現代コリア

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揺れている将軍様の国                      

佐藤勝巳

(2009.4.22)

 

 工場を指導に行った金正日国防委員長を見た支配人たちは、「やせ細った金正日総書記を見て胸が痛み涙がとめどなく流れた」と労働新聞(12日付)が報道し、世界の注目を集めた。


 私があの写真を見て感じたことは、滅茶苦茶太っていた人間がやせることは、健康上むしろ歓迎すべきことである。気になったのは激ヤセだけではなく、幽霊のような無気力な表情であったことだ。


 あの国が都合の悪いことを隠すことは日常茶飯事である。なぜ、あんな写真をわざわざ発表したのか。例の食糧危機に見舞われた1995~98年「苦難の行軍」の時期、最後の方で栄養失調の子供の写真を外国メディアに公表したことがある。


 食糧危機は経済政策の失敗であることを隠して「水害」と偽り、栄養失調の子供たちの写真を食糧集めに使った。そして集めた食糧は軍や党幹部が独占した。非情な政権である。


 将軍様の幽霊のような写真を公表することで、よもや特権階層に、ある覚悟を促したのではあるまい。本当の狙いは国民の涙を誘い、「強盛大国の大門を開く」(金日成生誕100年に当たる2012年に大国になるという意味。「大門」は入り口の意)起爆剤にしようとしているのかも知れない。どちらにしても事態はわれわれの予想を越えて深刻ということになる。


 金正日政権は、李明博政権が昨年末から金大中・盧武鉉両政権が金正日将軍に約束したことを実行しない、怪しからんから戦争も辞さず、という恫喝を再三再四繰り返してきたことは本欄でも何度か紹介してきた通りである。


 ところが、突然4月19日、金正日政権は北朝鮮領内の「開城工業団地」で南北会談を提案してきた。韓国は21日の会談に応じると発表したが、会談の行方は予測できない。今までも「ソウルを火の海にする」とか「戦争前夜だ」とか勝手に騒いで、勝手に対話を提案してきているから、特に珍しいことではないが、なぜ今なのか。


 オバマ政権の反応と関係があると推定される。ミサイル発射をめぐって米朝間に水面下で色々な動きがあったようだが、ヒル国務次官補のときのようには波長が合わなかったらしい。アメリカ国務省アジア担当の次官補(ヒル国務次官補の後任)すら任命されていないから、政策決定以前の状態だ。


 テポドン2号の射程は3200キロ。大陸間弾道弾の最低飛距離の半分にも満たない。アメリカの主要兵器は、攻撃用原子力潜水艦とイージス艦に搭載されている巡航ミサイル、爆撃機に搭載されている爆弾並びに各種ミサイルである。


 大陸間弾道弾は時代遅れの兵器であり、政治的武器にはなるが兵器としてはポンコツである。金正日将軍の軍事的知識がうかがい知れて興味がある。


 あんな時代遅れの兵器を発射して、2国間交渉に引き込むなどという発想自体がナンセンスなものだ。事実オバマ政権は動かない。すると北は、原子炉などの無能力化を監視している国際原子力機関(IAEA)の監視・検証要員に対して、4月14日国外退去を命じ、これで核開発再開のメッセージをだした。


 他方、独裁者の無気力で激ヤセの写真を公表、労働新聞が将軍様のやせ細った姿に涙する人民の声を掲載した。そして韓国との対話を始めた。金正日将軍はブレている。


 一方、わが国では、自民党の山崎拓衆議院議員が19日のNHKの討論番組で、ミサイル発射に関連して、「現在までに幾多の制裁を加えてきて、とりわけ拉致問題について前進があったかというと実際はない。効果を発揮しない」「(北朝鮮を)6者協議に復帰させることを重点的に考えるべきだ」と、金正日政権を喜ばす発言をした。


 山崎氏は、制裁をしなかったら拉致は解決できると思っているのか。韓国の金大中・盧武鉉両政権は、10年間で100億ドルを金正日政権に援助した。日本は15年間に150万トンのコメを金正日に貢いだ。


 金正日からの「御礼」は、ミサイルと核実験だった。勿論拉致も前進しなかった。制裁しても駄目だと言うが、援助しても駄目なのだ。自民党山崎拓外交委員長は、どうしたら北朝鮮の非核化と拉致が解決出来ると考えているのか。


 また、金正日政権は6者協議を脱退すると言っているのだが、どんな方法で復帰させるつもりなのかもお聞かせ願いたい。自民党はこういう人を党の外交委員長にしているから、国民から見放されるのではないのか。