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つぎはぎ北朝鮮「改定憲法」
岡林 弘志
(2009.10.9)        

 

    北朝鮮が四月に改定した憲法の全文がようやく明らかになった。一言でいうと、金正日の「軍事独裁体制」の確立を憲法にちりばめ、明文化したものだ。ただ、もともと「金日成憲法」と名付けた条文に、金正日の「先軍政治」をねじ込んだため、ちぐはぐも目につく。

 

    憲法改定を行ったのは4月9日の最高人民会議だった。当時は、金正日が国防委員会委員長の再任を祝う大集会が、あちこちで開かれたが、肝心の改正憲法の条文は明らかにされなかった。

 

    北朝鮮ウォッチャーらが全文を手に入れたのは九月に入ってからだ。この後になって、北朝鮮の公式ウェブサイトに公表された。韓国統一省も全文を公表(9・28)している。前回(1998)は、金日成を「永久主席」に据えるなどの大改定だったが、決定と同時に公表された。今回はなぜか積極的に公表しようとしなかった。理由はわからないが、国際情勢が金正日の思ったとおりにならなかったのは間違いない。最高人民会議の4日前(4・5)。北朝鮮は予告までして、人工衛星「光明星2号」を打ち上げ、その後核実験(5・25)も行ったが、国際社会は非難の大合唱、国連安保理は経済制裁を決めた。

 

    金正日は、大量破壊兵器開発、独裁体制強化を誇示することで、周辺国を威嚇し、食糧支援などを取り付ける皮算用をしたが、完全に逆目に出た。これでは、国際社会が「金正日憲法」に恐れ入るという環境ではない。むしろ、軍事強化を非難する材料を与えるだけだ。そんな判断もあったのかもしれない。

 

    全文を見ながら改正部分を簡単に紹介する。

 

    「金正日独裁」を表した第一は【第3条】(指導指針)だ。旧法は「主体思想」だけだったが、今回は「先軍思想」を入れた。金正日が1995年にタバクソル哨所(人民軍第214軍部隊の愛称)を視察した時から、国家運営の指針として掲げてきたものだ。

 

    軍事最優先となれば、大量破壊兵器の開発は憲法上の義務でもある。金正日が核放棄しない法的根拠を定めたことにもなる。最近の中朝会談などにより、米朝協議-六カ国協議が始まるという期待もあるが、北朝鮮の「核放棄」は、今回の憲法改定でますます難しくなったと言える。ついでに、旧法にあった「共産主義」の言葉が消えた。【第29条】(創造的勤労)や【第40条】(前社会のインテリ化)には、基本理念として、「共産主義、社会主義」と並んでいたが、今回の改定で「社会主義」だけになった。

 

    第2は、「第6章 国家機構」の中に「第2節 国防委員会委員長」を新たに制定したことだ。6つの条文がある。この中の最初の条文【100条】には、国防委員会委員長は「朝鮮民主主義人民共和国の最高指導者である」と明記した。

   

     旧法では、委員長は「一切の武力を指揮、統率して国防事業全般を指揮する」と、権限を軍事に限定している。実際は、旧法を定めた(98)最高人民会議で、金永南・常任委員長が「国防委員長は国家の最高職責」と演説して、事実上の最高指導者であることを明らかにした。今回はこれを明文化したのである。

 

    かくして、今回の改正によって、金正日体制は憲法上も確立、「主席」の地位は父親に敬意を表して永久欠番にしたが、金正日が事実上、同じ地位についたことになる。

 

    第3は、【59条】(国防の使命)だ。旧法は「祖国の自由および独立、平和を守る」となっていたが、「先軍革命路線を貫徹し、革命の首脳部を保衛し」が新たに挿入された。要するに、金正日とその先軍政治を言い後を掛けて守れ、というのだから個人崇拝もあからさまだ。しかし、本来「金日成憲法」(序文)と宣言した憲法に金正日の指導をはめ込んだため、なにやらおかしな部分もある。

 

    まずは、「国防委員長」(第3節)と「国防委員会」(第4節)の位置である。金正日が最高指導者を誇示するには、この条文が、「第6章 国家機構」の最初に来てもおかしくない。ところが、「第1節 最高人民会議」と「第4節 最高人民会議常任委員会」の間に挟まっている。これでは国防委員長と国防委員会は、最高人民会議の一部門のような配置になっている。また、国防委員長の任務および権限の第一は「国家の全般事業を指導する」(103条)といいながら、「第1章 政治」の【第11条】には「共和国は、朝鮮労働党の指導の下にすべての活動を進行する」と文言も残っている。

 

    両方から「指導」される部門は大変だ。

 

    もう一つ、「国家元首」はそのままのようだ。旧法では最高人民会議常任委員長の権限の中に「国家を代表し、外国使節の信任状、召喚状を受ける」とあった。この条文は改定憲法にも残っている。やはり、金正日はいかに大きな権力を握っても、儀式張ったことは好かないのだろう。ついでにもう一つ、【第8条】(勤労人民大衆)の中で、これまで「勤労人民の利益を擁護し、保護する」という記述だったが、「擁護し、」の後に「人権を尊重し、」を挿入している。国連人権委員会などで、北朝鮮の人権抑圧は国際社会の非難の的になっている。これを意識してのことだろうが、憲法に明記しても守られなければ何もならない。

 

    ざっと全文を読んで気がついたことを述べた。

 

    事実上「金正日=憲法」、あるいは金正日が超憲法的な存在であることがよくわかる。それを端的に表したのが【104条】だ。

 

    「国防委員長は命令を出す」―――簡単な条文だが、意味することを恐ろしい。権限の一つでなく、わざわざ独立した条文をつくったのは、戒厳令や超法規的な命令を出す権限を明記したのだろう。要するに、金正日の命令は絶対であることを示している。

 

    この国では「金正日がすべて」。改定憲法はそれをあらためて宣言したものだ。金正日が健康不安を抱える中で、次の世代も「金正日式軍事独裁体制」を続けさせる宣言でもある。