北朝鮮研究の現状③ 東京新聞記者 五味洋治 (2009.06.29) シンクタンク2 北朝鮮問題を専門的にテーマとして扱うシンクタンクとしては KEI http://www.keia.org/ SAIS(ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院) http://www.sais-jhu.edu/ 世宗ソサイエティ http://www.sejongsocietydc.org/ がある。 北朝鮮を含む幅広いテーマを扱っている機関としては次のようなものがある。 CSIS(戦略国際問題研究所)http://www.csis.org/ ヘリテージ財団 http://www.heritage.org/ ブルッキングス研究所 http://www.brookings.edu/ イースト・ウェストセンター http://www.eastwestcenter.org/washington カトー研究所 http://www.cato.org/ アメリカン・エンタープライズ研究 http://www.aei.org/ 私が米国に滞在している期間中、これらの機関が開くセミナーに毎週のように参加した。 米韓経済研究所(KEI)は、韓国政府が1982年に設立した非営利団体で、有識者を招き、非常に活発に講演を行っている。ワシントンにある数ある研究機関の中でも、もっとも北朝鮮問題に熱心といえる。 最近は経済だけではなく、人権問題にも対象を広げ、北朝鮮に関するNGO(非政府組織)の代表者も招いて、講演をしてもらっている。 講演内容をまとめた「Academic Paper Series On Korea」という雑誌も発行。さらに北朝鮮問題をテーマとした「The Korea Club」という親睦サロンも、ここが主催し、月1回のペースで開いている。 ソウルの韓国対外経済政策研究院(Korea Institute for International Economic Policy) と協力関係にあり、政策研究や韓米関係促進のための事業を行っている。 KEIのホームページには、北朝鮮の経済データもある。セミナーの内容は最近、ネット上に映像で公開されている。 所長はチャールズ・プリチャード(元米国朝鮮半島和平担当特使)。北朝鮮とは対話で問題を解決するべきだ、との信念の持ち主だ。クリントン、ブッシュ政権時代に、対北朝鮮政策に関わった。 2003年に、特使を辞した後、日本の一部マスコミに対して、「ブッシュ政権には内部の意見対立を調整し、まとめることの出来る人物が全くいない」と批判的に述べたこともある。(注1)その後、ブルッキングス研究所の客員研究員となり、『失敗した外交』(Failed Diplomacy Brookings Institution Press 2007)という本を書いた。この中で、ブッシュ政権の対北朝鮮政策について「「政策失敗の大きな要因となったのは、政権高官の大半が北朝鮮への対応に未経験であったことと、交渉による平和的解決という目標を掲げながら本心では体制崩壊を望んでいるという表裏の矛盾があった」と書き、ブッシュ政権を批判している。(注2) SAISも非常に活発だ。北朝鮮をめぐる現在の研究も行われているが、私が関心を持ったのは、中朝国境に関する研究や、北朝鮮をめぐる統計に関する報告である。『二つのコリア』を書いた元ワシントン・ポスト紙のドン・オーバードーファーがチェアマンとしてトップを務めている他は、ほとんどが韓国系米国人で占められており、韓国の大学のワシントン分校のような様相を見せている。 http://www.uskoreainstitute.org/ 世宗ソサイエティは、SAISの中にあり、外交に限らず、北朝鮮や韓国に関する幅広いテーマでセミナーを開いている。 ヘリテージ財団は、保守派の代表格とされるシンクタンクだ。北朝鮮を専門とする研究員もいる。現在は、元中央情報局(CIA)分析官だったブルース・クリングナー氏が上級研究員を勤める。彼は「北朝鮮の時間稼ぎを許すべきでない」と繰り返し語っている。 クリングナーの前には、デビッド・アッシャーが同じ役職に就いていた。彼は国務省に勤務していた時、北朝鮮の不正行為に目を付け、金融制裁という形で、北朝鮮の口座を凍結し、北朝鮮の国際信用を落とした。北朝鮮の金冠寛外務次官が「金融は国家にとって血液と同じ。血液が止まれば、いずれ心臓も止まる」と強く反発したのが記憶に新しい。 その後、金融制裁はなし崩しに解除され、彼も国務省を辞めて、ヘリテージ財団から、ニューヨークのヘッジファンドに仕事を変えている。 彼の書いた報告書は今も、同財団のホームページで読むことができるが、北朝鮮の違法活動を止めることが、北朝鮮の挑発を止める有効な方法だとの主張だ。http://www.heritage.org/about/staff/davidasherpapers.cfm アッシャーにしても、クリングナーにしても、北朝鮮懐疑から出発している。保守派の北朝鮮観が反映しているといえる。 ブルッキングス研究所は民主党系とされている。オバマ政権になってからは、政府関係者が数多く、ここで講演している。 同研究所で開かれた、印象的な講演を1つ書いておく。 2008年10月、中国国際問題研究所、晋林波研究員が講演したことがある。彼は、中国の外務省傘下の研究機関で日中関係を専門にしているが、この時ブルッキングに招かれ、研究員をしていた。 晋とは私が北京で勤務していた時以来の友人である。 講演の題名は「北朝鮮核問題のパラドックス」。彼の発言の中で興味深かったのは、六カ国協議の役割に懐疑的とはっきり話したことで、中国にとって得るものがない、というのだ。 金正日総書記が生きている限り、北朝鮮は核兵器を放棄しない。中国にとって北朝鮮は同盟国だが、バッファーゾーンとしての北朝鮮の役割は終わったという。 もちろん彼の意見が、そのまま政府の意見とはいえない。私が北京で彼にインタビューした時も、同じような意見を持っていたがその時よりもさらに、北朝鮮に対する冷静な見方との印象を受けた。 こういった多様な意見が出てくるところが、ブルッキングの特徴だろう。 (注) (1)「毎日新聞」 2003年10月8日付 (2)『失敗した外交』161ページ |