現代コリア

TOP     日本     韓国(大韓民国)     北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)     その他     コラム一覧     佐藤勝巳     岡林弘志     五味洋治     田中明     会社紹介      

開城工業団地 暴力とチョコパイの戦い                                                佐藤勝巳

(2009.4.27)

 

ならずものの言い分


 金正日政権の韓国との「対話」の中身は、何のことはない開城工業団地で働いている北朝鮮労働者の賃金引上げと、2014年まで猶予されていた土地使用料を来年から前倒しで支払え、という要求であった。


 言われた韓国からは、北は中国並みの賃上げを要求してきたが、開城工業団地のインフラ整備は韓国側が全て負担している。北はインフラ整備費を1銭も使わず、賃金だけは中国と同じにせよ(いまは中国の3分の1)という意図は結局、工業団地を潰す気ではないのか、という見方まで出ている。


 しかし、この見方は正しくないと思う。金正日政権はカネが欲しいから、ゆすりたかりに出たまでの話であろう。なぜなら昨年(08年)、「開城工団で勤務する労働者3万8000人分の賃金として3200万ドル(現在のレートで約31億4000万円、以下同じ)、金剛山観光(7月以降中断)1800万ドル(約17億7000万円)、開城観光(12月以降中断)では1200万ドル(約11億8000万円)、総額でおよそ6200万ドル(約60億8000万円)を韓国側から受け取った。2007年の北朝鮮の総輸出額が9億ドル(880億円)だった点を考慮すると、決して無視できない額だ」(朝鮮日報4月23日)というが、観光は貿易と違って利幅が大きい。


 その観光を打ち切ったのは韓国政府ではなくて、金正日政権であることは天下周知の事実だ。観光を打ち切れば減収となることは自明のこと。それで北の経済が困難になったとしても、これは覚悟の選択であったはずだ。


 テポドンを飛ばしてみたが、アメリカは2カ国間交渉に当面応じる様子がない。困った金正日政権は、開城工業団地で働く北朝鮮労働者の賃金を上げろ、と言い出した。


 こういう言動を金正日政権以外の社会では「ならずもののセリフ」という。別な言い方をすれば、韓国政府がなめられているからだ。今回の対話でも、北は現代峨山の職員が北朝鮮労働者の脱北をそそのかしたと称して、1ヵ月近く拘留してトラブルになっているが、一言の挨拶もない。韓国政府を馬鹿にしている証拠である。


 韓国中央日報(4月25日)によれば工業団地に進出している約100社の80パーセントが赤字だという。昨年末からの金正日政権の動きでは、開城工業団地に関与する数百名(多いときは1000名)の韓国人は、いつでも金正日政権の人質になる危険があることが判明したことだ。


 今拘留されている現代峨山の職員も、ならずものの論理からすれば、「釈放するからいくら払え」という話になっていくだろう。資本が最も嫌うのは「赤旗と赤字」である。こんな政権を相手にして工業団地の共同経営などそもそもあり得ない話なのだ。


 率直に言って金大中・盧武鉉政権は、かつての日本社会党が金日成政権に対するのと同じ従属関係にあったから論外だとしても、こんな工業団地に出て行く韓国企業は金正日政権の本質を知らない、甘過ぎる。また、李明博大統領の資本の論理からすると工業団地は速やかに閉鎖することになるはずだ。大統領の態度が注目される。

 

チョコパイで生産が向上


 開城工業団地に関連して、非常に面白い報道が朝鮮日報(4月23日)などに:掲載された。それは北朝鮮労働者に「チョコパイ」が人気であることだ。2005年ごろから韓国の一部の企業が、労働者の勤労意欲を高めるために朝食と昼食の中間にチョコパイを配り始めた。


 それが労働者の間にクチコミで広がり爆発的人気を集めた。今ではチョコパイが代表的間食となっている。最初は1個ずつ配っていたが、ゴミが出なかったことから、労働者が食べずに持ち帰っていることが分かり、次から2個ずつ配った。今は4個ずつ配っている企業もあるという。


 結果、北朝鮮労働者の間では、「チョコパイ契(たのもし講と同じ)」が存在している。チョコパイを食べずに何人かで持ち寄り、1人で数十個を順番に持ち帰り、家族や親戚に配る、ということも行なわれている。


 韓国企業は、旧正月や旧盆に労働者にプレゼントとしてチョコパイを贈る。年末のボーナス代わりにチョコパイを支給する。労働者に対する「成果手当」としてチョコパイを当てる。開城工業団地内では「チョコパイ1個が労働の生産性を左右する」という言葉まで使われているという。


 開城工業団地から持ち出されたチョコパイが、ピョンヤン近郊の市場はいうまでもなく、新義州・竜川など北朝鮮全域で秘かに取引されている。韓国政府関係者の話では、「チョコパイ1個が北朝鮮では500ウォン(約13円)で販売されている」「チョコパイは北朝鮮に資本主義の〝甘味〟を示す代表的商品となった」と支配者にとって恐ろしい話が報道されていた。


 日本の敗戦と同時に米兵がどっと進駐してきた。日本の子供達は、「ギブミーチョコレート」と口々に言って米兵に群がり寄った。それまでの「撃て、突け、倒せ、米英を!」という反米・反英教育は、1粒の、1枚のチョコレートで吹き飛んでいったのを、私はこの目で見てきた。


 観念が、物質文明に敗れていく事態が、開城工業団地の中で起きているのだ。ならずものの暴力が勝つのか、資本主義の〝甘味〟が勝つのか、開城工業団地の行方が注目される。