蜜月演出の中国の狙いは 五味洋治 (2010.10.25) 中朝関係が親密の度合いを増している。10月10日の朝鮮労働党創建65周年に、祝賀代表団として周永康政治局常務委員らが訪朝した。周は平壌郊外の空港で談話を発表し「中朝の伝統的友好を強化し、発展させることは(中朝)共同の不動の方針」とし、中朝関係は「素晴らしい未来を迎えると信じる」と強調した。 わずか3日の滞在期間中に4回も金正日に会っている。そこには後継者となった3男・正恩とも同席したという。 また、中国の郭伯雄中央軍事委員会副主席(上将)率いる軍事代表団も23~26日に公式訪朝した。 一方北朝鮮からは中国の経済開発の実態を把握させるため、日本の都道府県に相当する道や、主要都市の党責任者による代表団が中国へ派遣された。中国の東北地方を幅広く視察したようだ。地方の党責任者が一挙に訪中するのは極めて異例なことだ。 中国の中央テレビは、故毛沢東主席の長男で、朝鮮戦争(1950~53年)で米軍機の爆撃により戦死した毛岸英氏の生涯を描く連続テレビドラマ「毛岸英」の放映を始めた。 中国の朝鮮戦争参戦から25日で60周年を迎えるのを記念して制作されたもので、岸英氏の自己犠牲の精神や父子のきずなを描いている。このドラマは北朝鮮でも撮影されたという。 中朝関係は、朝鮮戦争以降、何回か冷却期を迎えている。たとえば中国の文化大革命中、両国の関係は悪化し指導者同士の訪問が減った。中国が韓国とが国交を正常化した1992年から7年ほどは、相互の交流が軍関係を除き、ほとんど途絶えた。 その後関係は復活したが、2006年10月、2009年5月に核実験を行い、再び両国関係はふたたびぎくしゃくしたものになった。中国は、それまでの血盟関係を見直す可能性も指摘されたが、逆に強化する方向を選んだ。関係者によれば、今年春その方針が政府内部で最終決定されたという。 中朝接近の予兆は昨年10月の温家宝訪朝からあった。温首相は、平壌郊外の平安南道桧倉郡にある「中国人民志願軍烈士墓地」を訪れ、毛沢東の毛岸英氏の墓前で「中国は発展しています。ご安心ください」などと報告した。 中国人民志願軍烈士墓地を中国の政府要人が訪問したのは、周恩来以来50年ぶりだと言われた。北朝鮮側は、朝鮮戦争に対する中国の大きな貢献を認めたくないため、中国要人の参拝を断っていた。 これまで中国の要人が訪朝しても、せいぜい平壌市牡丹峰にある中朝友誼塔を訪ね、献花する程度だった。ちなみにこの塔は、1959年10月に平壌市の牡丹峰に建立され、1984年に金総書記の指導により拡張工事がなされている。 温首相は、在平壌の中国大使館員や、平壌で学ぶ中国人留学生も引き連れて墓参している。これは北朝鮮にとっては、大きな決断だったと思われる。このころから後継作業を意識し、中国の歓心を買おうとしていた可能性もある。 一方、今年8月、金正日総書記が中国の東北地方を訪問した。父である金日成の革命史跡をたどるためだった。これも中朝関係にとっては画期的な出来事だったといえる。 実は北朝鮮は、中国東北部の開放に北朝鮮が協力したと最近主張している。 2008年には、これを公式的に確認する本も国内で出版し、国民に対して中国の建国に北朝鮮が寄与したとのキャンペーンを始めていた。 中国は東北地方で、北朝鮮の影響拡大は望んでいない。朝鮮半島を故郷に持ち、北朝鮮式の朝鮮語を話す朝鮮族が200万人もおり、民族意識に火をつけることになるからだ。そのため、金日成が望んだにもかかわらず、生前は東北地方の訪問を許さなかった。それを今になって息子の正日に許したのは、深い意味がある。 金正日の中国東北地方訪問後の9月14日、朝鮮中央通信はこんな記事を配信している。 金日成が1945年9月15日に著作「中国人民の革命闘争を積極的に支援しよう」を発表してから65周年になるとして、「朝中友好の歴史に末永く伝えるべき崇高な国際主義的信義」と題する記事だった。 記事は、金日成が祖国解放直後の複雑な情勢下にもかかわらず、中国人民の解放闘争を援助するための「抗蒋援華」の旗印を高く掲げて中国革命の勝利に貢献をした「史実」に言及していた。 さらに8月に金正日が訪中した際に長春で会談した胡錦濤総書記が、「中国東北地域の至る所に金日成主席の革命の足跡が歴々と宿っている」と述べ、「主席が朝鮮の独立を成し遂げただけでなく、中国革命の勝利にも大きな寄与をした」と認めたと報道している。 中国側の発表内容には含まれていないが、そういう趣旨の発言はあったのだろう。中国は北朝鮮側の主張を受け入れ、大きな譲歩をしたことになる。 中国は、尖閣諸島の問題で日本に圧力を掛け、南シナ海を巡っても東南アジアの国々と摩擦を起こしている。その高圧的な中国が、なぜことさら低姿勢になって北朝鮮と接近を図るのか。 狙いは3つある。 1つは、北朝鮮が進めている金正日の後継作業に危機感を持っていることだ。 まだ実績がなく、30歳にも満たない3男に対して、国内の不満が高まり政情が不安定になることは中国にとっても大きなマイナスとなる。少しでも、後継体制を支える姿勢を内外にアピールしたいのだろう。 2つ目は、3代続く世襲という異常な事態を黙認する代わりに、昨年のデノミの失敗などで屋台骨が揺らいでいる北朝鮮に、多少なりとも改革開放を促し、経済を支える狙いだ。そうしないと飢餓が拡大し、中朝国境に脱北者が押し寄せることにもなりかねない。 3つ目は、朝鮮半島への米国の関与を封じることだろう。 米国はオバマ政権になってから北朝鮮に対して「戦略的忍耐」を続けている。 何をしようが、黙って相手の出方を見守る戦略だ。しかし、これに対しては、米国内からも「もっと積極的に関与すべきだ」との批判が上がっている。たとえば、シンクタンクの米外交問題評議会は今年6月、北朝鮮に核開発放棄を迫る強力な政策を取るべきであり、現在の取り組みは「弱腰」で、核開発の黙認に等しいと批判する報告書を提出した。 11月の中間選挙が終われば、米国は日本や韓国とともに、対北朝鮮政策を練り直し、強い姿勢で出てくる可能性もある。こういう動きの機先を制して北朝鮮に近づき、自分のサイドに引き込んでおきたいとの思惑も見え隠れする。 私は、北朝鮮問題を中国に任せきりにしてはだめだと主張している。それは中国の対北朝鮮政策の基本は「現状維持」だからだ。核放棄を強く迫ることもしないだろうし、ましてや国内の人権弾圧にはなにも関心はない。せいぜい、もう意義をなくした6カ国協議を再開し、堂々巡りの議論を繰り返す程度だろう。 われわれは中朝蜜月の裏にある打算を読み取り、強い姿勢で北朝鮮に臨むよう中国に求めていかねばならない。 |