クリントン国務長官に望む 佐藤勝巳 (2009.2.24) 金正日政権の本質は何か 米国務長官クリントン氏は、北朝鮮の核に対して、「核開発計画を、完全で検証可能なかたちでの放棄」を求めた。 ブッシュ政権は、2001年の一般教書で北朝鮮を「悪の枢軸」と規定、「イラクの次は北朝鮮だ」(軍事制圧を指す)と、金正日政権の本質を話し合いの対象ではなく、軍事力の対象と捉えていた。 オバマ民主党政権が発足して1ヵ月であるから、やむを得ないことであるが、日韓でのクリントン国務長官の発言を見ている限り、金正日の本質をどのように捉えているのか分からなかった。そこで、筆者は2月20日の本コラム欄で、国務長官の「片言隻句に一喜一憂してはならない」と書いた。それは金正日政権を「ならず者」と捉えていたブッシュ政権でも、政権後期にはテロ政権と野合する醜態を演じたからだ。 だが、金正日政権に最も警戒を払わなければならない日本はどうであったかというと、1995年の橋本龍太郎政権から今日まで、金正日政権に約150万トンのコメを贈与してきた。更に、それより早い時期から、北朝鮮のミサイル部品、核爆弾製造に必要な資材・技術の多くが日本から輸出されていることを看過してきた。今でも輸出は続いているのではないか、と筆者は推定している。 そればかりか、金正日が拉致を認めた後も、06年7月北政権がミサイル実験するまで制裁を科すことができなかったことは、国家として恥ずべきことである。 かくも長きにわたって同じような過ちをなぜ繰り返すのだろうか。それは金正日政権認識に本質的な甘さがあるからだ。国際ルールも常識も通じないうえ、太陽は常に金正日を中心に回っていると考えている独裁者が支配する「革命集団」である、という認識が朝鮮半島専門家たちに希薄だったことに主要な原因がある。 この人たちに共通していたことは、金正日政権にモノを与えると改革開放に移行すると誤認し、米民主党クリントン政権と同じく犯罪的な誤りを犯してきた。 それは韓国の金大中・盧武鉉政権も同じで、彼らは10年間で100億ドルも金正日に貢いだが、それが核ミサイル開発に使われたことは、誰も否定できないだろう。「革命集団」は、パルチザン(ゲリラ)的発想で「援助」を「敵の武器を奪って、敵を倒す」「戦利品」と理解している。事実そうなっている。 こう見てくると、北朝鮮政策の失敗は、金正日政権の本質を見誤ったことにある。但し、1期目のブッシュ政権の金正日政権認識は、画期的なものであり、高く評価できるものであった。 今回クリントン国務長官の日本と韓国での発言を見ていると、06年10月の北の核実験以後のブッシュ政権のライス・ヒル外交に比べてハードルが高くなった。 同長官は、李明博大統領との会談(20日)で、金正日政権の核とミサイルに対して、「米・韓・日3国が安保上の懸案に対して一つの声を出すことが重要だ」(読売新聞2月21日)と述べている。 ブッシュ政権は、6者協議を事実上米朝の2国間協議に変質させ、遂には拉致問題に何の進展もなかったのに、テロ支援国家指定を解除した。 ブッシュ政権の滅茶苦茶な外交に比べたら、クリントン国務長官の発言は一歩前進である。更に国務長官は「北朝鮮は韓国と対話を拒否し韓国を非難しながら、米国と別な形態の関係を得ることはできない」(鮮日報2月21日)と、米韓が一体であることを表明した。 また、クリントン国務長官は19日韓国に向う機上で、北朝鮮が最も嫌がる金正日委員長の健康悪化や後継者問題をめぐり混乱を予測した。北の「最高尊厳」(金正日)を傷つける発言をこともなげにした。これは金正日政権にとって晴天の霹靂(へきれき)ではなかったのか。 23日現在、北からクリントン国務長官に対する批判はない。「黙視」すれば「アメリカ帝国主義」に屈服したと見られる。反発すれば米朝交渉は破綻をする。金正日政権は思わぬ事態に直面、周章狼狽しているであろう。 しかし、これは何も知らないクリントン国務長官の偶然の結果で、オバマ政権が計算してやったものではない。依然、金正日政権の本質をどう捉え、具体的にどう対処しようとしているのか、分からないというより、曖昧であり不安がのこる(後述の横田早紀江さんへの回答参照)。 筆者がこのように本質論にこだわるのは、本質を取り違えたから、こと志と違って金正日政権に核実験を許し、アメリカに届くミサイルの実験が目前に迫っている切迫した状況を作り出したのだ。そしていつまでたっても拉致を解決できないでいるのだ。 「過度の期待をもたれては困る」 次に、同長官は、日本の拉致被害者家族に会い、拉致問題は「6者協議の一部」「北朝鮮への包括協議の一部とすることで、進展につながる可能性が高まる」(朝日新聞2月17日)と言及した。 実は、もともと拉致は6者協議の中で包括的に解決されることになっていたのに、ライス・ヒル外交が、北と野合して6者協議から拉致を外しにかかったのだ。だがクリントン長官の出現によって、6者協議が正常化しつつあるということである。 2月17日の朝日新聞によると、クリントン国務長官訪日にあたって、米政府内には拉致問題で「①国務長官が日本の立場を支持する②支持発言をし、ヒル国務次官補が家族と面会する③長官が面会をする、と三つの考えがあった。『過度の期待を抱かせるべきではない』との理由から実務者間では②を推す声が強かった。だが、日本に強いメッセージを送る必要があるとの判断や、日本側からの働きかけもあり、面会が実現した」と、面会の経緯が記されている。 アメリカの実務者達が「過度の期待を抱かせるべきではない」として国務長官の拉致被害者家族との面会に反対したというくだりを読んだとき「なるほど」と思った。 別に拉致に限ったことではないが、日本人のアメリカへの依存度は総じて高すぎる。言葉を変えて言うなら、自主解決、主体的解決が希薄だと思っていたから、米実務者からこういう発言が出ても違和感はなかった。 私がクリントン国務長官なら、拉致が30年解決できないで来たという話を聞いたとき、「その間日本政府は、日本国民は何をして来たのか」との質問が、口まで出かかったと思う。本当にわれわれは何をして来たのだろう。 クリントン国務長官との面会で横田早紀江氏が「ブッシュ大統領が私に会ってくださったのにテロ支援国家指定を解除されたことは残念だった。……解除は暫定的なものと聞いていますが、変えるようにして欲しい」と要請したのに対し、国務長官は「調べてみます」と答えた。また、北朝鮮に対する圧力も「どういう圧力か検討したい」(救う会全国協議会ニュース2009.02.17)と総じて慎重な答弁に終始した。 国の「自主権」は瞳のように守ろう 自国の安全に責任を負うということは、日韓が提携して、クリントン国務長官をはじめ国務省に、金正日政権にモノなど与えても変わる相手ではなく、逆に制裁を強化することが重要であることを、公式・非公式に積極的に伝えるべきだと思う。具体案が出ない限り、相手は真剣に対応しない。 中国に対しては、核と拉致が解決しない限り、北にカネもモノも出さないことを繰り返し政府の意思として明確に伝えることである。 米中は政治、軍事、外交、環境などで閣僚級会談の定期化を決めたようであるが、彼らは東アジア問題で、日韓の意向を無視して動けるはずがない。日韓は今こそ団結して「自主権」を守るべきである。 |