◎ オバマ政権への思い入れ 岡林 弘志 (2009.1.16) 北朝鮮は時に極端な思い入れを見せることがある。1月20日に就任する米国のオバマ・民主党大統領への期待も相当なものだ。 ただ、期待に外れたときは、一転して雨あられのごとく非難を浴びせる、というのも常套手段ではあるが……。 オバマ大統領の就任式は、リンカーン初代大統領が使った聖書で宣誓をするなど、伝統に則って行われるようだ。 そこへ「われわれも参席を」と北朝鮮が申し入れ、六カ国協議の主席代表、金桂冠外務次官率いる使節団の派遣を米側に打診したという。(1・12韓国「中央日報」) 外交関係もないのに、無理な願いだと思うが、このところのオバマ政権への思い入れをみると、いかにもありそうな話だ。 今年の施政方針である新年共同社説のタイトルは、「総進軍のラッパの音を高らかに鳴り響かせ、今年を新たな革命的大高潮の年として輝かせよう」。 「歴史の分水嶺を築くことになる希望に満ちた新年」だそうだが、いかにも勇ましい。 ところが、例年の決まり文句である「米帝国主義」などの用語が一つもなく、米国非難は消えた。具体的には、米国の「敵視政策の終結」や韓国における米韓合同演習の中止、米軍基地撤廃など、「赤化統一」のための必須条件への言及もない。 それだけ、オバマ政権への期待が大きいのだろう。オバマ氏は選挙中に、北朝鮮やイラン政策では対話路線を打ち出し、金正日総書記との「直接対話」にも言及した。さらには1994年に米朝枠組み合意をまとめた当時のクリントン大統領のヒラリー夫人が国務長官に起用される。 金総書記の頭に、当時と同様に米国務長官が訪朝して、大胆な米朝関係改善を打ち出す光景が浮かんだとしても無理からぬところだ。オバマ大統領の訪朝までも頭に描いたかもしれない。 米への期待の大きさは、一方で日韓に対する強硬姿勢となって現れている。米朝関係が進めば、日本と韓国はもみ手をして付いてくるというのが、北朝鮮の思考方式だからだ。 北朝鮮の外交における思い入れはかつても例がある。 脱北者の高英煥・元外交官は、1981年の仏大統領選で、「北朝鮮と外交関係を結ぶ」と約束したミッテラン氏が当選したとき、北朝鮮外務省と在仏公館では「万歳!」がこだましたという。(1・6産経新聞) 高氏は、オバマ氏当選でも同様だったろうと推測しているが、この手の思いこみは、90年の金丸訪朝の時もあった。 平壌をはじめ各都市の病院では、希望する最新の医療機器のリストを提出させられた。日本の政界を牛耳っている金丸氏が、政府に命令して1兆円を北朝鮮に提供するので、金日成主席がそのカネで病院を充実させるよう指示した、という説明まであったという。 そして、2002年の小泉訪朝。このときも、拉致被害者と引き替えに数兆円のカネをよこすと、北朝鮮は信じた。このため、金総書記は意に反して、拉致を認め生まれて初めて謝罪までした。 被害者5人を返したが、死者八人不明2人が明らかになったこともあり、日本の世論は猛反発、カネどころの騒ぎではなくなった。その後、日本への不信感が募り、北朝鮮の幹部らの間に「拉致症候群」という言葉がはやったという情報もある。 ところで、オバマ政権は、北朝鮮の思惑通りに対応するのか。 「六カ国協議のこれまでの交渉記録をすべて精査している。北朝鮮の核計画を終わらせるため、協議参加国と積極的に取り組む」 ヒラリー次期国務長官の上院外交委の公聴会における発言だ。(1・13) 六カ国協議の枠組みの有効性にも言及しており、引き続きこの場を利用して、北朝鮮に核放棄を迫るのは間違いない。 具体的にどう対応するかは、これからだろうが、北朝鮮が申告した核計画に文書として盛り込まれなかったウラン濃縮計画やシリアの核計画への協力については「存在すると信ずるに足理由がある」と、協議の対象に含める意向も明らかにした。 クリントン政権は、第一次核危機において「米朝枠組み合意」をまとめたが、プルトニウムによる核開発の関連施設を「凍結する」にとどめた。このため、いくつかの抜け穴を残し、第二次核危機を招いた。 八年ぶりの民主党政権には、当時の経験者も少なくない。「前車の轍」を踏まないよう期待したいものだ。 しかし、金総書記は唯一の“救世主”である核を放棄する可能性は極めて少ない。すでに「核保有国」を自認しており、譲歩の代償をこれまで以上に吊り上げ、支援や米朝改善を獲得する戦術を展開するはずだ。 大統領就任を目前にした13日、外務省が談話を出した。 「米国の対朝鮮敵視政策と核脅威の根源的な精算がなければ、百年たっても先に核兵器を差し出すことはないだろう」 早くも、取引開始といったところか。 自らの利害を最優先する独裁者と周辺国の利害が一致するのはまれだ。オバマ政権はこれから従来の対北交渉者が苦労したように、理不尽にして一方的な北朝鮮と協議することを覚悟しておく必要がある。タフな交渉力が求められる。 それに、ブッシュ政権の後半、核と関係ないのに、偽ドル札にからむ金融制裁を解除や核放棄の約束だけでテロ支援国指定解除するような無原則妥協をしてはいけない。足元を見られて解決を先延ばしするだけだ。 少なくとも米朝改善という北朝鮮の思い入れは「核放棄」なしには果たされないことを、ことあるごとに知らしめる必要がある。 |