現代コリア

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6者協議失敗の理由を問う
対談 洪 熒・佐藤勝巳

(2009.5.17)
       

目標実現に総力


佐藤 オバマ政権が誕生し100日が過ぎた。だが、未だアジア担当の国務次官補が議会の承認を得ていない。だから確定的なことは言えないが、アメリカの対北朝鮮政策が抑止力中心に変化するとは、到底考えられない。


 4月下旬の「救う会」などの訪米団にボルトン元国連大使は、最低のヒルよりはボズワーズ特別代表の方がましだ、という趣旨の発言(全国協議会ニュース4月28日―2)をしていたが、変化といってもこの程度のことではないかと思われる。


 さて、金日成・金正日政権の外交というより工作のやりかたは複雑ではなく、極めて単純である。朝鮮労働党結成以来今日まで、交渉相手に戦争するぞ、と脅しをかけて譲歩を勝ち取る方法と、交渉相手国内部に北の同調者を作り、政治目的を達成する方法を一貫して踏襲している。


 日本について言うなら、古くは日本共産党や日本社会党が同調者であった。だが、1990年以降は、政治家個々人(例えば、金丸信、渡辺美智雄、加藤紘一、野中宏務、中山正暉氏ら)が北朝鮮工作員によって同調者として篭絡されている。


 韓国に対しても北への同調者を韓国内に作ってきた。金大中・盧武鉉勢力はその代表例である。金正日政権は、06年秋の核実験の前から、盧武鉉政権と共同で本格的に対米工作を開始したと見られる。これからはオバマ政権に対しても大々的な工作を展開すると思われるのだが……。


 金日成父子は60年間一貫して「赤化統一」という戦略的目標を戦術的にどう実現するのか、そこに全力を集中してきた。だから、対話や交渉の場合も、話し合ってお互いに譲歩・妥協するというのではなく、あくまでも自分たちの要求を如何に相手に認めさせるかというものだ。


 平壌側のやり方は、交渉相手がどういう人物か、相手の性格、人間性、論理面、食事・趣味、趣向などを徹底的に調査・把握して利用する。つまり、総力を挙げて相手の弱点を突く。このやり方は全く変わっていない。


佐藤 金丸信氏が天皇崇拝者と分かれば、金日成は「日本の戦後の発展は天皇制によるところ大」などと平気で言う。また、金丸氏がカネに弱いと分かれば金の延べ棒を贈る、というのがよく分かる例である。


 もっともそういうやり方は、金正日政権に限ったことではなく、そもそも共産独裁国家ではどの国も普遍的に行なわれていたことであるが……。そういう共産独裁体制に立ち向かった逆の例として、レーガン大統領が国家意思として、アメリカの総力を挙げてモスクワの弱点を突いて、体制崩壊に導いた輝かしい歴史がある。
 
見くびっているから騙される


 ところが、アメリカは、共産独裁体制の中でも最も質の悪い「金王朝」に対しては、たかが人口2000万人の「あんな貧乏な小国、何が出来るか」と見くびって、片手間で対処してきたことに敗北の原因がある。アメリカが1994年のジュネーブ合意で騙され、今年の4月弾道ミサイル発射でまた騙された。金正日は必死で命をかけてやっているのに、アメリカの民主党・共和党の歴代政府はそうでなく、ヒルのような、いかがわしい人物を「代表」にして交渉をしているから何度でも騙されることになる。


佐藤 アメリカが騙される背景には、アメリカと北朝鮮は何もかも規模が違いすぎる。例のバンコ・デルタ・アジアの黒い預金2,500万ドルを金正日政権は目の色を変えて問題にした。ところが、アメリカのプロ野球球団レッドソックスが、松坂大輔投手に支払った金額は3,000万ドル以上である。アメリカが金正日政権を軽視するのは、根拠のないことではないのだが……。


 ジュネーブ協定でアメリカは、軽水炉が北朝鮮に建設されるまでの間、年間50万トンの重油を支援することを決めた。年間50万トンの重油で金正日政権が核を放棄するのなら安い安全保障費だと判断したことは間違いない。結局、この時クリントン政権は金正日政権に重油400万トンをタダ取りされ、金正日政権はこの重油で核ミサイル開発を継続することが出来た。


 アメリカと北朝鮮の政治・経済・軍事、何を比較しても、子供と横綱、蟻と象ほどの違いがあるのに、何度も金正日政権にしてやられるのは何故か。ヒルのように個人の業績の虜になっている人物をはじめ色々な理由があるが、アメリカ的価値観で金正日政権を測っていたことがアメリカの失敗の原因だったという反省が見られないことである。

 

観念論では、「革命闘争」に勝てない。


 金正日政権の本質をどのように見るのか、大きく分けて3つのタイプがあると言える。


① 自分の論理的(あるいは学問的)枠組みで分析・判断する観念論グループ。


② 金大中・盧武鉉氏らのように自分のイデオロギーに基づき主観的に北を分析、アプローチする確信犯(?)集団。


③ ありのままの野蛮な金正日独裁体制の現実を見て、分析判断する人たち。


 アメリカをはじめ世間で最も多いのが、①のグループである。次に②のグループで、そして特に「専門家」の中では最も少ないのが③である。現実を見ている人たちは「たかが50万トン」などという見方は間違ってもしない。50万トンは当時、北朝鮮の石油必要量の40%近い数字だ。


佐藤 日本政府は、2006年の安倍晋三政権誕生で、①から③に認識が移行した。その背景には10年近い拉致救出の戦いがあった。金正日が拉致を認めたことが、日本人の金正日政権認識を劇的に変えたのである。それと同時に日本政府周辺で政策アドバイザーのようなことをしていた①の観念論を唱えていた学者グループの姿が消えていった。


 有名な国際政治学者が北朝鮮に関する論文を発表し、国民の認識や政府の政策を変えたのではなく、「運動」が金正日政権に対する認識を変えたことは教訓的であった。


 アメリカは先ほど言った「あんな北はたいしたことはない」という金正日政権軽視の考えが当局者の根底にある。そこへ現実よりも自分が勉強した論理に当てはめ分析したものが、政策担当者に影響を与えるという、二重の誤りが失敗の原因だ。


 金正日政権の言動を見れば明らかなことは、彼らの姿勢は協商、交渉ではなく、生死をかけた妥協なき「革命闘争」としての戦いなのである。それにアメリカは気づくことが出来なかったから、2回も騙された(敗北した)のだ。そして、オバマ政権もそれに気がつかなければ、また、同じ誤りを犯すであろう。


佐藤 いまひとつ、軽視の問題と繋がるのであるが、アメリカ政府の政策順位では、北の「核問題」は上位ではなく下位だということだ。しかも中国政策の付属物という対応をするときがある。「ヒル、ライスとも最初から北朝鮮を分かろうとする意思が感じられない」と日本政府要人が言っていた。アメリカ価値観の押し付けはアメリカ外交のすべてに通じることであるから、深刻な事態だと思う。


 アメリカ人はすぐ「石油が欲しいなら石油をやって取引しよう」と言うが、現実は取引どころか、一方的に巻き上げられ、金正日政権を助けている。アメリカにとって、金正日政権が核ミサイルを持っても、自国に飛んでくるわけではない。リスクは韓国と日本が払うという構造である。

 

幻想の上に成り立つ6者協議


洪 「6者協議」であるが、これはそもそも「5者」で金正日政権を圧迫(説得?)して核を放棄させる、という単純明快な目標で始められたものだ。そのためには「5者」が、金正日に核を放棄させるという共通認識が前提になければ成り立たない。中国、ロシアは本当にアメリカが考えているように、北に核を放棄させようと思っているのだろうか。


 4月のミサイル発射に対する国連安保理での中国やロシアの言動を見ていると、金正日政権に核放棄を本気で求めているのかどうか疑問だ。前提条件が違うのではないか。だとすると、この6者協議は片思い(幻想)から始まった「芝居」だったと言える。現に平壌は6者協議から脱退を表明した。


 北は、もともと核放棄する意思などないから、核問題とは関係ないバンコ・デルタ・アジアの問題を持ち出してみたり、北朝鮮の非核化という場で、「朝鮮半島の非核化」などと問題をすり替えたり、駐韓米軍の査察までも口にしている。はたまた、テロ支援国家指定を解除しろ、更に「米朝の国交正常化」が先だ、など新しい問題を次々と持ち出して、協議を混乱させ、何が何だか訳が分からないようにして時間を稼ぎ、石油を稼いできた。挙句の果てに6者からの脱退だ。


 金正日に操られる韓国内の「従金(金正日に忠誠を尽くす)勢力」は、「北(金正日)は、核とミサイルという不敗のカードを持っている」と自慢してはばからないくらいだ。


 ところがこれに対して、クリントン国務長官は、性懲りもなく6者協議の場で話し合おうと北に呼びかけを行なっている。麻生太郎首相も4月末北京に行って中国首脳に、「議長国」としての中国に「6者協議」の再開を要請している。


 この米、日の態度は何としても解せない。2003年から延々と「協議」を続けてきて、土壇場で弾道ミサイル発射だ。「6者協議」で裏切られた側が、裏切ったものに対して話し合いましょうと提案するということは、滑稽で理解不能の次元でなく、無責任ではないのか。


佐藤 前提条件という点では、韓国の金大中・盧武鉉政権も北が核開発をしているのを承知で、金正日政権にこの10年間、莫大な援助をしてきた。幸い、昨年の大統領選挙で李明博氏が当選し、北の核に対して韓国、日本、アメリカの足並みがようやく揃うようになった。それまでは「6者」の中で拉致解決を主張する日本が、「5対1」などと嘲笑される情況で、前提条件はないに等しかったし、今後もそれを作ることは相当困難だと思っている。


 中国、ロシアが「6者協議」をアメリカ牽制の道具として利用するという思惑を持っている限り、「6者協議」はブッシュ政権退場と同時に終わったのである。

 

6者協議の敗因は何か


佐藤 声を大きくして言いたいのは、6者協議に参加した各国が、成功だったのか失敗だったのか総括すべきということだ。北の非核化を実現出来なかったどころか、協議の最中に核実験をされ、弾道ミサイルを発射されているのだから、失敗に決まっている。だったら、失敗の原因は何なのか、当然考えるべきである。


 アメリカは、金正日政権に2回騙されている。石油だけならまだしも、テロ支援国家指定までも解除したことは、独裁政権を助け同盟国の信頼を裏切ったのだ。それまでしてアメリカは一体何を手にしたのか、国務省に聞きたい。また、日本政府はなぜ米国のこんな態度を許しているのか。


 6者協議の「総括」もないまま、クリントン国務長官は6者協議再開を北に呼びかけているが、いくらなんでも無責任すぎはしないか。


 日本は安倍晋三政権成立以来、拉致の進展がなければ、油1滴、コメ1粒、パーツ1個も金正日政権に援助しないという態度を貫き通した。これは日本外交における質的な変化であり、画期的なことであった。


 しかし、麻生太郎首相は、北京で中国首脳に6者協議の再開に努力するよう要請していたが、再開して何を議論するのか。それよりも金正日政権は6者から脱退を宣言しているのだから、出てくるはずがない。出席を要請すればまた、「出席料」として「食糧などいくらいくら出せ」という話になる。こんな「ならず者」に、どうしていつまでも付き合わなければならないのか。


 まず日本が、韓国が、それぞれ北の核にどう対処するのか方針を持ち、日韓首脳ですり合わせを行う。しかる後、同じ価値観を持つアメリカと3者会議を持ち、金正日政権の核をどう縛るのか協議すべきである。


 その際、日韓は同盟強化のため、アメリカに対して言うべきことを言わなければならない。昨年10月のテロ支援国家指定解除の後、「アメリカ頼りにならず。結局、核を持たなければ自分を守れない」という声が、日韓で同時にあがって来ているのは偶然ではない。


 こんな愚劣な6者協議を続けていったら、韓米、日米同盟は維持できなくなっていく趨勢にあることを、アメリカに確実に伝えるべきだ。伝えるだけではなく、距離の長い巡航ミサイル配備の準備に入るべきである。

 

北を侮ってはならない


 1964年、中国が核実験をしたのを見て、中国と対立していたインドが1974年5月に核実験をした。インドと対立していたパキスタンが1998年5月に核実験を強行した。核はこのように国家関係を反映して、ドミノ現象を引き起こす。国際政治の場で核を押し止めることは難しい。東アジアは今、重大な危機に直面していることをわれわれは認識すべきである。


 金正日共産独裁体制はあらゆる手段方法を総動員して先進開放社会の弱点を突き、自分の望むものを勝ち取ってきた。それなのに先進開放社会はただ「外交的協議」を通じての解決を何人かの官僚に任せている。こんなことで勝てるはずがない。「外交的交渉」を補完する方法は、実は簡単である。先進開放社会も、共産独裁体制の弱点を徹底的に突くことを戦略目標に設定すべきだ。それを実行に移すべきである。


佐藤 自分の国は自分で守るという真剣さが欠けているから、総力を挙げて敵の弱点を突けないでいるのだと思う。存在をかけて戦いを挑んできている敵を、侮ってはならない。