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北朝鮮は、なぜ中国に逆らえないのか~愛憎の中朝60年~

五味 洋治

(2008.9.1)

 

連載(1)

第2章 経済と油で支配する

 

貿易統計に見る関係

 

    北京駅の「長安街」は、幅70メートル以上、全8車線の北京のメインストリートだ。天安門や省庁など、重要な建物が通りの両側に並んでいる。その一つに白い建物の海関総局がある。ここが中国と外国との貿易に関するデータを扱っている。

 

    敷地の一角には、貿易統計を閲覧できる場所がある。北京で勤務した2003年からの3年間、私はここに足繁く通った。中朝間の貿易統計が見られるためだ。

 

    不透明な部分の多い中朝関係で、データとしてほぼ唯一確認できるのが貿易の統計である。かつては紙で打ち出されたが、今はCDにデータを焼いてくれる。ただし、貿易用語を理解するのは、門外漢の私のような人間には簡単ではない。もっぱら、油、肉類、テレビなど分かりやすい品目だけに注目した。

 

    貿易は中国が北朝鮮に対して使える有力なカードだ。経済が破綻(はたん)し、食糧不足が常態化している北朝鮮にとっては、中国との貿易や、中国からの援助は、「血液」のように欠かせないものになっている。

 

    1950年に中朝間の貿易額は651万ドルに過ぎなかった(注1)。朝鮮戦争(1950~53年)を挟んで徐々に貿易が拡大、1959年には1億1584万ドルになった。1980年代には5億ドル代で推移している。

 

    当時の主な貿易産品は、北朝鮮から中国向けは鋼材、銅、鉛、海産物。逆に中国からの輸出品は米やトウモロコシ、食用油、衣服などの軽工業品だった。

 

    中国の改革開放が進んだ93年には、中朝間の貿易は8.99億ドルと最高額に達した。北朝鮮の貿易品目には大きな変化がなかったが、中国からは原油、食糧、化学製品、薬、自動車が入り、多様化した。90年代後半は、北朝鮮が自然災害に見舞われ、貿易も減少。99年には3.7

億円に減少している。

 

    もう一つの友好国・ロシアは、旧ソ連時代に北朝鮮の貿易の5割以上を占め、最大の貿易相手国だった。1991年の旧ソ連崩壊後、両国の貿易額は減少を続け、2000年には北朝鮮の貿易総額の1.9%となり、過去最低まで落ち込んだ。代わって中国が台頭してくる。

 

    中国は、2003年には、前年比3割以上の急速な伸びをみせ、北朝鮮の貿易総額に占める対中貿易の比率は約43%、04年は約48%と増え、05年は50%を超えた。

 

    これは第2位の貿易相手国である韓国の2倍に当たり、後で詳しく触れるが北朝鮮の市場の約7~8割は中国産が占めているとも言われる。

 

     この背景には北朝鮮が2000年から中国との関係回復を進めていることがある。中国側も、1992年に廃止した「友好価格制度」を96年に復活させ、原油などを優遇価格で輸出しはじめた。中国にとって北朝鮮は、魅力ある投資対象だ。2004年末、北朝鮮に進出した外国企業は300社に上り、うち40%の120社が中国企業だった。さらに世界最低レベルの労賃、簡素な税金システムも魅力だ(注2)。


    中国の対北朝鮮投資は幅広い分野にわたっている。これまで韓国や中国で報道されただけでも、コンピューター(パンダコンピューター合営会社)、スレート、硝子工場(大安親善硝子工場)、トラクター、無煙炭、プラスチック、平津自転車工場などがある。中国が力を入れ始めている東北部の開発にも北朝鮮との経済関係強化は欠かせない。それだけに政治に偏っていた両国関係を、他国と同様、経済中心に切り替える狙いがあったのだろう。 

 

 

(注1)林今淑『中朝経貿合作』:73ページ、延辺大学出版社:2006年

(注2)北朝鮮の対外経済協力推進委員会の金永民副委員長が2005年2月に

     北京で行った投資説明会での発言