北朝鮮は、なぜ中国に逆らえないのか~愛憎の中朝60年~ 五味洋治 (2008.8.22) 連載(1) まえがき 北京はいつも埃っぽく、空は霞がかかったような灰色をしている。日曜日私はよくデパートに出かけた。胸に金日成バッジを付けた家族連れを探すためだ。彼らが何を買い求め、どんな会話を交わしているのかを知るためだった。それにしても北朝鮮の人たちが、これほどのびのびと暮らしている姿を私は見たことがなかった。2003年から3年間中国に駐在し、中国と北朝鮮が非常に親密な関係にあり、北朝鮮の人たちが自由に歩き回り、ビジネスをしていることを何回も実感した。 ただし、二つの国の関係は、普通ではない。北朝鮮の人たちは中国に親近感を覚えながらもどこか警戒している。同じ社会主義国でありながら、先に豊かになった中国は、北朝鮮に一種の優越感を抱いている。同時に中国は、プライドの強い北朝鮮を経済を通して生かさず殺さずコントロールしている。北朝鮮が唯一恐れ、言うことを聞く国との立場を最大限に生かして国際社会でも発言力を高めている。北京で断続的に開かれている核問題の6カ国協議は、北朝鮮が核計画の内容を申告するところまでこぎつけた。さらに、北朝鮮は平壌郊外にある寧辺の実験用原子炉の冷却塔の爆破も行った。支援目当ての政治ショーとの見方もできるが、2006年に核実験に踏み切った北朝鮮が、ここまで交渉に応じることを予想できた人はいないだろう。私は、漢方薬のようにゆっくりと北朝鮮を説得し、態度を変えるよう促した中国の存在が大きいと思っている。 これまで中国では、北朝鮮に関して政府の内部で何が話し合われているのか分からなかった。しかし核実験を契機に「血潮で結んだ友誼」「唇と歯の(ように相互に依存している)関係」などと称せられた中朝関係が変質し、両国の関係を批判する論文が発表されるようになってきた。もし、北朝鮮に有事があれば、中国は人民解放軍を平壌に送り込み、国の安定を図る可能性さえ指摘されている。 中朝両国は来年国交60年を迎え、盛大に記念行事を行う予定だ。北朝鮮の生命装置を管理しているのは中国だが、北朝鮮を変えることができるのも中国しかない。日本は、中国のような情報統制や秘密の経済援助はできないが、したたかに計算された中国の北朝鮮への対応は、日本にとってもさまざまな示唆に富んでいる。将来、北東アジアは中国が政治的主導権を握る可能性もある。 本書は3年間新聞社の特派員として北京に勤務した経験を踏まえ、私が入手した数多くの未公開資料を盛り込んで謎の多い二つの国の関係を解き明かそうと努めた。記述には欠けている部分が少なくないが、中朝関係に関心のある方の参考となれば幸いである。 |