現代コリア

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◎将軍様は息切れか。
岡林 弘志
(2009.7.08)

 

    40日ぶりに動画で登場した金正日総書記は、すっかり憔悴した様子だった。ここ三ヶ月ほど、現地指導で無理をし、核実験、ミサイル発射と外へ向けて挑発を続けてきた。これでは息切れするのも当然だ。60過ぎての無理はよくない。

 

    北朝鮮の国際的孤立と包囲網の強化を象徴する出来事だった。
    北朝鮮の貨物船「カンナム号」が、20日間の漂流のあげく、平壌の南西部にある南浦港へ戻った(7・6)。おそらく輸出用の武器を積み、ミャンマーへ向かうと見られたが、米第七艦隊の執拗な追跡と、日米中などの関係国への働きかけで、どこへも寄港することができなかった。

 

    長距離ミサイル発射、核実験に対する対北国連安保理の制裁決議が、見える形で効果を発揮した。金正日は、あらためて制裁が見せかけでないことを実感したに違いない。

 

    それにしても、金日成死去15年の追悼大会に姿を見せた金正日の衰弱ぶりは、哀れを催すほどだ。足を引きずり、頭髪はさらに薄くなり、左の口元が歪んでいる。やせ細った姿はガンか糖尿病の末期のように生気がなかった。

   

    最高人民会議(4・9)に出席した時以来、三ヶ月ぶりの動画の配信だ。このところ、日韓のメディアが「現地指導の写真は過去のものを使い回している」「実際に現地に行っていないのでは」「再び倒れた」…などと報道したのを意識してのことだろう。

 

    しかし、今回の動画は金正日の健在を証明するより、衰弱がいっそう進んだことを内外に知らしめる結果を招いている。

 

    衰弱の直接の原因は、働き過ぎか。今年上半期の現地指導などの動静報道は、昨年同期の49件を大きく上回る76件。過去最高を記録した(ラヂオプレス)。

 

    最近は現地指導といっても、写真を撮るほんのわずかの間だけ姿を見せて帰ってしまうという情報もある。それでも、病み上がりで動き回れば、疲れるのは当然だ。
    息切れ状態であるのは間違いないだろう。
    そんな折、ワシントン・タイムズは、米政府当局者や外交筋の話として「金正日総書記は昨年夏の健康悪化の回復が思わしくなく、余命は一年の可能性がある」(7・9)と伝えた。息切れどころでなく、息が止まるというのである。

 

    憔悴のさらなる原因は、対米関係の読み違いだ。金正日はあの強面のブッシュですら二期目には融和路線を余儀なくさせた。まして、はじめから対話路線を表明したオバマは与しやすしと思ったに違いない。

 

    米朝関係改善-独裁体制への保証取り付けを頭に描き、今年の新年共同社説では珍しく対米非難をしなかった。しかし、オバマ大統領は、金融危機、イラク、アフガン、イランへの対応に追われ、対北関係は後回しにされた。

 

    焦った北朝鮮は、いつもの揺さぶり戦術。人工衛星と称する弾道ミサイル発射予告(2・24)、ミサイル発射(4・5)、核実験(5・25)、中短距離ミサイル乱射(7・4)――。

 

    これに対して、オバマ政権は対北制裁の先頭に立ち、北朝鮮がいやがる金融制裁も着々と実行に移しつつある。先述したように船舶追跡に軍艦まで動員した。
    対話重視だからこそ、脅しに屈して対話のテーブルに着くことはできない。完全な読み違いだ。

 

    もう一つ、対韓国も読み違った。各種の交流を打ち切り、軍事的緊張を高めれば、韓国国内の親北勢力が呼応した動きを見せ、李明博政権は折れるはずだった。ところが、対北制裁に率先して動き、北が「宣戦布告」と警告した米国主導の大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)への全面参加を決めた。

 

    さらには、北の挑発に備えて、ミサイル対処、対北攻撃能力強化などを盛り込んだ「国防基本計画」の修正内容を発表した。

 

    北朝鮮の挑発は、完全に裏目に出ている。国際社会は、ここ十年以上も北朝鮮の揺さぶり戦術、恫喝外交に翻弄されてきた。その記憶が鮮やかなのに、同じ過ちを繰り返すほど愚かではあるまい。

 

    焦りの表れか。
    7月に入って、米国と韓国のホワイトハウス、青瓦台をはじめ政府機関や金融機関、メディアのネットがハッカー被害にあった。これほどの規模になれば、サイバーテロだ。韓国の国家情報院は「背後に北朝鮮かそれを支援する勢力の仕業」と見ている。

 

    いま、北朝鮮は2012年の「強盛大国」実現の大目標に向け躍起になっている。「経済大国」を目指す「150日間戦闘」が9月まで続く。かつて「100日」「200日」などの戦闘が行われたが、無理な国民総動員は、その後の経済を一層混乱させただけだった。今回も同じ過ちを繰り返すに違いない。

 

    北朝鮮は、国際的な非難をものともせず、これからも核・ミサイルの挑発を続けるのか。
    今年に入って、北朝鮮がミサイル発射、核実験につぎ込んだ金は、7億ドル(約672億円)にのぼる(7・6朝鮮日報)という。
    国家予算34億5千万ドルの北朝鮮にとっては巨額だ。こちらの方も息切れという感じがする。

 

    今のところ、外部からの強い風当たりを国内引き締めに利用しているようだが、これ以上の孤立は喫緊の課題である「権力世襲」にも、幾多の障害を生む。
    経済は破綻寸前、国際的に孤立無援の国を引き継ぐ後継独裁者というのは哀れだ。明日があるはずもない。                   (了)