北朝鮮研究の現状② 東京新聞記者 五味洋治 (2009.6.25) 北朝鮮研究第2世代 第2世代は1994年に起きた第1次核危機前後に、北朝鮮研究を始めた人たちだ。北朝鮮の政治体制よりも、核開発、食糧問題など専門的な部分にも目を向けているのが特徴と言える。その中から特に印象的な人をピックアップしてみる。 核開発問題は米国の専門家が最も詳細なデータを持っている。たとえばワシントンを拠点とする研究機関、米民間軍事分析機関「科学国際安全保障研究所(ISIS)」のデビッド・オルブライト氏が、この分野の第一人者だろう。 ISISは、ワシントンの中核駅であるユニオンステーションの近くのビルの中にある。事務所は非常に小さいが、影響力は大きい。最近新しい本を書いているそうで、直接会う機会には恵まれなかった。
同氏は国際原子力機関(IAEA)査察官を務めた核専門家で、民間の商業衛星を利用して北朝鮮の核施設を定期的に撮影し、それを元に北朝鮮の核能力を分析している。 オルブライト氏は2007年2月には直接訪朝。その後、北朝鮮が今月までの時点で、核兵器5~12個分に相当する28~50キログラムのプルトニウムを抽出したとの推計結果を発表したこともある。(注1)] 核問題でいえば、米スタンフォード大学のルイス名誉教授とロスアラモス国立研究所のヘッカー元所長らは米国の核専門家としてたびたび訪朝している。2004年1月には北朝鮮・寧辺の核開発施設を訪問した。 ヘッカー氏は、核兵器製造にも使える「プルトニウム」と北朝鮮側が主張する物質を見せられたことを認めた。 この時、オルブライト氏の著作『Solving the North Korea Nuclear puzzle』(ISIS,2000)を元に、北朝鮮の核施設を検証したと言われている。(注2) 米シンクタンク、国際政策センターのセリグ・ハリソン・アジア国際政策センター(CIP)アジアプログラム局長は元ワシントン・ポスト紙記者だ。前に触れた、コロンビア大学のチャールズ・アームストロングが彼の著作を推薦著書に挙げている。 2009年に訪朝した際、北京で、6カ国協議の合意に基づいて北朝鮮が申告したプルトニウム30・8キロについて、同国当局者が「すでに兵器化しており、兵器は検証できない」と語ったことを明らかにした。また、この訪朝を元にして、ハリソン氏は、2009年6月17日、 下院の公聴会で「最近国連安全保障理事会で決議した北朝鮮制裁を履行する過程で摩擦が発生し、北朝鮮が攻撃を敢行する場合、その対象は韓国ではなく日本になるだろう」と予想した。 その理由については、「北朝鮮では日本の植民地時代の帝国主義に対する反感が根強い」。さらに、2002年に小泉首相(当時)が訪朝した際、金正日総書記が拉致問題を認めて謝罪した点を挙げ、「(北朝鮮に)謝罪に対する批判的な意見があり、若者の間では反日やナショナリズムの考えが広がっている」と説明し、関心を呼んだ。 北朝鮮に重要な時点に訪れることができる数少ない米国人である。ただ発言が北朝鮮寄りだと批判されることがしばしばある。 米ジョージタウン大学のビクター・チャ教授はブッシュ政権下の国家安全評議会(NSC)に所属し、北朝鮮との交渉に当たった。彼が主張したタカ派エンゲージメントという対北朝鮮外交は、一時流行語になり、ブッシュ政権下の対北朝鮮政策と受け止められた。 これについてはチャ自身の解説がある。 「エンゲージメント政策の結果、北朝鮮が手に負えないと分かった際の、最も過激で好ましくない選択肢は軍事力の行使である。これは軍事力で平壌政権を屈服、あるいは崩壊させる戦略にほかならない」 「タカ派は、平壌が兵器庫を増強するまえに、共産主義を崩壊させることが緊急課題だと考えている」(注3) 現在も北朝鮮について活発に発言しているが、軍事力行使という発言はなくなった。朝鮮半島で戦争が起きた時の代償が、あまりにも多いことに気がついたのかもしれない。 ジョンス・ホプキンス大学国際大学院(SAIS)韓国チェアーでもあり、2009年5月に起きた北朝鮮の第二次核実験後は、対北朝鮮政策を語れる人物として、マスコミに引っ張りだこだ。 ゲイリー・セイモア米外交問題評議会副会長兼研究部長はクリントン政権下で安全保障を担当した。セイモアはホワイトハウスに新設された大量殺傷武器拡散およびテロ行為防止調整官室の責任者に選ばれた。 調整官室はホワイトハウスに設置されたが、国家安保会議(NSC)に所属せず、北朝鮮や、イランと旧ソ連邦国の大量殺傷武器問題と核拡散、国際テロ行為などと関連した調整機能を担当する。 調整官室は特に国務省、国防省、エネルギー省をはじめとする連邦政府部署の関連業務を総括、調整する。副調整官を含め10人の関連分野専門家たちで構成されているという。 セイモアはクリントン大統領時代の90年代中盤、国務省で非拡散担当責任者を経験した。米・北朝鮮核交渉首席代表のロバート・ガルーチ大使の特別補佐官で北朝鮮と何回も交渉に参加した経験がある。 ブッシュ大統領時代は、核問題に関する政策が混線したが、これで大統領を中心とした調整が円滑に行くとみられている。「北朝鮮の核問題について最も正確な見通しを持っている」と評される。 セイモア氏の考え方は、核不拡散に重点を置くもので、外交問題評議会のホームページに掲載されている彼の文章から伺うことができる。これはオバマ大統領の考え方ととても近い。 最近のインタビューで、「北朝鮮が核を放棄するか、疑問に思っている」と述べた。また、「他に選択肢がない以上、このプロセスを続けるしかない」と基本的には北朝鮮の核問題をテーマとした六カ国協議を続ける姿勢だ。「最終的には北朝鮮は崩壊する」と判断している。(注4) 核をめぐっては、ブッシュ政権時代のような妥協はしないということだろう。ワシントンの北朝鮮ウオッチャーの中には、彼が北朝鮮の核問題を主導するのではないかとの見方が強い。 北朝鮮の飢餓について研究した本としては『北朝鮮 飢餓の真実』(アンドリュー・S・ナチオス、扶桑社、2002年)がある。彼は現在、ジョージタウン大学に所属しており、2008年に彼の研究室を訪ねたことがある。 細身で白い髭を生やしていて、典型的なエリートという印象。昔NGO(非政府組織)で働いていたとは思えない鋭利な印象だった。 彼が言うには、北朝鮮の飢餓の原因は配給制の崩壊が原因。北朝鮮では都市部ではなく、農村地帯で飢餓が広がっている。これからもどんどん深刻化するだろう。肥料が韓国から行かなかったことが理由だろうと話していた。 今は特に現地調査をすることはなく、新聞と韓国の仏教団体「良き友達」が送ってくるニュースレター、米国政府からの情報などで分析をしていると話していた。 米政府によってスーダンの特使に選ばれたが、その後辞任し、大学に専念している。 学会 シンクタンク 韓国系の学会としては次の2つがある。北朝鮮のほか、南北関係、韓国と米国の関係などを専門とする人たちが集まっている。 The Korean American Professional Society http://www.kaps.org/ International Council on Korean Studies http://www.icks.org/ 以下は、北朝鮮を研究する学者のグループ。 http://asck.org/ ASCKは、両国間の問題は対話を通じてのみ、解決できると主張し、朝鮮半島について学ぼうとする人を援助する考えを表明している。 [注] (1)北朝鮮核計画の廃棄・検証構想:北朝鮮核廃棄に向けた段階的取り組み (http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2005/01044/mokuji.htm) (2)ヘッカー氏の報告 http://kakujoho.net/susp/hecker.html (3)いずれもビクター・D・チャ『ブッシュ政権の対北朝鮮強硬策の全貌』フォーリン・アフェアー ズ・ジャパン編・監訳『アメリカと北朝鮮』の138~141ページ) (4)http://www.foreignaffairsj.co.jp/essay/200901/green_samore.htm |