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北朝鮮は、なぜ中国に逆らえないのか~愛憎の中朝60年~
五味洋治
(2008.9.30)

 

連載(8)
第4章 個人的関係でつなぐ

 

金正日との因縁―経済と近代化を説く

 

    1983年6月11日に初めて非公式に訪中した金正日に対して鄧小平が語った言葉が残っている。「中国の特色は、遅れていること、貧しいこと、地方が広いこと、人口が多すぎること、問題はとても複雑だ。どの問題を処理しようとしても1千万人から億の人口の人間に影響を与える。(中略)われわれは力を二つの問題に集中する必要がある。一つは経済をうまくやること、これが四つの近代化を実現する核心である。二つ目は幹部を徐々に若返らせ、知識化することである」――若きリーダーに経済重視を説いたのは、鄧なりの思いやりだったのかもしれない(注8)。

 

    1987年5月22日には金日成に対し統一問題を語っている。「われわれはともに統一問題を抱えている。大切なことは自らが発展しなければならないことだ。(中略)今の世界の全般的形成は、個々の紛争が軍事力では解決できないことを示している。だれも戦争は起こしたいと思っていないのが世界の全体状況だ。第3次世界大戦は当面避けられる。われわれ社会主義の国々は、このことをよく見る必要がある。このチャンスを利用し、経済をうまくやらなければならない。現実の問題は複雑で、どの国も自分の状況に合わせて問題を処理しなければならない。一致するのは不可能なことだ」。

 

    韓国は戦争を仕掛けてはこない。だから、経済を振興させるべきだというアドバイスだ。その後、「ともに統一問題を抱えている」と表現した鄧は、その後朝鮮半島の統一と中国が抱える台湾問題を結びつけることはなくなる。

 

    金正日は、実は経済成長を果たした鄧小平時代の中国を真剣に研究していた。2000年10月にオルブライト米国務長官が訪朝したさい、金正日は会談で「自分が鄧小平氏のように(改革・開放を)しようと思ったら、やはり何らかの保障が必要なのだ。DPRKの安全保障が米国によって脅かされないということを確認しなければならない」と語ったという(注9)。

 

    一方、韓国に亡命した黄長燁元朝鮮労働党書記は著書の中で、金正日が中国について、資本主義に走り、民族利己主義に向かっていると批判したことを明らかにしている。中国を訪問する北朝鮮の人民に、開放都市である深圳や珠海、万里の長城の見学を禁止するなど、強い警戒心を抱き、中国人が好きでなかったとも指摘している(注10)。金正日にとって中国は、愛憎半ばする存在だった。

 

 

(注8)『鄧小平思想年譜』:256ページ

(注9)チャールズ・プリチャード元朝鮮半島平和担当特使、2004年10月8日、北海道・北太平洋地域研究センターでの記念講演で。http://www.norpac.or.jp/Program/2004/20Forum/lecture.pdf

(注10)黄長燁『金正日への宣戦布告』:293、332ページ、1999年