現代コリア

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◎将軍様は「気にするタイプ」
岡林弘志

(2008.10.16)

 

    金正日総書記も重病説はかなり気にしているようだ。

 

    八月半ばに「脳卒中」で倒れた、9月9日の建国60周年記念の閲兵式に欠席、動静報道なしがこれまでの記録50日を超えた……など、さまざまな状況証拠も加わって、重病説は周辺国だけでなく、国内にも口コミで伝わっている。

 

    独裁者の病気は、当然独裁体制の弱体化を招く。

 

    長年住民を苦しめてきたことを考えれば、住民はこの情報を喜び、場合によっては不満の爆発も考えられる。独裁の危機だ。

 

    金総書記の健在を誇示するため、北朝鮮メディアが報じたのが10月11日の軍部隊視察だ。

 

    朝鮮中央テレビは、臨時ニュースに例の体格のいい女性アナウンサーが出てきて、厳かな調子で「将軍様におかれましては、女性砲兵中隊を視察されました」と、20枚ものカラー写真を付けて報道した。新聞やラジオもこれにならい、テレビ、ラジオは繰り返し伝えた。

 

    写真には、室内で女性兵士を含め部隊幹部から報告を聞いている場面、竹林の中からカメラの方向を見ている場面、兵舎前で整列した女性兵士の前に立つ場面と、部隊全員との記念写真。

 

    総書記の腹はいくぶんぽっこり出て、腕組みをして左手をあごにやったり、後ろの手を回して偉そうにしている姿が、鮮明に写っている。ここからは病気の後はまったくうかがえない。

    「どうだ、これでも脳卒中というのか」という意図丸出しの写真だ。

 

    しかし、これを素直に受け取るわけにはいかない。

 

    まず日時には言及されなかった。それに重病説を打ち消すには動画が最適だ。テレビで放映することを想定すれば、当然である。

 

    最大の疑問は、竹林で撮った写真である。十月ともなれば、北朝鮮は紅葉真っ盛りか終わっている季節だ。竹は一年中青いにしてもみずみずしすぎる。背景にある雑木、手前にわずか映る土手の雑草も緑が濃い。

 

    どうみても春の終わりか、初夏の風景だ。

 

    韓国の聯合ニュースによると、金総書記は2003年と2004年夏にもこの部隊を視察しており、当時の写真を使ったのではないかという見方を紹介している。

 

    しかも、この部隊は人民軍第821部隊の傘下に属し、軍事境界線に隣接する江原道に位置している。もし金総書記の視察ともなれば、無線連絡などで動きを察知することができるはずだが、韓国軍は最近の訪問を感知していない、と報じている。

 

    これまで総書記の動静報道の際の写真は2、3枚が通例、20枚は多すぎる。「過ぎたたるはなお及ばざるが如し」。やはり、元気な姿を見せることはできない状態を逆に証明する結果に招いている。

 

    実は健在報道は、重病説が出て以降、これが初めてではない。

 

    10月2日の「労働新聞」は、金総書記が猛暑の中で「暴熱強行軍」を行ったと報じた。もっとも「7月中旬から8月上旬までの20日余り」の行事で、周辺国が伝えた「8月14日以降に脳卒中で」を否定することにはならない。 それに、この行軍は「あちこちの前線の兵士らと歩んだ道のりだけでも4千キロ」と自ら語ったそうで、「そんなことをするから倒れるのだ」と、かえって重病説の原因の説明になってしまう。

 

    これでは効果ないと見てか、10月5日には、北のメディアは一斉に、金総書記が金日成総合大学創立62周年の学生サッカー試合を観戦したと報じた。

 

    この日は、動静報道が途絶えて51日目。これまでの50日の記録を一日更新した日、というのもわざとらしいが、「先軍政治」を掲げる総書記が肝心の閲兵式には出ないで、たかが学生サッカーを見学というのも説得力がない。

 

    日時も言及せず、写真もなかった。

 

    このため、周辺国のメディアは「健在証明にはならない」と断定、せっかくの報道もやはり効果を発揮しなかった。

 

    そのあげく、決め手として出してきたのが11日の軍部隊の視察報道だ。

 

    このあたり、芸が細かいともいえるが、どこかぼろを出し、かえって疑念をかき立てている。日時が特定できる動く映像、あるいは外国要人が訪問した際に姿を見せるなど、誰でも納得できるかたちで、元気な姿を見せない限り、金総書記が期待する重病説の沈静化は難しそうだ。

 

    10月12日の米国の対北テロ支援国家の指定解除は、金総書記の対米交渉の「したたかさ」の証明にはなる。しかし、「政策判断はできるようだが、半身不随などの後遺症は残っている」など憶測を呼んでいる。

 

    小細工を弄しても重病説は否定できない。

 

    一連の健在報道は総書記の許可なしにはできないはずだ。

 

    「百戦錬磨の霊将」などといわれながら、金総書記は重病説に非常に神経質に反応した。「気にするタイプ」ということがよくわかる。

 

 

(2008.10.15)