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金正日訪中、「6者協議」再開の謀略(上)
対談 洪熒・佐藤勝巳
(2010.9.7)

 

    金正日訪中 

    佐藤 鴨緑江河口が大洪水に見舞われ、アメリカの元大統領カーターが訪朝しているというのに、金正日は面会もせず、慌ただしく訪中しました。5月に訪中してまだ3ヵ月しか経っていないので、その理由は何か、と関心がもたれています。私はこの度の金正日の訪中は、アメリカが金正日体制に対して、大規模な米韓軍事合同演習と北高官の銀行口座をピンポイントで閉鎖させるという、具体的な行動に出たことが、金正日、胡錦濤にとって予想外のことで、急遽対策協議を行なうことになった、と見ています。

 

     金正日が会談を呼びかけたのだから、北の必要によって中朝首脳会談が行われたのでしょう。中国は、金正日の暴走によって韓、日、米の連帯が強まり、他方、北を庇(かば)う中国への警戒と批判が日韓でより強まりだしました。天安艦撃沈の対応として、黄海で軍事演習を韓米に続行されたら、中国の軍事情報が裸にされるのはもちろん、中国の面子(メンツ)が潰れます。アメリカは予告通り8月30日(ワシントン時間)制裁を発表しました。中身は、金正日体制の核心機関などへの追加制裁(行政命令13551号)です。アメリカが本気で制裁に動いたら、中国が企む6者協議は吹き飛んでしまい、金正日政権が持たないという危機感からの緊急首脳会議ということであった、と見ています。

 

    胡錦濤、「6者協議」提案

    佐藤 新華社通信は首脳会談に関して「中国は朝鮮が朝鮮半島の情勢の緩和、外部環境の改善に向けて積極的な努力を行なうこと尊重、支持するとともに、関係各方面が朝鮮半島の平和と安定、非核化の旗を高く掲げ、現在の緊張した情勢を緩和するため、6カ国協議を早期に再開し朝鮮半島情勢の段階的回復を推進するため積極的に努力することを主張する」とわれわれの分析を裏付けています。

 

    洪 「6者協議」は北の核武装の阻止から、いつの間にか「停戦協定」を「平和協定」に変える論議の場に変質しつつあります。中国はいわゆる6者協議の「議長国」として、関係国に幅を効かしてきましたが、いまや「中国は金正日の後見人」として北の核解決への努力はポーズだけというのが誰の目にも明らかになりました。別な言い方をすれば、中国は地域覇権の確立に北や「6者協議」を利用しているだけです。この度の米韓の軍事演習などは中国の地域覇権確立を阻止するだけではなく、金正日もピンチに追い込まれます。

 

    制裁解除の陰謀

    佐藤 国連は2006年の北の核実験に対して制裁を科しました。だが、その直後にブッシュ政権は、中間選挙に敗北したこともあって、圧力から対話に路線を変更、国連決議を骨抜きにした「犯罪歴」があります。今回中国が主張している朝鮮半島の「緊張緩和のための6者協議」提案は、金正日政権にかけられている制裁解除の陰謀が裏に隠されています。「転んでもただは起きぬ」したたかさがあります。

 

    同盟国への裏切り

    洪 先ほども言いましたがアメリカは、胡錦濤・金正日会談が行われた後、金正日の秘密資金を管理する39号室と対南挑発の総本山である偵察総局など3機関と1個人(偵察総局長)を制裁対象に追加する行政命令(米国内の財産凍結と銀行取引停止)を公表し、これからも追加措置を取ると断っています。ブッシュ政権のときとは逆です。ところが李明博政権は同じ日に、北の水害に対して100億ウオン(約7億円)の赤十字人道援助を提案しています。これは同盟国に対する裏切りです。中国側の6者協議提案が、こんな形で韓国に影響しています。要注意です。

 

    「6者協議」の欺瞞

    佐藤 中国にとっての6者協議は、アジアにおける覇権の確立と、南北の軍事分界線が中国国境へ移動するのを遅延させている手段です。金正日にとっての6者協議は、非核化を掲げ、米中などを騙して重油をタダ取りできる(詐欺を働き)、政権の延命を図ることが出来る美味しい場所です。また、6者協議が続く限り、日本と韓国から核保有の声が上がりにくい、という米、中、北にとって誠に都合のよい場所でもあります。一番割りを喰っているのが日本と韓国です。

 

    洪 韓国は、金大中・盧武鉉親北政権から李明博政権に変わってからは、天安艦事態で見られるように中国を過度に意識しているものの、「北の非核化」は貫いています。中国は天安艦事件で国連安保理の制裁妨害に出ました。するとオバマ政権は対北抑止力の行使と経済制裁を着実に実行し始めました。こういう流れの中での朝中首脳会談であったと申し上げましたが、中国は差し当たって、韓、日、米連帯への撹乱や次の手までの時間稼ぎとして6者協議再開ということで、金正日を説得したと見るべきでしょう。

 

    抑止力なき外交は時間の浪費

    洪 われわれが教訓として学ぶべきことは、ああいう「ならず者体制」には抑止力の行使なきところでの外交は時間の浪費ということです。李明博の水害支援、菅直人内閣の朝鮮高校生の授業支援など金正日の本質を取り違えたナンセンスな行動です。

 

金正日訪中、「6者協議」再開の謀略(下)