オバマ大統領「重大かつ深刻な制裁」を警告 佐藤勝巳 (2009.6.22) 6月13日、国連安保理は金正日政権に対し「船舶の臨検と金融制裁」を全員一致で決定した。
これに対し金正日政権は、プルトニウム、濃縮ウランによる核開発の継続の表明と3ヵ所の基地からの弾道ミサイル発射準備で応えている。彼らの国連に対する態度は、文字通り「目には目を歯には歯を」という狂気ともいえるものである。 国連は軍隊を持っていないから、実際に北朝鮮に出入港する船舶の積荷検査は、大量破壊兵器・ミサイル及びそれらの関連物資の拡散を阻止するための「核拡散防止機構」(PSI)参加国ということになろう。 PSI参加国は09年5月27日現在、「日、米、英、伊、オランダ、豪、仏、独、スペイン、ポーランド、ポルトガル、シンガポール、カナダ、ノルウェー、ロシア、デンマーク、トルコ、ギリシャ、ニュージーランド、アルゼンチンの20ヵ国をはじめとする95か国」(外務省)で、最近韓国が加盟したので96ヵ国となる。 中国はPSIに参加していない。国連決議を本気で実行するのかどうかも分からない。 2006年北の第1回核実験直後、国連で金正日政権に対する制裁決議1718号を採択した。だが、2年後の08年10月、ブッシュ政権はこの決議の趣旨に反して金正日政権をテロ支援国家指定から解除したことは記憶に新しい。 国連決議は実行しなくても罰則規定がないから、加盟国が守らなければそれまでである。日本も民主党が天下をとったら、インド洋での給油活動を中止すると言っている。国連決議や約束事は、当該国の政権の考え次第でたちまち紙くず同然となる、はかないものである。 結局、金正日政権に核を放棄させることが出来るかどうかは、その時々の国際的な、特に大国の「利害と力関係によって決まる」というのが現実だ。 繰り返し本欄で指摘しているように、金正日政権の政治的目標は、核ミサイルを手にして「強盛大国」になる、という一点突破全面展開にかけている。従って彼らが国際社会と妥協し、核を放棄するなどということは、重ねて言うが考えられない。 問題は、このような金正日政権にどう対処するか、である。オバマ大統領は、16日李明博大統領との会談後の共同記者会見で、「われわれは(過ちに対して見返りを与えるような)過去のパターンを繰り返すことはないだろう。北朝鮮が今後も脅迫を続けるなら、重大かつ深刻な制裁に直面するようになる」と言い、李明博大統領は「交渉を行ないながら、後からその内容を足蹴りにするような北朝鮮の戦略は今後通用しない。この点北朝鮮も悟るようになるだろう」(朝鮮日報6月17日)と、過去の誤りは繰り返さないことを強調した。 オバマ大統領は、ブッシュ政権のようないい加減な交渉はしない、引き続き金正日政権がミサイルや核実験を行なうなら「重大かつ深刻な制裁」を行なう、と言い切った。外交的発言は駆け引きがともなうから額面通りには受け取れないが、当然この発言には軍事オプションも含まれるということになる。それにしても世界の軍事超大国アメリカ大統領のこの種発言は、軍事的裏づけのない国連決議などと違って重さが違う。 業績を残したいと焦るブッシュ政権に脅しが利いたことに味をしめた金正日政権は、同じ手を就任してまもないオバマ政権に使ったが、これは完全に金正日政権の読み違いである。独裁政権に弾道ミサイル、核実験をやられて、話し合いなどと間抜けなことを言っていたら、「オバマ恐れるに足らず」となり、世界で一斉に核が拡散することになる。 金正日政権の読み違いが、オバマ政権を引くに引けないところに追い込んでしまった。従って、北朝鮮情勢は予断を許さないことになってきた。 いまひとつ予断を許さない要因は、韓国李明博大統領のオバマ大統領との記者会見のなかで「北朝鮮は開城工団について無理な要求を突きつけている。行き過ぎた要求を続けるようなら、開城工団問題に関して、(わが国の政府が)どのような結論を下すか分からない」(前掲紙)と閉鎖をも示唆する発言をしたことである。 この李大統領の発言は、金正日政権にとってはオバマ発言と同レベルの衝撃的なものであったと推測される。金正日政権は昨年末から、李明博政権に向かって金大中・盧武鉉政権が北に約束した経済協力などを実行せよ、しなければ戦争になる、とテレビなどに出演した朝鮮人民軍スポークスマンを通じ、韓国を再三脅迫してきた。 開城工業団地は、金大中氏が金正日氏に約束、2000年に軍事境界線近くの北朝鮮内の開城で発足した。北が提供したのは土地と空気と低賃金労働者だけ。インフラは韓国がすべて提供し、韓国の中小企業(約100社)が北朝鮮の労働者を使ってモノを生産し、相互に利益を得る。万一、進出企業が赤字を出したら韓国政府が補填する仕組みになっている。 しかし、それはあくまでも表向きであって、実態は、金正日政権を援助する犯罪的な仕組みなのである。4万名の北朝鮮労働者の月額76ドルの賃金 (労働者の手に渡るのは実態として2ドル程度) の殆どを金正日政権の懐に入る搾取装置である。金大中という政治家は金正日の共犯者なのである。 北の朝中貿易はいつも輸入超過で赤字なうえ、偽ドル、麻薬・覚せい剤、武器輸出などの非正常な収入を除けば、まともな外貨収入は開城の労働者の賃金のピンはね及びその他の南北の数百の合弁事業から得ている賃金しかないはずだ。 今や北朝鮮経済の生殺与奪権を韓国に握られているにもかかわらず、金正日政権は4月21日に開かれた南北協議で、工業団地の土地使用料支払いの前倒しと労働者の賃上げなど契約の全面的な見直しを韓国側に通告。5月15日には、工業団地の契約無効を宣言し、新たな条件を受け入れる意思がなければ団地から撤退してもよい、と恫喝をかけている。 労働者の賃金値上げ要求は今までの4倍。開城の北朝鮮労働者の賃金が中国などに比べて低いのは事実である。しかし、電気や道路などインフラのすべてを韓国側が造成し、負担している。この事実を無視して賃上げを認めなければ団地から退去してもよいという金正日政権の言い分に、前述の李明博大統領の「行き過ぎた要求」発言云々は、いかにも歯切れが悪いが撤退もありうるというニュアンスを滲ませている。 はっきり言って、李明博政権は核保有を目指している金正日政権を何故に援助しなければならないのか。開城工業団地は大統領の権限で、東アジアの平和と安定のために速やかに閉鎖すべきである。 日本政府は6月16日、独自の制裁として日本からの北朝鮮への全輸出品目の禁止措置などを決定した。だが、これだけでは十分ではなく、核ミサイル開発に関与している総聯系在日朝鮮人の再入国許可(外国人が日本から出国し、再び日本に入国するときは事前に法務大臣の許可が必要である)をしないことである。 これは閣議決定の必要はなく、法務大臣の権限でできる。また法務大臣は国益に反する外国人と判断すれば当該外国人を強制的に国外に追放できる。法務大臣は躊躇なく権限を行使して国益を守るべきである。 アメリカは国連決議に基づいて、公海上で北朝鮮船舶の臨検のため航空機での追跡を始めた。米財務省は北に対してのバンコ・デルタ・アジアに適用した金融制裁と同じ手法の検討に着手した。国務省はテロ支援国家再指定の本格的検討に入った。オバマ政権は中国が国連決議を実施するよう、元国務長官キッシンジャー氏を北京に派遣することが検討さしている。金正日政権はトラの尾を踏んだのかどうか、推移が特段に注目される。 問題は中国である。 中国が中朝国境を閉鎖したら、北朝鮮経済は1週間と保たないはずだが、中国はそれを承知しながら閉鎖しようとしない。理由はいろいろ考えられるが、最近の「人民日報」の姉妹紙「環球時報」は、北のタブー金正日の病状が芳しくないことを報道したが、北に対し相当頭に来ていることはがうかがい知れる。 日韓米が本気で制裁をかけることが分かれば、主導権は日米間に握られる。中国はいい加減な態度は取っておれないようになる。ロシアは国連安保理決議作成過程で日米と殆ど足並みを揃えてきた。 以上を見れば分かるように、金正日政権は完全孤立、彼らを取り巻く国際環境は一挙に厳しさを増してきている。今度弾道ミサイルを太平洋に向けて発射したなら、米軍のミサイル防衛で迎撃する可能性が4月に比較し高まってきている。 日本は、当面、自主防衛の第一歩として、距離の長い巡航ミサイルと弾道ミサイルを保有すべきである。そして集団自衛権の解釈を早急に見直すべきである。金正日政権の核保有が確実となったなら、核保有を視野に入れた「防衛計画」の抜本的見直しが必要である。それにしてもわが国の危機感のなさは異様である。
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