外から見ていると、ヤクザが堅気の家に上がりこんで、畳にドスを突き刺し「将軍様の面子をよくぞ潰してくれたぁ。どんなオトシマエつけてくれるのか」と吠えているのと同じだが、この声明には注目すべき二つの意味がある。
まず、前回本欄で指摘したように、将軍様を「決死擁護する」ことが義務付けられている金正日の家臣たちは外の世界が全く見えない人たちだから、国連安保理に謝罪しろと迫ったことが、常任理事国になっている中国・ロシアを敵に回すことになるのだとは考えられないということだ。
次に、北朝鮮外務省報道官は軽水炉を稼動させると言っているが、これを動かすためには燃料棒に濃縮ウラン(HEU)を使用しなければならない。周知のように金正日政権は、濃縮ウランは生産していないと一貫して否定してきたが、この報道官声明は間接的に濃縮ウラン開発を認めたことである。今までウソをついてきたことを自認したという点で、小泉訪朝のとき、それまで否定してきた拉致を認めたのと同じく、「歴史的な声明」なのである。
濃縮ウランを不問に付し、6者協議をやってきたライス前国務長官並びにヒル前国務次官補の顔が見たい。要するにアメリカ政府は金正日政権の本質を何も理解していないし、する必要もないと思っているからこんなことになるのである。
国務省のボズワース北朝鮮政策担当特別代表は「制裁で北の行動を変えられるとは考えない」(「救う会」全国協議会ニュース4月28日付)と発言しているが、共和党・民主党ともに政策順位から言って北朝鮮など真剣に考える対象ではないのだ。真剣に考えなければならないのは日本や韓国であることは言うまでもない。
4月29日、30日と北京で日中首脳会談が開催された。首脳会談の前日、北朝鮮外務省は前述の「追加的自衛措置」として濃縮ウラン開発を事実上認めた声明を出した。
麻生太郎首相は北朝鮮問題について、「6カ国協議が最も現実的な枠組みであり、議長国の中国に重要な役割を果たしてもらいたい」と要請。温家宝首相は「この問題は非常に複雑だが、粘り強く自信をもって克服していきたい」と北朝鮮を説得する努力を続ける意向を示した(産経新聞4月30日)、という。
同紙の見出しは「北の恫喝にも『冷静に対応』日中で足並みを内外にアピール」となっていた。北朝鮮に対して日中が戦略的に対処することはよいことだが、2003年から始まった6者協議を日本、中国、アメリカはどう総括しているのだろう。
アメリカは、1994年のジュネーブ合意から金正日政権に騙され続けるという歴史を繰り返している。しかし、中国は一貫して「朝鮮半島の非核化」と言って北朝鮮の核保有に反対を表明してきた。日本はここ数年、拉致と核の同時解決を主張してきた。
しかし、金正日政権は核実験をし、弾道ミサイルの実験をするに至った。後、残されているのはミサイルに搭載可能な核爆弾の縮小化だけだ。
このように見てくると、この6年間の6者協議は日本や韓国にとって失敗だったのだ。だとすると麻生太郎首相の認識は甘過ぎはしないか。
大陸間弾道弾、中距離弾道弾、それに搭載可能な核爆弾を持っている中国にとって、北朝鮮のあの程度の核ミサイルは軍事的脅威とはなりえない。だから北朝鮮の「挑発」に乗らず「冷静に対応しながら6者協議への復帰を促す」と呑気なことを言っていられるのだ。
中国政府は北朝鮮との関係で緊張が高まった場合、自分の意志で軍事行動ができる。また中朝国境を閉鎖したら、北朝鮮は1週間も持たないだろう。北朝鮮の生殺与奪の権は中国が握っているのだ。
だが日本は、金正日政権から核攻撃を受けるような情況になったとき、日本政府の意思ではなく、アメリカ政府の意思に頼らざるを得ない仕組みになっている。やはりこの国は主権国家ではなく、「植民地」なのだ。
その意味で、「救う会」、家族会、拉致議連がアメリカに陳情に行くのは、悲しいことであるが実態を反映した行為なのかも知れない。しかし、自国の安全は自分で守る以外ないことも間違いない真理だ。
本当に6者協議が日本の安全を守ってくれるのか。過去はそうではなかった。ではどうすればよいのか。アメリカに依存する植民地根性の放棄。集団的自衛権の行使を可能にし、当面、最小限度日本政府の意思で使用できる、巡航ミサイルを所有すべきではないのか。