現代コリア

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デノミ大失敗にあせる北朝鮮
岡林弘志
(2010.2.11)
 
    昨年末のデノミはやはり失敗し、大混乱を招いている。金正日総書記は、「人民生活向上」など「思いやり作戦」を余儀なくされている。一方で、この苦境を手っ取り早く抜け出すため、盛んに韓国に攻勢を掛けている。「強盛大国」どころではなく、後始末に大わらわだ。
 
    「いまわたしが行うべきことは、人民に白米を食べさせ、小麦粉で焼いたパンやククス(うどん)を十分に食べさせることである。人民がまだトウモロコシのメシを食べていることがもっとも胸が痛む」(2・1労働新聞)
 
    金正日のありがたい言葉である。 今年に入って、北朝鮮は新年共同社説や、金日成の遺訓達成など繰り返し「人民生活の向上」を強調している。2012年の強盛大国建設のため、未だに達成できていない分野だからだ。
 
    「デノミの責任者を解任」
 
    ここに来て、日韓のメディアは、デノミの実務責任者だった朴南基・労働党計画財政部長のクビを報じている。また、金正日の金庫番である「39号室」室長も更迭されたという。
 
    デノミ実施と同時に市場閉鎖も行われたが、物価が急上昇、ヤミ市が横行するようになり、二月に入ってから公認市場での取引を容認せざるを得なかったのだろう。このほかに為替レートの暴落など、新ウォンも紙っぺら同様に価値が下がったようだ。
 
    昨年11月末のデノミによる混乱がそれだけ大きいということだ。北朝鮮は配給制が崩壊して以来、ヤミ市も含めて「市場(いちば)経済」なくしては人民の生活は成り立たない経済構造になっている。
 
    人民生活の需要供給を全面的に支えてきた市場の規制は、まさに暴挙だった。
 
    デノミは、「カネやモノ」に支配されだした人民に対する統制強化が狙いだった。別の面から見ると、「市場(いちば)経済」「市場資本主義」への挑戦だった。しかし、一度「市場」の便利さ、必要性を実感した人民の心を元へ戻すのは難しい。わずか二ヶ月で完全に裏目に出た。
 
    昨年後半、「強盛大国」実現へ向けて、鳴り物入りで「150日戦闘」「100日戦闘」が行われ、大きな成果を上げたと宣伝していたが、これも完全にかすんでしまった。経済原理を無視した精神論だけの政策がうまくいくはずはない。
 
    今回のデノミは、金正日の後継者と目される金ジョンウンの功績を作るためという情報もあったが、これでは逆効果だ。かえって恨みを買うばかりである。独裁体制の権力世襲は時代錯誤も甚だしいが、その環境はますます厳しさを増している。
 
    一方で、あわただしい動きを見せているのが対韓国攻勢だ。
 
    昨年夏から李明博大統領への個人批判を控え、対話―関係改善を求めてきた。無条件で食料や肥料、医薬品、そして外貨をくれた金大中、盧武鉉政権時代の「甘い汁」が忘れられないのだ。
 
    それなら、素直に援助がほしいといえばよさそうなものだが、独裁体制はそれを許さない。言うことを聞け、さもなくば脅かすぞ、というのが常套手段だ。
 
    1月27日から三日間、北朝鮮はかねて宣告してあった黄海の射撃区域に向けて、300発もの砲弾を打ち込んだ。このあたりは南北の境界線がある海域、一部は軍事境界線(NLL)の韓国側にも食い込んでいたようだ。
 
    対話に応じない米国向けの脅しとともに、韓国に向けても支援をしないと緊張を高めるぞというアピールでもあるようだ。対話姿勢の不満を抱く軍部の意向という見方もあるが、これだけの演習が金正日の許可なしにできるはずもない。
 
    韓国政府が北朝鮮の混乱を想定しての対応計画「復興」を策定――昨年末、韓国のメディアが報じた。韓国政府は何のコメントもしていないが、金正日直属の国防委員会は「報復聖戦の開始」(1・15)というおどろおどろしい声明を発表している。
 
    その直後、北朝鮮メディアは金正日が陸海空三軍の合同訓練を視察報じた(1・17)。これだけの大規模な演習の視察の報道は初めてだ。そういえば、年初には朝鮮中央放送が南侵軍事訓練の動画を放映した(1・5)。戦車が走る横には「釜山」「金海」「昌原」など韓国南部の地名を書いた標識が映っていた。「第二次朝鮮戦争」の準備を思わせる画面である。
 
    ただ、韓国の方はさめている。脅しの一方で、北朝鮮は盛んに対話をせっついているからだ。
 
    「報復聖戦」の声明があったその日に、北朝鮮赤十字は韓国側に、トウモロコシ1万トンの食糧支援受け入れを伝えてきている。この1万トンはかつて、北朝鮮が「農夫が背負子に載せてもたいしたことのない量なのに、恩着せがましい」と、くさしていたものだ。「背に腹は代えられぬ」のだろう。
 
    2月に入って、北朝鮮の強い要請で南北の実務協議が繰り返されている。開城工業団地にかかわる協議で、北朝鮮は労賃と土地賃借料の値上げを求めてきた。別の協議では金剛山、開城の観光事業を3、4月に再開するよう強く望んだ。
 
    いずれも、外貨を手に入れる手っ取り早い手段だ。これに対して、韓国側は金剛山での観光客射殺の真相究明などが先と慎重に対処している。
 
    デノミの失敗は、北朝鮮が韓国の支援なしには体制維持ができない実情をあらためて浮き彫りにした。韓国にとっては韓国ペースの南北関係を作る好機だ。
 
    今年は、植民地解放から65年、朝鮮戦争の休戦から57年。韓国では「春窮期」という言葉は歴史の中に埋没したが、北朝鮮ではいまだに現実を表す言葉のままだ。
 
    暴騰に紹介した労働新聞の見出しは「われわれの勝利を固く信じる」となっている。しかし、どう見ても北朝鮮では、これからも「トウモロコシのメシ」しか食べられない、あるいはそれも難しいというのが実情だ。
 
    金正日のありがたい言葉だけで、人民の腹は満たされない。これまで「ほしがりません勝つまでは」を強いてきたが、今年あたり限界がくるかもしれない。  (了)