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中朝友好と日朝冷却(北朝鮮旅行記・5)
岡林弘志
(2010.10.25)

 

    北朝鮮に来てみると、中国との友好関係を重視する一方で、日本の外交や報道に対する不信がいかに強いかをあらためて感じる。ただ、日本に関しては、新たに登場した民主党政権が自民党政権と異なる対北政策を打ち出さないことへのいら立ちも感じながら、「日本が責任ある対応をするなら」というメッセージも出し始めた。

 

    マスゲームでも中朝親善を演出 

「鴨緑江の青い水と同じに朝中親善は永遠に」

    平壌・綾羅島のメーデースタジアムでの大マスゲームとパフォーマンス「アリラン」の第5場は「友好アリラン」。内容は中朝友好親善がほとんどだ。

「根の深い朝中親善」

「朝中親善は代を継いで」

    鴨緑江などの山河、両国にかかる虹などがカードセクションで次々に出てくる。しかも同じ内容のスローガンがまず朝鮮語、続いて中国語で出てくる。フィールドには大勢の踊り子とともにパンダのぬいぐるみ、30メートルもある蛇踊りの蛇、獅子舞も加わり、中国的な情緒もたっぷりだ。そして両国の国旗も登場する。

 

    観客席は15万席、われわれが見物した日、観客が入っていたのは半分くらいか。そのうちのかなりの部分は、中国人のようだった。中朝親善のマスゲームが展開されるたびに大きな拍手が起きていた。

    なかには「共産党がなければ新しい中国もない」という文言も。いらなおせっかいのような気もするが、日本からの観客が激減している中では、中国人の観光客は外貨稼ぎの一環として大歓迎だろう。われわれの観覧席に売りに来た「アリラン」のカタログは中国語だった。

 

    帰りの順安空港、出発便の案内を見ると、北京と瀋陽行きの定期便が各1便、このほかに3便の臨時便が出発することになっていた。いずれも乗客は「アリラン」ツアーの中国人だそうだ。

 

順安空港の出発ボード、北京、瀋陽行き臨時便も3便

 

    権力世襲も容認

    今年になって、中朝友好は際立っている。われわれが帰ってきてからの報道によると、労働党創建65周年記念の軍事パレード(10・10)ではひな壇に姿を現した金正日・正恩父子に終始付き添うように並んでいたのは、中国共産党の周永康・政治局常務委員だった。周永康は前日の金父子とマスゲームを観覧するなど平壌滞在中、金正日総書記と4度会ったという。この中で「金正書記と若い世代の指導者が中国を訪問してほしい」という胡錦禱国家主席からのメッセージを伝え、金正恩に贈り物をしたという。中国は三代にわたる権力世襲を容認したということだろう。

 

    北朝鮮の核実験によって、中朝関係は冷却していたが、今年に入ってからは、金正日が5月と8月の二回も訪朝。5月の訪中時、中国側は支援の約束をせず、金正日は不快感を示したともいわれるが、それが4カ月もしないうちの訪中だ。国際的に孤立する中、中国の支援・協力は死活問題でもある。背に腹は代えられない。

    また、中国にしても、北朝鮮の混乱は最大の迷惑だ。そのあたりに対する危惧が強まっているのか、このところ北朝鮮の内政も含めて関与を深めている。こうした関係がマスゲームの演出や中国人旅行客の増加になって表れているのだろう。何とも奇妙な蜜月ぶりを実感させられた。

 

    「日本は信頼できない」

    これに対して、日朝関係は冷えに冷えている。

    「世界中でこれほど信頼できない国はない」。日本担当の外務部幹部は、最近の日朝関係を説明する中で、こんなことまで言った。

    しかし、経済制裁が続く中で、日朝関係を何とかしたいという気持ちも強く、このところいくつかのメッセージを発している。

 

    われわれも何人かの対日関係者から意見を聞いた。いくつかにまとめて紹介する。

    ◇日朝関係の現状

    「日本政府が約束を破り、共和国敵視政策を増幅させているのが最大の原因」「拉致は解決済みだが、我が国は交渉再開のために誠意を尽くしている」「過去の清算、拉致などで最大の雅量をもって接してきた。それなのに日本は様々な口実をつけて時間を遅らせ、敵対政策をすすめている」

    「日本は制裁で自分の手足を縛っている。われわれは自力更生でやっているので、何も困っていない」

    ◇とくに、北朝鮮が問題にしているのが2008年8月、中国・瀋陽での実務者会談。

    「関係改善の雰囲気を作るため、共和国は再調査を開始する。日本は拉致問題を国際舞台で口にせず、制裁の一部を解除する、と約束した」

    「これに基づいて、われわれは再調査委員会を構成して、日本側へ通告した。ところが、福田内閣から麻生内閣に変わり、圧力一辺倒になり、それ以来、政府間の接触は断絶している」

    ◇こんな裏話も。

    「再調査については、わが方はやっても何も出ない、そうしたらまた日本の世論は硬化して交渉は止まるだろう、と言ったら、日本側は再調査しても発表は先送りし、とにかく関係改善の雰囲気を作ろうとなった」

 

    「対北政策の柱がない」

    ◇また、日本の政権が一年ほどで代わり対北政策が定まらないことにもいら立ちを感じているようだ。

    「日本との交渉で困るのは、対朝鮮政策で柱がないことだ。そのときそのときでコロコロ変わる」「いまは朝日関係改善を論じること自体が無駄なことだ」

    ◇民主党政権については。

    「当然自民党の政策と変わると思ったら、全く変わらない。前原外相は相変わらず、拉致・核・ミサイルの包括解決と言っている」「菅首相は8月に植民地支配についての談話を発表したが、これは李明博(韓国大統領)に合わせたもので、われわれにはまったく謝罪の気持ちは伝わらない」

    「民主党政権も経済制裁を延長するなど、敵視政策を続けている」

    ◇いま、日本に求めるのは。

    「日本政府は、両国関係の基本が拉致のように世論を導いているが、基本は直ちに過去を謝罪し、清算して、経済制裁をやめることだ。そうすれば、交渉の中でいろいろなことを話し合える」

    「在日は税金を払っているのに、高校授業料無償化では朝鮮高校を除外しているのはおかしい」「悪法を作って在日同胞の経済活動や故国訪問を妨害している。人権問題であり、人道問題だ。早くやめるべきだ」

 

    日本の報道はけしからん

    ◇もうひとつ、北朝鮮側が強く批判したのが日本の報道だ。

    「日本の言論界に対してはここ10年非常に評価が低くなった。部数を増やすために面白おかしく書いている」「共和国へ来たこともない記者が推測で批判を書き、反共和国キャンペーンをやっている」

    「つい最近も『金王朝』『権力世襲』と書いているが、あれはなんですか。世襲なら長子が継ぐはずなのにそうなっていない。主体思想、先軍政治を体現できる実力、才能のある人材を選んでいる。代を継いでというのは、血筋のことではなく、革命の思想を代を継いでということだ」

 

    「先軍政治についても日本のマスコミは軍優先と解説しているが、大間違いだ。我々は先軍政治によって核抑止力を持ったため、祖国を守り、人民も安心して暮らせる」「米国と南朝鮮が演習などと言って挑発しているが、朝鮮半島が揺るがないで安定しているのは、我々に抑止力があるからだ」

    「先軍政治は、愛族、愛国、愛民の思想だ」「先軍政治は朝鮮半島の平和と安定の万能の宝剣だ」「日本の新聞はそこのところを間違えないでほしい」

 

    ◇日本非難を強めながらも、交渉に応じる姿勢は示している。

    「いまは朝日平壌宣言(2002)以前より悪くなっている。宣言は歴史的文献だ。これを履行する義務がある」「責任を持って交渉にあたれる人が出てくればいつでも応じる用意がある」

 

    労働党創建記念日に訪朝したアントニオ猪木・元参院議員は外交交渉を担当する金永日・労働党書記と面会し「日本の政治家などが北朝鮮を訪問するとなれば歓迎するといわれた」という。また宋日昊・朝日国交正常化交渉担当大使は、共同通信のインタビューに応じ(10・12)、和田春樹・日朝国交促進協議会事務局長(東大名誉教授)らとも面会している。

 

    北朝鮮は、過去の清算や拉致では建前を述べ、日本の経済制裁は痛くも痒くもないと言いながら、関係改善にはかなりの意欲があるのではないか。民主党政権への失望を述べながらも「また政権が落ち着いていないようだから、もう少し注視したい」とも言った。

    ただ、民主党政権はまだ政権基盤がぐらついている。対北政策まで手が回らないというのが実情だ。したがって、経済制裁もそのまま続く。いた朝鮮のいら立ちは当分続きそうだ。

 

 

ホテルの売店に並べられた日本製品

 

朝鮮労働党創建事蹟館の金日成の宿舎(植民地時代の日本人住宅を使用)

 

宿舎内の畳、障子などは当時のまま保存(北朝鮮に残る珍しい日本風造り)

 

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