現代コリア

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独り相撲で転ぶ北朝鮮
岡林弘志
(2010.6.17)

 

    またまた「ソウルを火の海に」だ。自分からけんかを売っておいて、それを指摘されるとまたいきり立つ。北朝鮮は様々なことを仕掛けてはうまくいかずに、自分で転んでいるようにもみえる。金正日総書記も元気がなさそうだ。

 

    「われわれの軍事的対応は、ソウルの火の海まで見通した無慈悲な軍事的打撃を言う」

    北朝鮮人民軍総参謀部の重大布告(6・12)である。韓国が北朝鮮による哨戒艦沈没事件を受けて、南北軍事境界線付近に北朝鮮向け宣伝放送用の拡声器を設置したことへの警告である。

 

    かねて、北朝鮮は宣伝放送をしたら拡声器を爆破すると脅していたが、ついに「ソウルを火の海」にまでエスカレートした。この言葉は、16年前も北朝鮮が使ったことがある。宣伝放送は、北朝鮮の兵士に向けて、韓国には自由がある、食には困らないなどという内容のものだ。

 

    北朝鮮はこれを「心理的手段」と呼んでいるが、これだけいきり立つところを見ると、よほど兵士に対する影響が大きいのだろう。しばらく前から軍に対する食糧の優先配給は止まっているといわれる。兵士も腹が減っては金正日に対する忠誠心が鈍るようだ。

 

    それにしても、韓国が哨戒艦の沈没は「北朝鮮の魚雷攻撃が原因」と発表(5・20)する前後からの北朝鮮の反応はヒステリックだった。「南のでっち上げ」と決めつけ、南北間の交流のほとんどを止め、「強硬措置で対応」などと脅してきた。

 

    軍事攻撃によって、韓国は恐れをなし、金大中、盧武弦政権のように貢物をすると思いこんでいたようだ。しかし、李明博政権はそれに屈せず、宣伝放送の再開などの対応を打ち出し、米国との軍事的な連携を強めている。むしろやぶ蛇だ。

 

    それに北が「でっち上げ」といっても、誰も信じない。北朝鮮はこれまでも韓国に対してゲリラ部隊の青瓦台襲撃(1968)、全斗煥大統領を狙ったラングーン爆破事件(83)、大韓航空機爆破事件(87)など度重なる武力挑発、テロを行ってきた。しかし、いずれも今回と同様に「南の自作自演」などと否定してきた。

 

    従って、今回も北が否定しても誰にも信用されない。「逆オオカミ少年」である。

    中国は、北朝鮮犯行説に賛同していないが、内心では認めているのだろう。沈没事件(3・26)のあと、金正日が訪中(5月初旬)し、胡錦涛主席らと会談したが、期待した土産をもらえなかったらしく、腹を立て予定を繰り上げて帰国したといわれる。

 

    また、哨戒艦沈没で黄海は波高く、米韓は軍事演習を重ねている。このため、北朝鮮も厳戒態勢をとらざるをえなくなり、いま真っ最中の田植えへの軍の動員が禁止されたという情報もある。昨年のコメは不作だったが、今年も肥料不足に人手不足が加わり引き続き不作になりそうだ。

 

    土俵外で不意打ちを食らわせて勝ったつもりでいたが、回りのブーイングが激しく、猛り狂って、勝手にひっくり返る哀れな力士のようにもみえる。周辺国にとってははなはだ迷惑だ。

 

    もう一つ独り相撲の後遺症が残っているのがデノミだ。

    今年二回目の最高人民会議が開かれた。(6・7)年二回は1993年以来だ。議題は人事だけ。一つは首相をはじめとする経済閣僚の更迭。首相は金英逸から崔永林に代わったが、新首相は79歳だという。

 

    先ごろデノミの責任者だった党財政経理部の部長と副部長が銃殺刑で粛正されたといわれる。今回の人事は、一連の見せしめの締めくくりだろう。

    これまでも金正日の失政の責任を部下に押し付け、そのたびに詰め腹を切らせている。これではいくら人材があってもきりがない。今回の老齢者の首相起用は、人材不足の表れだ。

 

    このデノミも国連経済制裁や南北交流の先細りで、経済が逼迫し、苦し紛れにやったものだ。自ら招いた災難を避けようとして、かえって災難を大きくする。独り相撲の標本みたいな話だ。

 

    ちなみに、最高人民会議のもう一つの人事は、いまや金正日の側近中の側近になった張成沢国防委員会委員の副部長昇格だ。張成沢は、金正日の実妹の婿として、一昨年夏に金正日が脳卒中で倒れて以来、もっとも信頼できる側近になり、このところの現地指導にほとんど随行している。

 

    健康不安を抱える金正日は、三男の金ジョンウンへの権力世襲を狙っていると言われる。その業績づくりのため、昨年は「50日戦闘」「百日戦闘」をやったが、生産が上がるはずもなく失敗、デノミも金ジョンウンの手柄にしようとしたが、これも大失敗。

 

    そこで、頼りになるのはやはり身内。張成沢を最高権力機関である国防委員会の要職に就け、後継体制づくりを任せることにしたようだ。

 

    しかし、人民に食わせることができないまま、権力世襲の雰囲気を作るのは容易ではない。支配者を恨みこそすれ、尊敬することはできない。

 

    2012年の「強盛大国」は、ますます遠ざかる。独裁は人民を従わすために絶えず緊張を作り出す必要があるようだ。しかし、周辺国は北朝鮮の独り相撲を見透かして、まともには相手にしないようになっている。このため、ますます暴れるという悪循環に陥っている。

 

    最近、金正日の体調がよくないという情報が流れてくる。一日の執務時間は1時間弱、30分動いてはしばらく休むなど。このところの北朝鮮の混乱は金正日の威力の衰えの反映かもしれない。