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オバマ政権の断固たる行動                          

佐藤勝巳

(2009.07.07)

 
    日本では近々行われる総選挙に関心が集中しているため、金正日政権とオバマ政権との間に予想も出来なかった緊張状態が生まれ、金正日が重大な政治的危機に直面していることに気づいている人は少ないようだ。

 

    北朝鮮の貨物船が、アメリカ第七艦隊のイージス艦などに追跡され、シンガポールやミャンマーに入港することも、ベトナム、中国にも寄港が許されずに、7月6日、北朝鮮に空しく帰港した事件が起きた。

 

    国連安保理で北朝鮮に対する制裁決議1874が全員一致で採択されたとき、北朝鮮外務省は「米国と追従勢力が封鎖を試みたら戦争行為とみなし、断固軍事的対応をする」(6月13日)と声高に叫び、6月17日には、国連安保理決議をあざ笑うかのように、大量破壊兵器並びに関連物資を積荷していると目される「江南(カンナム)号」を北朝鮮南浦港から出港させた。

 

    オバマ政権は、この貨物船を監視している、とアメリカのメディアにリークしたが、それが第七艦隊所属の1万トン級のイージス艦であることがまもなく判明した(後で駆逐艦と交替した)。

 

    イージス艦は最先端のハイテクで装備した240発の巡航ミサイルを搭載している軍艦であるのに比して、テレビに映った江南号は、せいぜい3000トン程度と思われるサビだらけのよれよれの貨物船だ。その「みすぼらしい」江南号を、KH12偵察衛星、P3C哨戒機などが24時間体制で大々的に追跡したのであるから、追跡される貨物船にとって、まさに恐怖以外のなにものでもなかったと思う。

 

    「封鎖」は「戦争行為とみなし、断固軍事的対応をする」と声明した北に対し、米海軍作戦部長は「数多くの艦艇を動員した」と語っている。ということは、空母ジョージ・ワシントンを始め第七艦隊の主力(平時で2万人、戦時で4万人)を極東海域に展開したということであろう。

 

    しかし北朝鮮は、声明とは裏腹に「断固軍事的対応」はとれず、江南号は6月28日ベトナム沖から突然、進路を変えて北上し、7月6日北朝鮮領海内に戻ったのだ。

 

    金正日政権は大言壮語したものの、アメリカの圧倒的な軍事力を目の当たりにして、手も足も出すことができなかったのだ。洋上をさまよっている貨物船を中国すら寄港を認めず、北朝鮮に追い返された姿は完全孤立。彼らにとって文字通り「屈辱の敗北」であったのだ。

 

    江南号は、シンガポールやミャンマーに行くのをなぜ中止したのか。シンガポール始め東南アジア諸国連合(ASEAN)は、米国などの要請で入港拒否をした可能性が高い。

 

    もしシンガポールが江南号の入港を認めたら、国連制裁決議1874に基づいて、金正日政権の了解を得て江南号の積荷検査をするよう、要請される。北朝鮮が検査を拒否することは明白だ。東南アジア諸国はアメリカ第七艦隊によって安全が保障されているのは紛れもない事実である。

 

    アメリカを取るか金正日政権を取るか、と問われればASAEAN諸国は、アメリカや国連安保理の意向に従うことになることは自明なことである。

 

    従ってシンガポールを始めとしたASAEAN諸国の選択肢は、北朝鮮船舶の入港に対して理由をつけて断る以外ないのだ。ミャンマーも他の諸国も事情はそれほど変らない。

 

    また北朝鮮船籍以外の船舶が北朝鮮に入港する際も、国連決議1874に基づき、その船舶を韓国や日本の領海に誘導し、船籍国政府の了解を得て積荷検査が可能となる。

 

    今回のオバマ政権の軍事行動を見て、世界中の船会社は危険を避け、北朝鮮行き貨物は引き受けないであろう。かくして北朝鮮に対する事実上の海上封鎖が実現した。米海軍ゲイリー・フラヘッド作戦部長は「監視や追跡は今後も続ける」と発言している(朝鮮日報7月8日)。

 

    金正日政権は今まで、オバマ政権は軍事力を行使できないと甘く見て、ミサイルや核実験を行ったが、今回のオバマ政権のすばやく断固たる行動は、今後弾道ミサイルや核の実験を行なったら北朝鮮を第七艦隊で包囲する、という警告(恫喝)でもある。

 

    中国は国連決議1874作成過程で、公海上での臨検に反対した。領海内での臨検も船籍国政府の了解が必要と制裁を骨抜きにしたかに見えた。ところが今回、第七艦隊のイージス艦などの追跡というデモンストレーションで、北朝鮮の海上封鎖を実現したオバマ政権の対応は、さすがに「アメリカ帝国主義」の名にふさわしいものであった。

 

    金正日政権も北京も、オバマ政権を見直さざるを得なくなった歴史的事件と言える。私はこんな事態が起きるなど全く予測できなかった。国際政治は何が起きるか分からないことを改めて勉強させられた。

 

    金正日政権が震え上がっていると思われることは、米軍に対して軍事的対応を一切起こせなかったばかりか、抗議声明すら出していないことが恐怖を裏付けている。かつて本欄で指摘した記憶があるが、金正日政権にはアメリカと交戦する意思も能力もないのだ。それどころか、金正日政権のハッタリが全世界に暴露され、商船を使っての貿易すらも止まってしまった。

 

    アメリカはまた、マレーシアで北朝鮮のマネーロンダリングをやっていた金融機関を突き止め、バンコ・デルタ・アジアに取った「アメリカの全金融機関との取引停止」措置を取ろうとしている。オバマ政権の金正日政権に対する外交、軍事、情報、金融と容赦なく弱点を追及、締め上げに入っている。

 

    ということは、1994年の第一次朝鮮半島核危機と同じ構図になってきた。このときはカーター元大統領が訪朝し金日成と会談、「核放棄」という北朝鮮の謀略にかかり、「ジュネーブ合意」となった。多分、これと似た動きが始まると推定される。が、当時と今と決定的に違うのは、金正日政権の核保有が現実的となり、核拡散防止体制が危機に直面し、余裕がないことである。

 

    それなら、オバマ政権は金正日政権の崩壊まで視野に入れて抑止力を行使しているのか。今のところオバマ大統領にその意志は見られない。結局、話し合いに戻るという流れになりそうだが、金正日政権の韓国への軍事攻撃なども含めて何が起きるか分からない。

 

    しかし、カーター訪朝直後、ストレスのためか金日成は心臓麻痺で急死した。オバマ政権のこのたびの抑止力行使が北朝鮮政治上層部、とくに国防委員会内に何を引き起こすのか現時点で予測出来ないが、彼等が完全な読み違いをしたことは明らかである。金正日にとってはショックでないはずがない。情勢は大きく動き出した。

 

    さて、自民党の安全保障政策は見える。民主党の安保政策は人によってばらばら。党として何をするのか皆目分からない。国家の安全こそが政党の最重要課題のはずだ。国民、とくに報道機関は民主党に、総選挙を前に安保政策の明確化を求めるべきである。