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北朝鮮は、なぜ中国に逆らえないのか~愛憎の中朝60年~
五味洋治
(2008.11.7)

 

連載(9)
第6章 国際世論を味方にする

 

ミサイル決議で衝突

 

    2006年7月のミサイル発射問題は、舞台をニューヨークの国連安全保障理事会に移した。日本政府は7月10日、安保理常任理事国の米英両国などと8カ国共同提案の決議案を提出した。国連憲章第7章(注5)を援用し北朝鮮への軍事制裁発動の可能性をもたせている点だった。これに対し、常任理事国の中露両国は強く反発した。中国は憲章第7章に言及する決議案には、拒否権を行使するとの立場を崩さなかった。

 

    結局、中国も拘束度の弱いプレス声明、議長声明などの当初の対応策を断念し、北朝鮮へのより強い姿勢を示す路線に傾いた。日米両国も国際社会のコンセンサス獲得を最優先する立場から、「制裁決議」から憲章第7章への言及を削除した「非難決議」とする修正決議案を提出。16日未明(日本時間)採決、中国も賛成した。

 

    中国が決議案に賛成したその日、中朝間で外交官同士の衝突が起きた(注6)。

 

    決議採択後、北朝鮮外務省は、平壌駐在の武東和中国大使を呼びつけた。金桂冠外務次官が「中国政府の背信行為は、朝鮮労働党と政府を非常に驚かせた」と強い不満を表明した。武大使は「本国に確認してみる」と繰り返した。北朝鮮の抗議はただちに北京に飛び火する。

 

    同日午後、北京でも北朝鮮の崔鎮洙駐中国大使が、中国の決議賛成に抗議するため、李肇星外相との面談を求めたが、李外相は多忙を理由に拒否した。

 

    北朝鮮側は怒り、崔大使ら大使館員11人が3台の車に分乗して中国外務省に向かった。大使館から外務省までは車なら5分の距離である。一行は外務省で約2時間にわたり李外相との面談を求めたが、中国側は応じなかった。

 

    抗議は3時間余り続いたが、中国外務省側は無視し続けた。怒りを抑えられない北朝鮮外交官らは「裏切り者」と捨てぜりふを残し、昼ごろになってようやく外務省の庁舎から引き揚げたという。

 

    中国と北朝鮮の関係が悪化する中で、李濱・朝鮮半島核問題担当大使の身辺に異変が起きていた。金正日の訪中に関する日程をもらしたとして、山東省威海市の副市長に転出後北京に召喚され、秘密裏に公安当局の調査を受けたのだ。

 

    「胡錦濤主席が北朝鮮を批判した言葉を、金正日に漏らした」との説や、「韓国と米国側に金正日や中朝関係の変化に関する情報を提供した」との報道もあるが、失脚の理由は発表されていない。罪状の中には、北朝鮮の核実験を防げなかった責任も含まれていたに違いない。

 

 

(注5)7章は「平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動」を定め、(経済制裁、臨検などの

    非軍事的措置(41条)武力制裁(42条)などを含む。 
(注6)香港の雑誌「争鳴」2006年8月号