また、これまでは資材や、燃料の取り合いが激しく、結局軍需産業が最優先され、民生経済を衰退させた苦い経験がある。同時にノルマ達成を金科玉条にしたため、虚偽の報告をしたり、収穫物や製品の中身をごまかしたり、という弊害が社会主義各国で見られ、崩壊の原因にもなった。こうした教訓は生かされているのか。 「三代目」が盛んにテレビに登場 「強盛大国」の2012年のもう一つの目標は、金正日後継体制の確立だろう。労働新聞などは明言していないが、金正日の健康不安が消えないなかで、金正恩・労働党中央軍事委員会副委員長への権力継承に目途をつけるのは必須条件だろう。 「不世出の領導者を迎えたわが民族の幸運」 「青年大将同志は英知と識見、神秘の判断力と無比の胆力を持つ」 北朝鮮の地域での有線放送も含めて各種メディアは、金正恩の「偶像化」を展開し始めた。とくにテレビでは10・10軍事パレードの閲兵や現地指導の様子を放映している。 また、各職場や地域での学習でも、1年以上前から金正恩がいかに優れた人材であるかの教育が行われているようだ。こうした光景や事情は、旅行者には見せてくれないし、説明もなかったが、さまざまな形で漏れてくる。 韓国の聯合ニュースは(10・12)、咸鏡北道で使われた「農民扇動資料」を紹介している。金正恩は08年12月に黄海北道・沙里院の協同農場を金正日と訪れた際、標準肥料表の間違いに気が付き、新たな微生物肥料を提示した。これに従うと、翌年は1町歩当たり最高で15tのコメが収穫できた。住民らは「(全国の)農場を金正恩大将が訪れれば、我が国の食料問題は自然に解決するだろう」とあきれた、という。 これから、12年に向けてこうした偶像化作業はますます盛んになるはずだ。 問題は、住民たちが三代にわたる偶像化、神話化を素直に受け入れるかどうかである。 「市場」は欲望を刺激する 金正日は、「私は、人民がまだトウモロコシの飯を食べていることがもっとも胸が痛い。いま私が行うべきことは、この世で一番立派なわが人民に白米を食べさせることである」(2・1、北朝鮮のウェブサイト「わが民族同士」) 食糧難を率直に認めている。生産量が回復せず、配給が滞るなか、先にも述べたが、2002年7月以来、人々は「市場」によって、衣食を手に入れ、商売でカネを稼ぐことを知った。「市場」は生存のための欠かせない存在になっている。初期の資本主義が北朝鮮に根を張りつつあるといってもいいだろう。 北朝鮮が昨年末、デノミと市場規制などの統制強化を行ったのは、そこに独裁体制の危機を感じたからだ。今回の旅行で聞いた経済当局者は「われわれはあくまでも自立更生のウリシック(われわれ式)社会主義でいく」「中国式の改革開放は採らない」と明言した。 |