現代コリア

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今、なぜアメリカなのか                          

佐藤勝巳

(2009.4.30)


 4月14日、国連の議長声明に反発した金正日政権は、6者協議から脱退し、同日に国際原子力機関の監視要員を国外退去を、16日には、ピョンヤン駐在のアメリカ国務省職員も国外退去させた。


 さらに4月25日、北朝鮮外務省報道官は寧辺の原子炉から取り出した使用済み核燃料棒から原子爆弾の原料プルトニウムを抽出し、核開発を開始したことを表明した。


 これに対しクリントン国務長官は、4月22日下院の外交委員会で「6者協議を再開する用意がある」と表明する一方で、「われわれは強い意志を持ち、辛抱強く、一貫していなくてはならず、行ったり来たりのような、北朝鮮の予測できない振舞いに屈してはならない」(読売新聞4月23日)と、前任者ライス国務長官と違って原則的な発言をした。


 オバマ政権の対北朝鮮政策の枠組みがどうなるのか定かではないが、世界最強の軍事力を持つアメリカ国務長官から、「お前達の脅しには乗らないよ」と言われたのであるから、金正日政権は、読み違えどころかショックであったのではなかろうか。


 脅すと右往左往するヒル前国務次官補のような人物は扱いやすいが、脅しに動じない人物は、金正日政権にとって一番厄介な存在だ。だから金正日政権に対する最大の制裁は、現実には困難だが、彼らが何をやっても無視することだ、と何度も本欄で書いてきた。


 これは北朝鮮社会の個人神格化の実情を知らない人にはなかなか理解してもらえない話だ。彼らは、太陽(世界)は金正日を中心に回っている、いや回るべきだ、と本当に考えている集団だ。そうすれば金正日政権の思考回路が見えてくる。


 オバマ政権は、主として高級官僚の議会での承認問題で、金正日政権などかまっている暇がないのだが、これは金正日にとって〝耐えられない屈辱〟なのである。だから米朝交渉に持ち込んで面子を保つためには〝核実験〟しかない、と彼らは考えるのである。


 1994年の第1次朝鮮半島核危機も、これと似た流れで起きている。違うのは、当時、現国務長官の夫ビル・クリントン大統領が本気で戦争準備に入ったことだ。それを知った金日成は、カーター元大統領をピョンヤンに迎え、戦争を回避したのである。


 この事実から、われわれはアメリカが戦争を決意したとき戦争が回避され、核開発を一時的にでも中断させることが出来たという教訓を得た筈だった。


 だが、この貴重な教訓は生かされずに、「戦争回避」を前提に始まった2003年からの6者協議の結果を見るがよい。金正日政権は、原子炉から使用済み核燃料棒8000本のうち6500本を抜き取り、その6500本からプルトニウムの抽出を始めたのだ。このように自分は非核化は実行せず、米、韓、中、ロシアから計55万トンの重油をタダでせしめた。


 日本は拉致の進展がないから油1滴、コメ1粒、部品1個支援しないと拒否してきた。そうでなかったら、日本が負担すべき20万トンの石油を出していたら、計75万トンがタダ取りされていたのだ。


 ならずもの政権を相手にして、話し合いで核を放棄させるのは幻想である、ということを再確認しておかねばならない。軍事優先政策のカナメは核保有であるから、どんなことがあっても金正日政権が核開発をやめるはずがない。このことはオバマ政権のスタートにあたり改めて確認すべき最重要な外交課題である。


 ただ本欄で繰り返し言ってきたことであるが、日本の安全は日本が守ることである。アメリカには、協力を求めても、依存することではない。08年10月、ブッシュ政権が、同盟国日本の強い要請を無視して、テロ支援国家指定を解除したことは記憶に新しい。


 アメリカ人が北朝鮮に拉致されているわけではないのだから、ブッシュ政権が自国の都合(間違った)で外交を行うのは愉快ではないが、止むを得ないことである。日本人拉致は日本が解決しろ、というのがアメリカ政府の本音であろう。それは間違いではないのだ。


 わが国は、国の安全や拉致解決は日本の責任において行なうという、当たり前のことが出来る国に変わらなければならないのだ。しかし、言うは簡単だが実現は至難なことである。その証拠に、今もって拉致を解決できないでいる。


 かくも長きにわたって日本は、なぜ拉致を解決できないのか。また日本領土の上空を金正日政権の弾道ミサイルが飛び越えているのに、何故にわが国は、集団的自衛権を行使できないのか。金正日政権が核実験を行なっているのに、それに対処する日本独自の戦略も戦術も持ち合わせていないのは、どうしてなのか。


 また、国として統一した情報機関もなく拉致被害者を救出すると言うが、被害者が北朝鮮のどこで生活しているのかを、政府は掌握しているのだろうか。情報は「武器」である。武器を持たずして戦って勝てるはずがない、という自覚が永田町にあるのかどうかも分からない。


 拉致が解決できないでいる理由は色々あるが、基本的には日本が武力行使できない歪んだ構造にあるからだ。今、緊急に必要なことは、わが国に飛んでくる核ミサイルを防御する(巡航ミサイルで発射台の攻撃も含めて)体制を作ることである。


 金正日政権は1994年のジュネーブ協定を裏切り、今度は2003年からの6者協議をまた踏みにじって、前述のように公然と核開発を開始した。金正日体制を維持するためには核ミサイルの保有しかない。だから彼らはミサイルに搭載できる核の縮小化に必死で取り組んでいるのだ。


 金正日政権の核ミサイルの向く先は、アメリカではなく日本と韓国である。だから、われわれは自国の安全を守るためにどうすべきかについて、国民が真剣に大議論しなくてはならない。


 「救う会」と家族会は、米国にテロ支援国家の再指定を要請するため訪米したというが変だ。まず各地で国民大集会を開き、世論を結集、日本の国会で拉致救出について厳しい法律を作ることが先だ。自分たちでやるべき事をやって、アメリカに要請するのはその後だ。話は逆ではないのか。