現代コリア

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東アジアに劇的変化が…

佐藤勝巳

(2008.1.3) 

 

「親書」の効果

 

    昨年11月中旬、日米首脳会談が行われた約2週間後の12月上旬に、ブッシュ大統領から金正日国家国防委員長に「親書」が手渡された。内容は、①寧辺の各施設の「無能力化」、②すべての核施設の申告、特に、濃縮ウラン施設と核の移転が含まれていることが明記されている、というもの。

 

    この「親書」によって、今まで不透明であった「無能力化」や「核施設申告」の内容が透明になった。また、米朝両国内に波紋を広げたことが特徴である。

 

    つまりブッシュ大統領の非核化の考えが内外に「親書」という形で伝えられ、米国務省内のテロ支援国家指定解除の動きが止まった。これには米国内の世論、議会の動きなど色々な要素が考えられるが、その中で日本からの働きかけは大きかったと思われる。

 

    私は、個人の意見として07年10月上旬駐日米大使館政治部マークE・ナッパー次席に「米国が拉致を置き去りにしてテロ支援国家指定を解除するなら、日本は核武装する必要があると考えている」と明確に伝えた。議連の諸先生方も11月上旬米大使館のドノバン筆頭公使とやはり核問題を巡って激しい議論を交わしている。

 

    当時の米国務省の動きは、テロ支援国家指定解除は既定の方針であった。 それなのにブッシュ「親書」は、国務省の妥協路線に「待った」をかけた。この変化は、議連平沼赳夫会長・私も「テロ支援国家指定を解除するなら、日本での核武装論が台頭することを示唆したことだった」との認識を持っている。

 

    政府は政府の立場で、議連・家族会(2006年4月29日の横田早紀江さんの訴えがブッシュ大統領に与えた影響は大きかったと思われる)・「救う会」は全国各地から駐日米大使館にテロ支援国家指定解除反対の要請文を集中した。

 

    このようにそれぞれの立場から積極的に行動したことがブッシュ大統領の「親書」となって現れたと見ている。テロ支援国家指定解除問題は、一応、危機を脱することが出来、拉致救出運動は愁眉を開くことが出来た。

 


なぜ拉致を解決できないのか

 

    だが、新年を迎えるたびに、拉致の解決を11回も決意し、なお解決できないでいる現状は極めて深刻な事態といわなければならない。

 

    政府も、いや、全国民も一緒に考えて頂きたいのだが、金正日が拉致を認めているのに、どうしてかくも長きにわたり拉致被害者を取り返すことが出来ないのか…である。


 福田総理が、昨年9月の自民党総裁選で「自分の手で拉致を解決する」旨大阪の街頭で決意を語っているのをテレビで見たとき、「ことの困難性・深刻さをご理解なさっていないのでは」とフッと不安がよぎった。

 

    なぜなら、われわれは「政府が拉致解決の先頭に立って欲しい」と、9年間かけて600万人近い署名を集めなければならなかったからだ。 安倍晋三内閣が出来てようやく拉致解決を「政府の最重要課題」として取り上げた。それは僅か1年半前のことだ。なぜ拉致問題を歴代政府が「最重要課題」となしえなかったのか。福田総理、この事実が何を意味するのか、お考え頂きたいと思う。

 

    いままで、過去は不問に付す、拉致された被害者全員を奪還できればよいと思っていた。しかし、07年12月11日自民党内に出来た「朝鮮問題小委員会」のメンバーを見て、改めて、過去は現在に影響を及ぼし、将来を規定する、過去を不問に付すことは正しくないと思うようになった。

 

 

改めて過去を問う

 

    国民の皆さんにもご理解していただきたいのであるが、政治集団でもない被害者家族が拉致された肉親に危害が及ぶ可能性を承知で、あえて日本独自の制裁強化を主張し続けているのはなぜか。事情を知らない人が見たら「無謀」なことと映っているかも知れない。

 

    にもかかわらず被害者家族全員とわれわれがひるまず主張しているのは、過去の救出運動、実践から引き出された苦渋の結論である。

 

    わが国政府は、2000年3月と10月の2度にわたって計60万トン(1万トンの貨物船で60隻分)のコメを日本人を拉致した金正日政権に支援した。

 

    被害者家族とわれわれは、とんでもない暴挙であるとして外務省と自民党の本部前に座り込んで反対をした。

 

    これに対して野中広務議員(当時副幹事長だったように思う)は2000年3月29日島根県での講演で「日本人の拉致を解決しないでコメ支援はけしからんと言うが、日本国内で一生懸命吠えていても横田めぐみさんは帰ってこない」と言い放って、コメ支援を決定したのだ。

 

    当時の河野洋平外務大臣は「南北首脳会談で情勢は変わった」「日朝交渉促進のため」「まずこちらが誠意を示し、相手の誠意を期待する」とわれわれの前で大見栄を切って金正日政権にコメを贈ったことを、われわれは忘れていない。

 

    ところが金正日政権は、われわれの指摘どおり日本政府がコメ支援を決定すると同時に日朝交渉を打ち切ってきた。コメをただ取られたのである。なぜこんなことになったのか、「援助すれば北は軟化する」という金正日政権の本質を取り違えていた結果に他ならない。

 

    金正日が拉致を認めた直後の2002年10月2日読売新聞は野中氏に対して「コメ支援が拉致解決に一定の役割を果たしたと思うか」と問うた。氏は「われわれは果たしたいと思いたいが、それは後世に評価されることで、役割を果たしたと言える資格がない。関係者の人には、やはり率直にお詫びしなければならない」と答えている。

 

    河野洋平・加藤紘一両議員は、金正日に累計で150万トンのコメ支援した主要な役割を果たした政治家である。私はこの両人に対して名指しで回答を求めたが、今日に至るも黙殺している。人間、間違いは避けられないものだ。野中広務氏の上記の発言を目にしたとき立派な人だと思った。

 

    それはともかく、隣の韓国の過去10年間を見るがよい。日本などと比較にならないほど膨大な援助を北にしいるのに何が起きたかといえば、ミサイル発射と核実験ではなかったのか。被害者家族とわれわれは、空理空論で金正日政権に対して制裁強化を主張しているのではないことを、お分かりいただけたらと思う。

 

    新しく出来た自民党「朝鮮問題小委員会」の最高顧問山崎拓議員は、公然と金正日政権に対する制裁解除を唱え、同政権への援助を訴えている政治家である。

 

    山崎議員が連絡を取り合っていた韓国の金正日政権に対する融和を唱えた鄭東泳大統領候補は、保守派李明博候補に530万票という圧倒的な票差で、韓国民からノーを突きつけられた。 核を不問に付して金正日政権援助などといっているのは山崎拓・加藤紘一議員、東大和田春樹名誉教授ぐらいのものだ。われわれは重大な関心をもって山崎拓氏並びに朝鮮問題小委員会の言動を見守っていることをお伝えしておく。

 

 

風前の灯6者協議

 

    さて、拉致被害者救出であるが、冒頭言及したように、ブッシュ「親書」で、ヒル次官補と金桂寛次官の「お芝居」はできなくなった。また、「6か国協議の米首席代表、クリストファー・ヒル国務次官補は07年12月12日、上院外交委員会の秘密公聴会で証言し、北朝鮮が過去のウラン濃縮活動や他国への核移転を申告することを拒否し、『核計画の完全で正確な申告』を目指す交渉が厳しい状態に陥っていることを明らかにした。次官補は、完全申告と寧辺(ヨンビョン)の核施設の無能力化の実施を、北朝鮮のテロ支援国指定解除の『政治的条件』としており、年越しが確実な指定解除は、さらに遠のく見込みとなった」(読売新聞07年12月13日)と報じているように情勢は変わったというより、6者協議の虚構が現実に近づいて来たのである。


 

日本政府は原則を貫け

 

    12月25日付「ブッシュ『親書』を解読する」の筆者のコラムで言及しているようにブッシュ「親書」通りに金正日政権が核施設を申告したら即北朝鮮人民軍が「無能力化」する。こんなことを北朝鮮軍が認めるだろうか、認めるはずがない。6者協議の崩壊は秒読み段階に入ったと見てよさそうだ。

 

    他方、韓国では「李明博当選者が北朝鮮人権問題を取り上げて論じる意向を明らかにし、韓・米・日の同盟と友好関係を復元する」(趙甲済「保守の勝利から十日間を振り返って」12月29日、本ホームページより)という。 このように12月中にアジアに劇的な情勢の変化が訪れたのである。

 

    これは、とりもなおさず東アジアが10年前の日・米・韓の連携という姿に立ち返ることを意味し、金正日政権の完全な孤立となる。内部に動揺が必ず起きる。現に、年末、北朝鮮内部に理由は不明であるが緊張が高まっていると情報が伝わってきている。

 

    北朝鮮では、結局、後継者問題をめぐって権力闘争は避けがたく、一定の混乱の中で北朝鮮の権力は、核を捨てて中国の軍門に下る(植民地になる)か、核を放棄したリビアの道を選ぶか二つに一つしかないはずだ。1月1日の「労働新聞」、「朝鮮人民軍」、「青年前衛」の3紙共同社説は、米国は敵視政策をやめよ、韓国には盧政権の約束を実行せよ、日本については言及なし、という誠に貧弱な中身である。

 

    この情勢がわが国の拉致救出に有利に展開することは言うまでもない。 政府は、確信をもって従来の方針を断固貫いて欲しい。原則を貫けば遠くない将来必ず拉致被害者を救出できる時が来る、と分析している。