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北朝鮮は、なぜ中国に逆らえないのか~愛憎の中朝60年~
五味洋治
(2008.11.10)

 

連載(11)
第6章 国際世論を味方にする

 

通報は1時間前?

 

    核実験についても、北朝鮮側が中国に実験を通報したのは1時間ほど前とされる。

 

    実験後北朝鮮が出した「外務省声明」は、1964年10月に中国が第1回核実験後に発表した「原爆実験についての政府声明」と、文章の流れや表現で類似しており、中国を意識したものではないかとの分析もなされた(注7)。 

 

    6カ国協議の議長国・中国はメンツを完全につぶされた。それゆえか、9日に中国外務省が発表した実験を批判する声明は、苛烈だった。日本式の漢字に置き換えてそのまま引用すると「十月九日、朝鮮民主主義人民共和国無視国際社会的普遍反対、悍然実施核実験、中国政府対此表示堅决反対」となる。

 

    中国を始めとする国際社会の反対を無視して核実験を強行した。中国は絶対反対であるという内容だが、この中の「悍然(ハンラン)」の二文字はミサイル発射時に使われた「懲罰」よりも遙かに重い意味を持つ。「横暴にも」といった意味だが、裏に「中国の国益に反して」という隠れた意味を持っている。

 

    中国政府や中国の公式メディアがこの単語を使うのは極めて限られる。関係者によれば、1979年の中国とベトナムの中越戦争の時、中国はこの言葉を使ってベトナムを非難した。1999年5月8日に起きた米軍による在ユーゴスラビア中国大使館誤爆の際も「米国を中心とするNATO軍が無謀にもミサイル3発を別々の角度から、ユーゴスラビアの中国大使館に打ち込んだ」と非難している。

 

    小泉純一郎首相の2005年10月の靖国神社参拝時の中国外務省の抗議声明にも、この単語は含まれていた。1997年から現在まで中国外務省が公的な場で、この単語を使ったのは北朝鮮の核実験を含め数回にすぎないという。中国のネット上では、6回しかないと伝えられている。

 

    特別な友好関係にあるとされる北朝鮮に対してこの表現を使ったのは、中国の指導部が相当な憤りを覚えていたということだろう。そもそも原文にはなかったが、胡主席があえて入れさせたとの見方さえある。「血潮で結ばれた関係」と称された中国と北朝鮮が普通の二国間関係になっていることを証明した瞬間だった。

 

 

(注7)「東京新聞」2006年10月5日。米国の圧力で核実験に踏み切ったことや、核を先制使用しないこと、核廃絶への努力の表現が共通しており、「北朝鮮の声明は中国に向けて発したもので、核実験への圧力をけん制するのが目的とみている」とした。