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手詰まりで独り相撲
(2011.5.16)
岡林弘志

 

    北朝鮮が再び、韓国の李明博大統領を「逆徒」と呼び始めた。今年初めから、韓国に対して対話攻勢をかけていたが、効果が上がらないための焦りだ。瀬戸際外交や軍事緊張を高めて対話を始め、カネとモノを手に入れる常套手段は、周辺国に見透かされ、うまくいかない。また悪さを始める可能性もあるが、「独り相撲」の感もある。

 

    「無条件対話」は「善意の提案」

    「李明博逆徒は我々の気質と現実をまともに見てふざけてはならない」

    北朝鮮の祖国平和統一委員会(祖平統)は、報道官談話(5・11)を発表し、李明博を何回も「逆徒」と呼びながら、いつもの口汚い調子で非難した。

 

    李大統領は、欧州歴訪中ドイツに立ち寄った際に記者会見(5・9)して、「北朝鮮が非核化に合意すれば」という前提で、「来春ソウルで開く第2回核安全保障サミットに、金正日総書記を招待する用意がある」と表明した。もちろん、哨戒艦沈没と延坪島砲撃への謝罪は大前提だ。

 

    祖平統が今回非難した理由は、「前提条件を付けて対話を拒み、わが方の善意と最高尊厳に挑戦する行動に出た」からだ。

    ここで「善意」というのは、先にカーター元米大統領が訪朝した際、金正日が大統領あてのメッセージを託し(4・28)、「すべての当事国と無条件で交渉し、李大統領といつでも会ってすべての議題を議論する用意がある」と表明したことを指しているようだ。

 

    要するに、北朝鮮はせっかく「無条件」で対話をしようと言ってやったのに、条件を付けるのはけしからん、という理屈だ。しかし、昨年11月に延坪島を砲撃しておいて、無条件でというのは謝罪をうやむやにということを意味する。虫がよすぎる。

 

    カーターは子どもの使い以下

    こんな言い分は、国際的には通じない。北朝鮮に外交常識があるとは思っていないが、それに載せられたカーターも米朝関係打開の橋渡しで手柄をという思惑を見透かされ、片棒を担がされただけだ。

    カーターは、国際人道グループ「エルダーズ」のメンバーとして、訪朝(4・26-28)し、朴宣春外相らと会談したが、希望していた金正日との会談は実現せず、メッセージだけを託された。

 

    さらに、帰りにソウルに寄り、メッセージを李明博に伝えようとしたが、こちらの会談も断られた。腹を立てて、内容を政府には直接話さず報道陣に明かした。これでは、子どもの使いにもならない。

 

    韓国は「南北首脳会談をやりたければ、北が我々に直接言えばいい」(金星煥外交通商相)と、当然ながらにべもない。

 

    話を祖統委に戻すと、談話の中では「わが方はこれまでの立場を考慮せざるを得ない」とも言っている。おそらく年初からの対話・交流の呼び掛けを止めて、再び対決姿勢に転ずるぞと脅しているのだろう。

 

    今年元旦の共同社説で「北南間の対決状態を一日も早く解消すべきだ」と表明したのに続いて、政府・政党・団体が連合声明を出し、無条件の当局間対話を提案した。祖平統も南北赤十字会談、金剛山観光再開や開城工業団地に関する会談を2月上旬までにと、あわただしかった。

 

    こじつけの対話提案も

    しかし、「まず謝罪」をという韓国が応じるはずもなく、3月からは、東日本大震災を念頭に「白頭山火山学術会議」や、さらには日本海の呼称表記に関する歴史学者会議なども提案した。「小手先」というか、こじつけとしかいいようがない。

 

    対話の目的は、前にも書いたが、韓国のカネとモノだ。来年の「強盛大国」実現に向け、自立経済の立て直しで、人民の食・生活を改善しようとしたが、うまくいかない。それを補うためだ。このままでは、金正恩への権力世襲も思うように進まない。

 

    今回の対話攻勢は失敗した。北朝鮮は、いまだに金大中・盧武鉉時代が忘れられないようだが、何をされてもひたすら食糧や肥料、それに現金を出し続けるような、北朝鮮にとって「良き時代」は再び来ない。横面をひっぱたかれても、貢物を差し出すほど、韓国も人はよくないだろう。

 

    繰り返し「サイバー攻撃」

    一方で、北朝鮮はあい変わらず、韓国と話をするのに、対話より脅しの方が効果があるという思考方式から抜け出せないようだ。哨戒艦撃沈と延坪島砲撃は、その表れだが、ここ2,3年力を入れているのが対南サイバー攻撃だ。

 

    ソウル中央地方検察庁は、4月に発生した農協中央会の現金自動支払い機(ATM)の使用不能などの電算システム障害を「北朝鮮によるサイバーテロ」と断定、発表した(5・3)。

 

    このほか、2009年7月と今年3月にも政府機関などへのサイバー攻撃があったが、これも北朝鮮の仕業と見ている。3月の方は、青瓦台や外交通商省など29の政府機関のウェブサイトが麻痺。ソウル周辺の全地球測位システム(GPS)の受信障害も生じて、これには国際民間航空機関(ICAO)も北朝鮮の犯行と断定し抗議している。

 

    北朝鮮は80年代から人民軍にハッカー部隊を設置し、百人単位の専門家を育ててきた。証拠を残さずに、韓国を混乱に陥れ政権を揺さぶる有力手段と位置付けているようだ。しかし、ハッカー退治の技術も進んで犯人の特定もかなり可能だ。北朝鮮の思惑通りには進まない。

 

    ケシの栽培面積15倍に

    また、非合法な外貨獲得手段もいろいろと使ってきた。このところ偽ドル札のうわさはほとんど聞こえてこないが、アヘンには相変わらず力を入れているようだ。米国のFOXテレビは、北朝鮮のアヘン生産が増えていると報じた(朝鮮日報5・12)

 

    人権団体アムネスティ・インターナショナルが公開した咸鏡南道の耀徳政治犯収容所の航空写真を専門家が分析した結果、収容所周辺でのケシの栽培面積が十年前に比べ、約15倍の13万平方㍍に拡大していることが分かった。年間収穫量は10億ドルとみている。

 

    専門家は、最近ミサイルなどの武器輸出が制裁で困難になり、麻薬栽培に一層力を入れている。さらに取り締まりの強化から国際的な麻薬価格も急騰しており、外貨獲得の有力手段であり続けていると分析する。

 

    したたかというより哀れ

    振り返ってみれば、北朝鮮は90年代半ば、金正日の治世になってから、慢性的な食糧不足に襲われている。水害などもあったが、そうでない年も不足は解消されない。農業政策の失敗、自ら国際的な孤立を招く外交など、この体制の構造的な欠陥と見るしかない。

 

    その食糧不足分は、韓国をはじめとする周辺国からの支援に頼ってきた。時には「瀬戸際・恫喝」というおぞましい手法を使って。また、経済制裁が続く中、極端な外貨不足に陥り、これも韓国からの現金獲得や不正手段によって補ってきた。

 

    こうして生き残りを図る北朝鮮のやり方を「したたか」と評する向きもあるが、あまりに非常識で、何とも哀れなことである。

    韓国に支援を頼むなら、それなりの話の持っていき方があるのに。