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金正日“お召し列車”で切歯扼腕?
岡林弘志
(2010.5.17)

 

    北朝鮮を支援せざるを得ないが、非常識にはつきあいきれない―今回の金正日総書記の訪中には、こんな中国側の思いがにじみ出ていた。両国の訪中に関する公式報道はあまりに抽象的な表現に終始し、4年4ヶ月ぶりの大名旅行は北朝鮮にとってさしたる成果がなかったようだ。

 

    17両編成の“お召し列車”が中朝国境の鴨緑江を渡るとき、特別車両のベッドに横たわっていた金正日は、切歯扼腕したにちがいない。

    脳卒中の後遺症を引きずりながら、来いと言うから行ったのに、北がのどから手が出るほどほしかった食糧や重油の支援が得られなかったからだ。

 

    「各国ともに六カ国協議再開のための有利な条件を作ることを願う」

    5月3日から7日までの訪朝の後、中国側の報道によると、朝鮮側は、こんな発言をしたという。これでは、周辺国の最大関心事である六カ国協議に北朝鮮が戻るのかどうか、具体的なことはまったくわからない。というより、意味不明だ。

 

    北朝鮮の協議への復帰は、議長国である中国にとっても最大の目的だったはずだ。それがこの程度の表現をみると、金正日は復帰を明言しなかったのは間違いない。

    ということは、中国としても、北朝鮮が求めるほどの支援を約束しなかったと推測できる。

 

    また、一部の報道は、今回の訪中は金正日の健在誇示が目的と報じた。しかし、当局の取材妨害をかわして撮影された映像からは、とても健康という印象は受けなかった。

    歩くときは左足を引きずり、頭髪は薄くなり、地肌が透けてみえた。表情も生気に乏しく、慢性腎不全、糖尿、高血圧、冠状動脈疾患などの持病に悩まされているという情報を裏付けている。

 

    訪中日程も、2006年1月の9日間の約半分、足かけ5日間に短縮された。しかも、自動車での移動の際は救急車がついていた。また、韓国の報道によると、視察は一カ所30分以内に制限され、旅行中の大小便はすべて持ち帰ったという。中国側に健康状態を知られたくないからだ。

    あれやこれや、金正日の健康が十分でないことをむしろ知らしめる結果になった。

 

    もう一つ、韓国の哨戒艦「天安」の沈没について、韓国は北朝鮮の仕業との疑いを強めている。このため、北朝鮮の無関係を中国に通告し、韓国側の言動に惑わされないよう釘を刺すのも目的と言われた。

 

    この問題について、両国の報道は直接言及していない。しかし、胡錦涛主席は「われわれは当該地域の恒久平和、共同発展のためさらに大きな貢献を果たしたい」「中朝協力の強化は、当該地域の平和、安定、繁栄に役立つ」などと述べたという。

 

    その後の日韓の報道によれば、北朝鮮側は「南朝鮮のでっち上げ」を繰り返したという。しかし、胡錦涛の発言は北朝鮮に軍事的挑発をしないよう、釘を刺したとも読み取れる。もちろん、核実験も地域の平和や安定を損なうからもちろんダメ、と言っているのだ。

 

    中国側の発表によると、これに関連して、胡錦涛は5つの提案をした。このうちの第2が意味深長だ。

    「双方は戦略的な意思疎通を強化する。両国の内政、外交における重大な問題、国際・地域情勢、党・国家統治の経験などともに関心を持つ問題について、随時及び定期的に突っ込んだ意思疎通を行う」

 

    外交だけでなく、内政、党や国家統治についても、中国に相談しろ、ということか。北朝鮮の報道には、この微妙な部分の言及がない。

    中国側のいらだちがにじみ出ている。

 

    今回の訪朝で目立ったのは、金正日の産業施設視察である。港湾都市である大連には一泊して、港湾開発や、水産加工工場や機関車製造工場などを回った。続いて、天津でも港湾施設や経済技術開発地区など、北京ではIT工場などを見学、帰路には瀋陽にも立ち寄ったという。

 

    こうした日程も念頭に置いて、温家宝首相は会談で金正日に注文をつけた。

    「中国側は朝鮮の経済発展、民生改善をこれまで通り支持し、朝鮮側に中国の改革・開放と建設の経験を紹介したい」

    要するに、経済を立て直し、人民に食わせるためには改革・開放以外ないよ、中国を見習え、と言ったのである。

 

    半面、こうした中国首脳の発言には、これまでの訪中でも中国の経済的発展を視察しているのに、金正日は真剣に改革・開放に取り組まず、反対に核開発に資源や資本をつぎ込み、国際的に孤立している。ここにもいらだちが見て取れる。

 

    こうした首脳や幹部の雰囲気は一般にもあるようで、中国のインターネットには「また食糧をもらいに来た」「納税者のカネを援助に軽々しく使うな」「「コメや小麦は特別列車17両に積みきれないだろう」などの書き込みがあったと言う。

 

    ここには、「垣根国家」として北朝鮮を利用するため、北朝鮮の理不尽さを分かっていながらも、北の要求をきっぱり拒否しない政府や共産党に対する批判も含まれているようだ。

 

    今回の訪中は、中国側が強く要請してのことだったようだが、北朝鮮にしても中国以外に頼るところはない。

 

    かつて十年間、北朝鮮の言いなりに支援をしてきた韓国は、「相互主義」を掲げ、一方的な支援は拒否し、核放棄を関係改善の大前提にしている。また、哨戒艦の沈没事件では北朝鮮の攻撃を疑う声が強く、対北外交が軟化する可能性はない。

 

    それだけでなく、李明博大統領は「わずか50キロ離れた場所に最も好戦的な勢力がわれわれを狙っていることを忘れるな」と国民に呼びかけ、国防計画の全面的な見直し、強化を指示した。

 

    日本も経済関係を絶ち、米国のオバマ政権も核放棄の原則を崩そうとしない。そのうえ、国連安保理の経済制裁は解除の見通しはなく、各国とも厳格に守っている。

 

    そのうえ、今回の中国の対応である。日韓のメディアが予測した権力世襲を中国側に通告とか、金ジョンウンを同行、などという雰囲気ではない。

    それだけでなく、金正日が大目標に掲げる2012年の「強盛大国」は、人民に食わせることができないまま頓挫せざるを得ない方向に進んでいる。

 

    独裁体制維持を唯一の目的にして、恫喝外交を続けてきた北朝鮮の当然の成り行きである。