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北朝鮮は、なぜ中国に逆らえないのか~愛憎の中朝60年~
五味洋治

(2008.8.29)

 

連載(17)

第1章 自国内での金儲けを認める

 

柳京ホテルの奇々怪々

 

    日本には「M資金」というものがある。連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)が旧日本軍から接収し、現在も極秘に運用されていると噂される架空の秘密資金で、詐欺に利用される。

 

    北京にも同じような話がある。対象は、資金ではなくホテル。平壌の新名所として期待されながら1992年に工事が中断し、「幽霊ホテル」となっていた105階建ての柳京ホテルだ。北朝鮮大使館の人間が北京で資料を配付し、投資を呼びかけていた。

 

    北京で、この再工事契約を受注したと主張する投資家の男性(朝鮮族)と偶然知り合った。彼は私に「百五階平壌柳京飯店(ホテルの意味)推進計画案」と題された中国語の計画図と、北朝鮮側を代表して「柳星総局」と呼ばれる同ホテル管理部門のサインが入った再建工事請負契約書を見せてくれた。

 

    規模は破格だ。1311室のホテル、990室の貸しオフィス、138室のコンドミニアム、40の食堂、宴会場、計3200室の会議室。南北に別れて住む離散家族の再会や、観光、ビジネスの拠点として活用するという。実現すれば平壌は画期的に変化するだろう。

 

    ただし、このホテルは長期間雨ざらしになっており、一部はゆがみも起きていると伝えられる。韓国の北朝鮮問題専門家に聞いても「再建はとても不可能」との答えだった。

 

    当の朝鮮族の男性は「今度こそ、ホテルは完成する。平壌はビジネスの拠点になる」と自信満々。連日北朝鮮大使館の幹部と北京の街を飲み歩き、再建工事の受注を自慢していた。その後資金集めに失敗し、現在は消息不明になっている。

 

    2008年になって、サウジアラビアの建設会社がこのホテルを受注し、再建工事が始まっているという(注6)。ホテルの規模は地下4階、地上高さ310メートル、総客室数2937の巨大ホテルとなる。中国の資本も参加していると伝えられる。工事は再開されているようだが、長年野ざらしになっていただけに本当に使える施設になるのだろうか。たぶん今もこのホテル投資話は、少なからぬ中国の投資家を迷わせているに違いない。

 

 

(注6) 「共同通信」 : 2008年6月30日