は中国共産党の改革・開放政策が正しかったことを証明している」。こちらは2002年1月、金正日が上海のハイテク工場などを見学した時の談話である。

 

    それから10年経つが、金正日の改革・開放への関心と理解は口ばかり。経済立て直しについて「自立更生」路線を強調し、改革・開放を進める気は全くない。中国の北朝鮮への不信感は強まる一方だ。

 

    中朝大プロジェクトの起工式延期

    一方、金正日の訪中に合わせて行われるはずだった中朝国境にある鴨緑江下流の黄金坪島開発と豆満江下流の羅津経済特区開発の起工式が突然中止された。この二つの事業は、中朝共同大型プロジェクトであり、経済協力の象徴的な事業だ。

 

    中止の理由は公表されていない。いくつかの情報によると、中国側は日本海の出口になる羅津開発の方に魅力を感じ、先行させたい意向が強い。これに対して、黄金坪島の方は中洲で地盤が軟弱なため工場団地にするには巨額の投資が必要になり、消極的。これに北朝鮮側が不快感を示し、中止になったようだ。

 

    いずれにしても、中国側は資本の論理に合わない経済協力はしないという方針を鮮明にしつつあるようだ。胡錦禱は金正日に「互いに利益となる経済協力にしよう」と述べたという。

 

    なお、首脳会談では「(核問題は)六カ国協議再開など対話を通じた平和裏の解決を追求する」ことで合意した。北としては対話ムードを先行させて国際社会からの食糧支援などを引き出す思惑からだろう。

 

    しかし、口で「平和裏」と言いながら、韓国を砲撃したままでは、日米韓は応じるわけにはいかない。この面でも、北が思うような進展はなかった。

 

    まだ息子には任せられない

    もうひとつ、今回の訪中で注目されたのが、金正恩への権力世襲問題である。韓国の情報当局は、はじめ訪中したのは金正恩と推測したが、外れた。ただ,金正日は首脳会談で繰り返し、世襲の容認を求めた。

 

    「友好のリレーバトンを一世代一世代と引き継いでいかなければならない。私達の重大な歴史的使命だ」。

    これに対して、胡錦禱も「中朝友誼を世世代代続けていくべきだ」と答えた。朝鮮中央通信は、このあたりを丁寧に伝えている。北にとってはこれが唯一の成果だったのかもしれない。

 

    金正恩が昨年9月末に事実上の後継者として登場してから初めての訪中であり、中国側の権力世襲容認は、それなりに意味があるのだろうが、同じようなやり取りは、昨年8月の金正日訪中の際にも行われている。中国側には織り込み済みの話だ。

 

    また、金正恩が人民の前に姿を現した昨年の労働党創建65周年(10・10)の軍事パレードでは、中国共産党の周永康政治局常務委員が、金正恩に寄り添うように主席壇上に登場して、事実上の“容認”を内外に誇示している。

 

    中国はかねて、金正恩の訪中を求めているといわれたが、今回、金正恩を国内に残して、金正日が行ったことの方が、北朝鮮の権力の現状を見るのには面白いかもしれない。やはり、金正日は依然として最高権力を握っていることを内外に知らしめる必要があるのだろう。

 

    さらには、金正恩を一人で中国へ送り出すには頼りないと感じているのか。したたかな中国を相手に、へたな約束でもさせられると困るという心配もあったのかもしれない。

 

    先の最高人民会議(4・7)で、金正恩の処遇が注目されたが、後継者となるための党政治局や党書記局における職責には付けなかった。依然として、党中央軍事委員会副委員長という肩書だけだ。

 

    それに、後継者を正式に決定すれば、権力に近い層は一挙にそちらに傾き、去る者は急速に権力を失う。金日成人脈と長い間戦って権力を握った金正日にはよくわかっている。

 

    初のファーストレディのお披露目(?)

    なお、日本の新聞はあまり伝えなかったが、今回の訪中には、第四夫人といわれる金玉(46)が同行したようだ。南京の液晶工場を見学した際、金正日が下りたリムジンの反対側のドアから鮮やかな黄緑の上着に黒のスカート、白いハイヒールの女性が下りた。警護員も丁寧に頭を下げており、VIP扱いだった。

 

    また、胡錦禱主宰の歓迎夕食会(5・25)には、メーンテーブルに女性が座っており、韓国のメディアは、これも金玉とみている。となれば、初めてのファーストレディのお披露目になる。69歳の金正日にとっては元気なところを誇示することになったのではないか。

 

    国内に残った金正恩は、特別列車で帰国した金正日を新義州で出迎えた。平壌に帰り着いた二人は、訪中の成果を祝賀する朝鮮人民内務軍協奏団の音楽舞踊公演を観覧し、観客は大声で「マンセー」繰り返し、祝福した(5・29朝鮮中央通信)。

 

    金正日の訪中は2000年以降7回目だが、こうした催しは初めてだ。具体的な成果が見えない中、中朝友好を人民に誇示する必要があったのだろう。