現代コリア

TOP     日本     韓国(大韓民国)     北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)     その他     コラム一覧     佐藤勝巳     岡林弘志     五味洋治     田中明     会社紹介      

◎ 「非常識」や「無理」は永続きしない。
岡林弘志

(2008.12.4)

 

    「南北融和の象徴」といわれ、軍事境界線をまたいで走る貨物列車が、早くも止まってしまった。北朝鮮が李明博大統領の対北政策に反発してのことだ。もともと韓国が一方的にカネとモノを出して始めた事業だ。金大中、盧武鉉と続く「太陽政策」の一方的な交流や支援は不自然にして、無理がある。永続きするわけがない。

 

    「北南関係を破局へ追い込んだ」「わが方に対する許し難い挑発である」(132・1労働新聞)

 

    北朝鮮は12月から、貨物列車だけでなく、開城観光の中断、開城工業団地管理員を半減、軍事境界線の通行制限、南北赤十字連絡事務所の閉鎖などもほぼ同時に実施した。さる7月には、金剛山観光も北朝鮮兵が観光客を射殺したため中断した。

 

    南北両海軍の艦艇間の無線交信も、北側が受信を止め、機能していない。融和政策によって始まった南北関係は大幅に縮小された。 

 

    北朝鮮の強硬姿勢の直接の理由は、李政権の対北政策「非核・開放3000」だ。北朝鮮が核を放棄するなら、10年間に北の一人あたりのGDPを3000ドルに引き上げるため全面的に協力する、という内容だ。「相互主義」「双務性」が基本になっている。

 

    改革・開放は独裁体制の危機とみなす北朝鮮は、これに猛反発し「逆徒李明博」などと罵詈雑言を浴びせている。

 

    それに、今年秋から韓国の民間団体が頻繁に行っている「対北ビラ」の散布を、韓国政府が取り締まらないのも猛反発の理由だ。

 

    振り返ってみると、金・盧政権の十年は異常だった。

 

    両政権支持者は、「南北の交流、経済協力が画期的に進んだ」と評価しているようだが、内容を見ると、韓国の一方的な交流だ。韓国の国会議員や学者、宗教人などが大挙して北へ行ったが、相手に会うためかなりの金銭を出すことが条件になっていた。

 

    反対に北からの訪問者は数えるほどしかいない。韓国が求めた、離散家族の相互訪問は行われず、金剛山の面会所やテレビ画面を通じて、細々行われただけだ。

 

    支援についても、韓国が現金(ドル)、食料や薬品、肥料などを一方的に寄付してきた。
韓国統一部によると、送金額だけで、十年間に1兆4000億ウォン(11億9382万ドル)にのぼる。(08・9、KBS WORLD Radio)。国費投入のほか、金剛山や開城の観光料金、開城工業団地の賃料、慈善団体の寄付などが含まれているようだ。

 

    また、盧大統領は辞める直前の2007年10月、平壌を訪問し、大型経済支援を含む「南北関係発展と平和繁栄のための宣言」に合意し署名した。インフラ整備や観光開発などを盛り込み、「少なくとも50兆ウォン(当時・6兆3300億円相当)」(朝鮮日報)の巨額の事業費が必要だ。

 

    次期政権に巨額の財政負担を強いる外交約束は、常軌を逸している。

 

    南北列車にしても、07年5月の試験運行は、朝鮮戦争で中断されてから56年ぶりと、華々しく式典が行われ、「和解と協力」の象徴と喧伝された。12月に本格運行が始まったが、距離はわずか7・3キロ、週五日、開城工業団地で使う原料や資材を韓国側から運ぶだけ。これも最初だけで、後は1両だけを連結、空で走っていたという。

 

    もともと、一方的に韓国の思い入れが強く、韓国が鉄道の敷設から運行まですべて負担するというので、北が嫌々受け入れたものだ。それに、北の軍部ははじめから反対だったこともあり、順調な運行には無理があった。はしゃいだのは廬政権だけだった。

 

    この「ギブ・アンド・ギブ」の結果はどうなったか。

 

    この十年、「南北融和」はまったく進まず、かえって北が開放への扉を閉ざす「軍事優先政治」「軍事独裁体制」が強化され、核実験、ミサイル開発を許してしまった。韓国のカネがこの部門に使われなかったと想像するのは難しい。

 

    そして、人権抑圧にはまったく言及せず、人々の生活はますます苦しくなった。

 

    韓国のカネが、独裁を強化し、北東アジアの不安定を増す結果になった、といっても過言ではない。非常識な政策が北の非常識を助長したのである。

 

    ただ注目したいのは、北の強硬姿勢は、韓国という“金ヅル”を失うことでもある。国際的な金融危機は北朝鮮の外貨不足をますます深刻にしているはずだ。のどから手が出るほどほしいカネに未練はないのか。

 

    その答えは、米国での民主党政権誕生にある。来年一月にはオバマ政権が発足する。「対話路線」を言明し、金正日総書記との直接対話にも言及しており、北にとっては米朝関係改善の好機ととらえている。韓国が朝鮮半島の変化に乗り遅れたくなかったら、「融和政策に転換しろ」といういつもの「恫喝戦術」だ。

 

    もともと北朝鮮は、米国との関係がうまくいっているときは、韓国や日本との関係に冷たくなる。日韓ともに、米国追随で米国の言うことを聞かざるを得ないと認識しているからだ。今回も、恫喝することで、相手は恐れおののき、バスに乗り遅れては大変と、前政権のように融和政策に立ち返り、手もみしながら貢ぎ物をもってくる、というのが北の皮算用だ。

 

    もう一つ、北の強硬姿勢の背景には、金正日総書記の病気もありそうだ。

 

    最近「10月中旬に再び倒れた」という情報が流れた。そして、義弟の張成沢・労働党行政部長がかなりの職務を代行しているという報道も相次いだ。

 

    こうした場合、代行者は金正日の覚えをめでたくするには、強硬路線を走るしかない。権力誇示のもっともわかりやすい方法だ。独裁体制下での忠誠ごっこは、強硬姿勢の競争になるのが通例だ。まずは、対南関係で手並みを披露しているところではないか。

 

    「私は対北強硬派ではない。まっすぐ向き合おうとしているだけだ」

 

    李大統領は、対北政策の基本を変える気はない。是非、初心を貫いてほしい。

 

    国内でも、金大中元大統領らは「李政権が南北関係を意図的に破綻させようとしている」と非難している。しかし、南北関係を常識が通じない関係にしたのは「太陽政策」である。保守派の金泳三大統領が、さっそく「失敗した太陽政策で金正日独裁体制を延長させ、北の住民を飢餓で苦しめている張本人が何を言うか」とやり返した。

 

    李政権にとって、ここは我慢のしどころだ。オバマ新大統領は対北融和政策をとるだろうが、「百年に一回」の金融危機で、当面は経済対策に全力を挙げざるを得ない。それに、財政赤字はさらにすすみ、北に大型援助をする余裕はなさそうだ。

 

    北朝鮮は、韓国が支援中断を続ければ、やがて何らかの反応を示すはずだ。

 

    北から何を言われても、韓国がひたすら貢ぐだけ、にみえる関係を正常に戻す好機だ。同時に、北朝鮮に非常識は通じないことを知らしめることにもなる。

 

    日本人拉致や韓国人拉致にしても、未だに多くの被害者を帰さず、「解決済み」などと言っているのは、北朝鮮の非常識のなせるわざだ。北朝鮮が独裁を続けるかぎり、非常識はなくならないが、非常識は通じないことを知らしめるだけでも、周辺国との軋轢は少なくなる。北東アジアの不安定要因である度合いも少しは下がるのではないか。(了)