現代コリア

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困ったときの「対話攻勢」
岡林 弘志
(2009.8.26)

 

    金正日総書記はまたまた、こすからい手を考え出した。米国に続いて、韓国にも対話攻勢を掛けているが、人質に加えて、金大中元大統領の葬儀を利用して、糸口をつかもうというのだから。それほど、経済制裁、経済支援の停止が効いているのだろう。

 

    「すべてがうまくいった」「いい気分で帰る」

 

    李明博大統領との会談(8・23)を終えた北朝鮮弔問団の金己男・労働党書記と金養建・党統一戦線部長は、青瓦台を出るとき、顔をほころばせた。

 

    だいたい、葬式に来て笑顔もないだろう。突然大統領に会いたいと言いだすのも非常識、この会談が終わると、肝心の国葬には出ずに帰国してしまった。会談では、金正日のメッセージを口頭で伝えた。具体的な内容は発表されていないが、「南北関係を改善したい」という趣旨だったという。要するに、金正日の関係改善呼びかけで、李明博政権に揺さぶりを掛けることができたと判断しての弔問団の笑顔だったか。

 

    実際に、李政権は突然の会談要請にとまどった。あまりに非礼で異例であり、何かを企んでのことかと疑心があったのも確かだ。とにかく、数日前まで、労働新聞は「凶悪な民族反逆集団の李明博一味」「ファッショ独裁の逆徒李明博」などと、罵詈雑言を浴びせていたからだ。それにしても、このところの対話攻勢は唐突だ。

 

    4―7月に掛けて、核実験・ミサイル発射でしきりに緊張を高めた。ところが、8月に入ったとたん、米国人記者の釈放という名目で、クリントン元大統領を呼んで、金正日が会談(8・4)、米朝交渉を持ちかけた。続いて、韓国の現代グループの女性会長を呼んで、拘束されていた従業員を釈放。これも金正日が会い(8・16)、金剛山観光や開城観光など、南北交流5項目再開で合意した。

 

    硬軟使い分けてのしたたか外交。とも見えるが、実際は、核・ミサイルに対する国連の経済制裁に耐えきれなくなったからとみた方がいいようだ。制裁には、六カ国協議の参加国だけでなく、東南アジアの国々も協力している。南北関係では、「相互主義」を提唱する李明博大統領に反発して、金剛山観光に続いて開城観光の中止、開城工業団地の事業縮小などと拳を振り上げてみせた。これに驚いて、頭を下げてくると思った李大統領は、「核放棄が最優先」の原則を崩していない。

 

    金剛山観光と開城観光は、これまで北朝鮮のドル箱。これだけで年間3千万ドル(29億円)が入ってくる打ち出の小槌だった。経済・金融制裁の締め付けがきつくなるなかで、粋がって、貴重な外貨を失ったことになる。金正日は焦っているに違いない。2012年の「強盛大国」の主要な柱である未達成の経済分野は、「150日戦闘」で国民を総動員して、生産拡大を図っているが、かけ声ばかりだ。このままでは、権力世襲も円滑に行かない。「核保有国」を誇ってみても、国民の腹が一杯になるわけではないからだ。

 

    もちろん、最大の軍事脅威、米国の体制保証も必須条件だ。このため人質を返したが、オバマ政権は、制裁解除について「非核化措置を積極的に実施すること」(国務省)と、原則を崩さない。それだけでなく、金正日の秘密資金を扱うと言われる金融機関への制裁も追加した。そこで考え出したのが、韓国への揺さぶり戦術だ。

 

    金大中の死去により、韓国内に対北融和の世論が強まり、対話の呼びかけを拒否できないと踏んでのことだ。それに、金剛山観光などを再開すれば、再び巨額のドルが入る。そうなれば、金融制裁に風穴をあけることになり、韓国は日本や米国の非難を受ける。日米韓の離間策にも有効だ。まずは、南北赤十字会談が行われた(8・26―28)。しかし、金剛山観光などはどうか、巨額のドルは、金正日の独裁維持と核・ミサイル開発に流用されるのは確実、このあたりを理性圏はよくわかっているはずだ。

 

    先の李明博との会談で、北の弔問団が伝えた金正日のメッセージの中には、南北首脳会談の提案もあった、と韓国メディアは伝えた。もっとも、それには金大中・盧武鉉政権の南北合意の履行が条件になっているようだ。この合意は、鉄道や港湾のどの大型インフラ整備が含まれている。垂れ流しの対北支援だ。この席で、李明博は「北が非核化に応じるなら、大型経済支援」という対北政策を伝えた。金正日が目論むように、簡単には経済支援を手に入れることは難しそうだ。南北対話を進めるのはいいが、李政権の冷静な対応が求められる。制裁回避に利用されてはならないし、「核放棄」につながるものであるべきだ。

 

    余談だが、北朝鮮の弔問団を報じるテレビを見ていて、神妙な顔をしているが、金大中を失意のうちに死なせたのは、北朝鮮ではないかと思った。弔問団は、「故人の北南和合と北南関係改善の意志には支持する点が多い」と金大中の功績を高く評価した。しかし、北朝鮮は金大中の「太陽政策」に背き続けてきた。「太陽政策」は、北朝鮮に太陽の暖かい光(一方的支援)を注ぐことによって、外套を脱がせよう(改革・開放)とした。ところが、北は外套を脱ぐどころか、手に入れたカネで、頑丈なよろい(核・ミサイル)をまとい、がちゃがちゃ鳴らし、回りを威嚇し続けたのである。金大中の期待は見事に裏切られ、北朝鮮に改革・開放の気配もない。むしろ「核保有国」を誇示してやまない。

 

    北朝鮮から見れば、こんなに役に立つ大統領はいなかった。民主化の闘士を誇りながらも、北朝鮮の人権には一言も注文をつけず、ひたすらカネとモノをくれる。それに韓国内の反北朝鮮・反金正日感情を大幅に薄めた。勲章ものだ。弔問団の派遣は当然だろう。ただ、笑顔を見せたのは行き過ぎだ。