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北朝鮮のサイバー攻撃が物語る、新たな中朝関係
五味洋治
(2011.5.30)

 

    北朝鮮の金正日総書記は5月27日、特別列車で北朝鮮側に入り、1週間にわたった訪中を終えた。

 

    20日に中国の図們市を通る別のルートで中国入りし、吉林省や江蘇省、北京などを視察した。胡錦濤国家主席や温家宝首相らと会談し、ようやく26日午後に北京を出発して帰国した。総旅程5000キロもの長旅だったが、今回ほどメディアの扱いが小さかった訪中も珍しい。

 

    震災や原発問題があったこともあるだろうが、もう、総書記本人に関心を持っている人は多くない。いくらハイテク企業を訪問しようが、長年、中国の改革・開放路線を否定してきた人間が変わる訳がない。以前より、もっと頑固になっているはずだからだ。経済視察もポーズ、中朝友好もポーズ、何も劇的なことは起こらない。みんなそれを知っている。

 

    外交的に大きな成果を残したのかといえば、それもなかった。胡主席との会談では、合意事項は少なく、金総書記が6か国協議再開に意欲を示した程度だった。延々と旅行して、6か国協議のことしか議題にならなかったのか。私はそうではないと見ている。

 

    金総書記は2012年、北朝鮮が強盛大国入りを目指す来年に向けて、中国側から経済協力や、経済支援についての確約を取りたかったはずである。しかし、会談を報じる中国・新華社のニュースにはそれらしい部分がない。

 

    経済担当の温首相も、金総書記に対してこう言っているだけだ。具体性がない。

 

    温家宝氏は会見の中で次のように述べた。中朝の友誼を固め、発展させることは中国の党と政府の確固とした揺るぎない方針で、両国と両国人民の根本的利益にかなっている。近年、中朝はハイレベル交流が緊密で、戦略的意思疎通が強まると同時に、経済・貿易などの分野の実務協力を推進し、両国の経済建設と民生改善を促している。中国は朝鮮と共に、各活動の仕組みの役割を生かし、地方と企業の積極性を一層引き出し、計画、協調を強め、互恵協力をより高いレベルに進めることを願っている。(新華社)

 

    頼みの綱の中国が冷淡な時、北朝鮮は過激な行動に走る。ミサイル発射や核実験だ。ところが、この1年間、北朝鮮は鳴りを潜めている。過激な行動を抑え、韓国との対話を粘り強く求めている。

 

    それがなぜなのかを示唆する記事を、私は香港の月刊誌の記事の中に見つけた。「動向」の2010年12月号だ。この雑誌は、中朝関係について深層に迫るレポートを掲載することで知られる。

 

    謝效茅という人が書いた文章で、「中共網絡超限戦呼之欲出」というタイトル。中国のサイバー空間コントロールやサイバー攻撃技術の実態を暴いている。

 

    簡単に書くと、中国はサイバー空間支配やサイバー攻撃が、自国の少数民族封じ込めに有効であり、武器の水準ではかなわない米国にも脅威を与えられるとして、熱心に研究しているというのだ。

 

    このサイバー攻撃には世界最速と認定された中国のスーパーコンピューター「天河1号」が使われている、と指摘している。

 

    天河1号は米インテルなどから調達したプロセッサを使用しているが、多数のプロセッサを結合し高速で動作させる技術は中国独自のもので、そのレベルは極めて高いと報道され、当初から軍事利用の危険性が指摘されていた。

 

    このスパコンを生み出したのが、中国国防科技大学。人民解放軍の傘下にある大学である。1966年まで軍事工程学院と呼ばれていたことからも分かるように、軍事技術の研究を行っている。

 

    中国のサイバー攻撃といえば、米中経済安全保障検討委員会(U.S.-China Economic and Security Review Commission:USCC)が発表した2009年の米連邦議会向け報告書にも出てくる。

 

    報告書は、中国政府、中国共産党、中国の個人や組織が、米国などの国のコンピュータシステムやネットワークへのハッキングを続けているとしている。

 

    さらに「近年目立っている中国を拠点としたコンピュータの悪用には、あるレベルでの国家的な支援があると思われる」と記している。

 

    原文は以下のアドレスで見ることができるので、参照してほしい

    http://www.uscc.gov/annual_report/2009/09_annual_report.php

 

    中国のサイバー攻撃の能力を書くことが本稿の目的ではない。

 

    実は、中国が、北朝鮮の要員にサイバー攻撃の技術を北朝鮮に移転しているのではないか、ということだ。

 

    前出の「動向」誌によれば、「北朝鮮は最近、まとまった人数の科学技術担当者を、中国の国防科技大学に送り込み学習させている」(17p)という。

 

    同誌は、中国が北朝鮮の軍事戦略の転換を求め、サイバー戦争も、北朝鮮が目指す「先軍政治」になると説得していると説明する。

 

    この狙いについて(1)サイバー戦争技術は、核やミサイルよりカネがかからず、結果的に中国が支出している北朝鮮への経済支援を減らせる。(2)中国がサイバー攻撃技術を北朝鮮に教える過程で、秘密裏にある種のシステムを北朝鮮内部に設置することが可能。それは北朝鮮が戦争を起こすための系統や核武器のボタンを押しても、発射できなくする暴発防御システムだ-。

 

    この主張を裏づけることは容易ではないが、確かに北朝鮮は、韓国にサイバー攻撃を仕掛けるケースが目立っている。

 

    米国のFOXニュースは5月17日、「北朝鮮はハッキングなどサイバー戦争を繰り広げる特殊部隊3万人を育成中で、こうした 『サイバー戦士』の能力は米中央情報局(CIA)と互角だ」と報じた。

    http://www.foxnews.com/world/2011/05/17/north-koreas-cyber-army-gets-increasingly-sophisticated/

 

    報道によると、北朝鮮は金正日総書記が数年前に「現代戦の勝敗は電子戦にかかっている」と述べて以来、サイバー戦の能力向上を最優先課題として推進しており、北朝鮮当局は最も優秀な大学生を選抜し、サイバー戦のプログラムを開発する「秘密の学校」に送り込んでいるという。

 

    北朝鮮側は否定しているが、最近韓国の農協の電算システムがダウンする障害が起きた問題について韓国統一部の李種珠副報道官は5月4日の定例会見で、北朝鮮の仕業だとし、民間金融機関の電算網へのハッキングなど無分別なサイバーテロを直ちに中止するよう求めた。

 

    経済面で追い込まれている北朝鮮は、中国の指示に従ってサイバー攻撃にシフトしている可能性は高いといえる。経済だけでなく、軍事面でも中国への依存を高めているのかもしれない。