現代コリア

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米の関心、ポスト金正日 

佐藤勝巳
(2009.7.27)

 

    不謹慎を承知で書くが、米朝関係が面白い。

    ヒラリー・クリントン国務長官が、7月20日訪問先のインドで、北朝鮮を小気味よい言葉でビシッと批判したのだ。

    「北朝鮮は再び舞台の中央に立つことを望んでいるが、米国は北朝鮮にそのような満足感を与えることはない。……わたしは母親だし、子どもや身勝手な10代、関心を持って欲しいと求める人たちと接したこともあるから知っている。北朝鮮にそのような関心を与えてはならない。また、北朝鮮にそのような関心を受ける資格がない」

 

    これに対して北朝鮮外務省も、クリントン長官を「知性が全く感じられない。小学生のようでもあり、時には、市場を歩き回るばあさんのようにも見える」「引退をして世話を受けるべき老婆だ」(7月21日朝鮮日報)と すかさず反撃した。

 

    品格なき誹謗中傷を得意とする北朝鮮に、アメリカも黙っていない。

    国務省広報担当クローリー国務次官補が23日の記者会見で、「知性がないことは、北朝鮮政府が歩もうとしている道のことだ。行き詰まりを見せており、北朝鮮の人々を惨めな未来に追い込もうとしている。……北朝鮮政府が人々に十分な食糧を与えず、ミサイルを生産することこそ良識がない」(7月24日産経新聞)と 辛辣にやりかえしたのである。

 

    こんな米朝関係になると誰が予想したであろう。私にとっては全くの予想外の出来事であった。

 

    クリントン国務長官の言っていることは、全面的に正しい。オバマ政権に「アメリカを取るか、金正日政権を取るか」と迫られたら、金正日政権を支持するなどという政府は世界中にまずいない。ミャンマーですら「国連決議を守る」と言わざるを得ないのが国際的雰囲気である。

 

    ついこの間も、北朝鮮の貨物船江南号が米第七艦隊に包囲され、20日間も海上をさまよった挙げ句、どこにも寄航できず、すごすごと自国に戻った。北朝鮮は、口癖である「無慈悲な報復」はおろか、抗議声明すら今もって出すことも出来ないでいる。「抑止力という名の武力」が北朝鮮にとって如何に効果があるかを、如実に世界に知らしめた。

 

    江南号事件以来少し静かになったと思っていたら、クリントン国務長官批判に見られるような自らの力をわきまえない北朝鮮のハッタリがまた始まった。世界の目にはクレージーとしか映らないだろう。だから非同盟会議でも東南アジア諸国連合(ASEAN)地域安保フォーラム(ARF)でも北朝鮮代表に声をかけるものもいなかった模様だ。後で紹介するが、擁護しようにも擁護のしようがないのが金正日政権の態度だ。

 

    その金正日政権を支援せよと声高に主張するグループが、未だに日本にいる。和田春樹東大名誉教授は「拉致問題至上主義」を捨てて、日朝の国交正常化交渉をせよ、という趣旨の論文を雑誌『世界』4月号に書いている。核実験や弾道ミサイル実験を絶えず繰り返している金正日政権に、国交正常化をして日本国民の税金を払え、という主張だ。客観的には日本攻撃を狙っている金正日政権を支援せよということだ。

    こういうやからを通常「売国奴」と呼ぶ。社民党や共産党も似たようなことを言っているから、8月の総選挙で有権者は、こういう連中にしかるべき審判を下すべきである。

 

    金正日政権を酷評しながらもオバマ政権は、従来の段階的非核化政策ではなく「包括的パッケージ戦略」なるものを、またも言い出した。7月22日東南アジア諸国連合・地域安保フォーラム記者会見でクリントン国務長官は「北朝鮮が完全かつ後戻りできない非核化に取り組むと約束した場合、米国はパートナーとして前進し、見返りとして関係正常化が考えられる」(7月23日付韓国・中央日報)と強調している。

 

    結局、オバマ政権も、金正日政権のことが何一つ分かっていないということだ。核を放棄するはずがないことは、金正日政権の言動が証明している。にもかかわらず、何か代償を与えれば核を放棄すると未だに考えているから、オバマ政権はこんな誤ったことを言うのだ。金正日政権の本質を間違って捉えている。間違った前提に立って、ジュネーブ合意、6者協議と過去2回も騙されたではないか。核放棄の意思のないものを捉えて、包括もパッケージもないだろう。これ以上時間の浪費をしてはならない。

 

    アメリカの「包括的パッケージ戦略」に北朝鮮外務省リ・フンシク局長は反撃した(7月23日、タイのブーケットで開催された前述のフォーラム記者会見)。

    「ブッシュ政権が主張してきた<完全かつ検証可能で後戻りできない核廃棄>を繰り返しているにしか過ぎない。包括的解決策など論議する価値もないのだ……現在の危機的状況の本質は、米国による根深い敵対政策の結果という点だ。米国がこれを放棄しない状態で、包括的話し合いができると思っているのか。担保もなしに、国の安全と自主権を僅かな資金と交換できるはずがない」「国連安保理決議は全く気にしていない。われわれは半世紀にわたって制裁を受け続けてきた。6者協議は既に終わった」(7月24日朝鮮日報)

 

    ただ、クリントン国務長官とライス前国務長官との決定的な違いは、「他人の目を引くため駄々をこねる10代の子供には何も与えない」と言い切っていることである。当面、与えるのは制裁だけであろう。

 

    精一杯強がりを言いながら金正日政権は、オバマ政権に話合いを直接打診してきているという(7月26日付産経新聞)。問題は駄々をこねている10代の悪ガキに、母親がどう対応するかである。過去2回同じ誤りを繰り返し、今度は3回目だ。前述のように母親の子どもの本質の捉え方が間違えているから、間違った対応する可能性が高い。

 

    しかし、オバマ政権の関心は〝ポスト金正日〟に焦点が合わされている。7月22日、ティーモンシー・キーティング米太平洋艦隊司令官が「太平洋司令部は、北朝鮮で不確実な権力の継承が行なわれた場合、(オバマ)大統領の命令があれば、在韓米軍などとともに実行できる計画を有している」と発言していることや、国防総省マイケル・ナット国務次官補(世界戦略担当)が、7月15日議会下院公聴会で、「現在進められている北朝鮮の権力継承問題を含め、『北朝鮮の将来に関するシナリオを検討している』」(7月24日朝鮮日報)と述べていることから、オバマ政権は、水面下で金正日の死後に備えての準備を進めていることがうかがわれる。

 

    北朝鮮情勢は基本的にポスト金正日に移っている。重大な変化が到来しようとしていることは間違いない。米韓の足並みは揃っている。わが国はどう対応するのか。民主党にこのような危機意識は全くないから対策もない。早く気がつかなければ大きく国益を損なうことになることを知って欲しい。