弾道ミサイル失敗の後 佐藤勝巳 (2009.4.13) 米政府は朝鮮問題を軽視する 北朝鮮のミサイル発射に対し、国連での非難決議が難航し、議長声明に落ち着きそうな気配である。国連で調整に時間がかかったのは、発射された弾道ミサイルが失敗したことに主要な原因があったと見ている。
テポドン2号の失敗を韓国航空宇宙研究院朴政柱博士は、「2段目・3段目ブースターが分離しなかったか、分離したものの3段目がきちんと点火しなかったのが失敗の決定的な原因だとみられる」(朝鮮日報4月7日付)と指摘した。その後アメリカ、日本の追跡調査で朴博士の発言の正しさが裏付けられている。
ミサイル発射技術の困難点は、①推進器の点火と燃焼、②ブースター(爆発ボルトの作動)の分離の2点といわれる。金正日政権は長距離弾道ミサイルの基本的な問題を11年かけてもなお解決できなかったことが明らかになった。
テポドン2号発射前、金正日政権の発射目的は、金正日個人神格化とオバマ政権を2国間交渉に引き込むための脅しと見られていた。しかし、オバマ政権は金正日政権の弾道ミサイル技術の水準の低さを知って、見くびったであろう。金正日政権の思惑は完全に外れた。
これから推定されることは、オバマ政権は金正日政権に対して、基本的にはブッシュ政権最後の2年間のように6者協議で適当に時間を稼ぐことになろう。その間に金正日は、核の小型化に集中するという、日韓にとって最悪のシナリオが待っている。韓国では公然と核保有論が台頭してきた。
制裁はボディーブローのように効いている。 4月10日、日本政府は北朝鮮に対して追加制裁を決定した。この決定前に政府関係者やマスコミの口を通じ、制裁に「効果がない」「限定的だ」と、全品目の輸出禁止措置を牽制する発言が流されていた。
一体こういう話は何処から出てくるのか、不思議でならない。4月10日の本欄コラムでも指摘したが、それならどうして総聯や北朝鮮を支持する日本人団体が、半年ごとの制裁切り替えのたびに万景峰号の日本入港禁止解除を求めてくるのか。
北朝鮮の船舶でまともな冷蔵庫を備えているのは万景峰号だけだ。従来、あの船で金正日の好む松坂牛、夕張メロン、越乃寒梅、資生堂の化粧品、虎屋の羊羹などを運んでいた。
金日成時代から、いやもっと昔から朝鮮半島の人たちは、他人を招きご馳走する習慣がある。金正日も例外ではない。国民とは無縁の特権階層の家臣を呼んで宴を催し、高級ワインやウィスキー、山海の珍味を与える。そうすることで家臣に特権意識を持たせ、家臣は親分に忠誠を誓う。
このように思想ではない、物質を媒介として人間関係を取り結んでいるのが北朝鮮政治である。親分が主催する宴に呼ばれるかどうかは、親分の家臣に対する信頼度の表明であるから、家臣は招かれるように親分に対してさらなる忠誠を誓う。かくして個人神格化が生まれ、補強されてきた。だから金正日お抱えの料理人が250名もいるのだ。
食材は世界中から集められているが、その中で日本の食材がかなり使われていることは、金正日の専属料理人の1人であった日本人が単行本で紹介している。食材に限ったことではないが、北朝鮮では1950年代後半から、日本製の自動車を始め、全ての製品の質の良さに高い評価を得てきた。
万景峰号が日本に入港できないということは、親分にとって、子分にご馳走をし、日本の良質のモノを与え忠誠を誓わせることが出来なくなることを意味する。また金正日が軍視察のとき兵士に日本製の美味しいカップラーメンを贈っていたが、それも出来なくなった。品質の点において、日本に替われる製品など世界中に滅多にないからだ。
親分と家臣の関係を維持するためには食材は言うまでもなく日本製品が必要不可欠なのである。だから、彼らは執拗に万景峰号入港を求めてきているのだ。
4月6日付朝日新聞社説は、「日本単独カード(制裁)は効果が限定的だ」と書いていたが、何を見当外れのことを言っているのか。金正日政治の根幹部分にボディーブローのように制裁が効いている。彼らは今回のテポドン2号失敗で、引き続きミサイル開発で多額の資金を調達しなければならない羽目に陥った。
世界的な金融・経済危機が北朝鮮にも影響を与えない訳がない。中東諸国にも失敗したミサイルは簡単に売れない。資金調達は深刻だから制裁に効果があるのだ。
朝日新聞の論説委員が、知らないでこんなことを書いているのなら、無知は金正日を助ける。承知して言っているのなら、金正日の「手先」ということになろう。
出来ことを着実にやる 政府が制裁期限を1年間に延長したことは、金正日政権にとって予想を超えるダメージと思われる。では制裁を強化したなら核、ミサイル、拉致は解決できるのか。話はそれほど簡単ではない。
その理由は、かつてのソ連・東欧そして中国では、国民が餓死するようになったら、食えるように政策転換を図った。金正日政権は国民を餓死させても、政策を転換しないどころか、「先軍政治」と称して、使い物にならないミサイル開発に資金を使うという旧共産主義圏でも例を見ない特異な政権であるからだ。
いまひとつ厄介なことは北朝鮮への覇権をめぐって米中の確執がある。更に韓国内部に金正日政権への同調者が一定の勢力を保持しているため、事態が一層複雑化にしている。
「制裁しても拉致は解決しない」という声をよく耳にするが、それならば、援助すれば金正日政権は変わるのか。
韓国の金大中・盧武鉉両政権は10年間に100億ドルを金正日政権に援助した。日本も過去合計150万トンのコメを援助した。その結果、核実験とミサイル発射が行われ、相も変わらず北朝鮮国民の人権蹂躙が続いているではないか。
他方、わが国は集団的自衛権の行使もできない不甲斐ないうえに、統一して情報収集する政府機関もない。政府の担当部署は徒手空拳で日本人をさらった「ならずもの政権」を相手に戦わなければならないのが現実である。
大事なことはこの現実を直視して、やれることから手をつけることだ。まず、射程1300キロの巡航ミサイルなら日本政府の決断で保有できるはずだ。
日本当局が既に把握している、金正日政権の核やミサイル開発に手を貸している総聯傘下科学者協会所属の在日朝鮮人を、国外に退去させることである。これも政府の決断で可能である。出来ることから一つずつ確実にやっていくことが大切である。
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