李会昌の出馬宣言で熱くなった韓国大統領選のレース 洪 熒 (2007.11.9) 李会昌の出馬は反則なのか ハンナラ党の李会昌前総裁が11月7日脱党と同時に無所属で大統領選へ出馬を宣言した。投票まで42日、候補登録をわずか18日残した時点での李会昌の出馬宣言は、今までの選挙構図を根底から揺るがした。李明博を候補に出しているハンナラ党だけでなく、左派陣営全体も混乱に陥った。もちろん、金大中と盧武鉉に2度も敗れた李会昌氏の突然の出馬は常識的にはルール違反だ。だが、李氏の出馬が現実味を帯びた先週からわずか一週間で、すでに左派の代表で支持率で2位だった鄭東泳の支持率を上回った。ハンナラ党と李明博候補側は、李会昌氏に激昂し、支持層の離脱を防ごうと必死だ。不思議にも、保守の分裂を喜ぶべきはず左派方が一層激しく李会昌の出馬を批難している。盧武鉉はもちろん、平壌の金正日も李会昌を非難する。まるで李会昌が韓国の安保の第一の敵でもあるかのように騒ぎ攻撃しているのだ。左翼政権の憲法違反や反逆に対しても沈黙してきたし、同族を大量虐殺してきた金正日に対してもこれほどまでに反発、攻撃したことがないのにである。不思議で面白い現象だ。
いずれにせよ、李会昌に対する世論の支持は20%を超え、一部の地域では李明博の支持率より高い。保守派の半分は李氏の「旗揚げ」を歓迎してる。では、選挙政局を一挙に動揺させた李会昌の登場はどうして可能だったのか。それは、今までの大統領選レースが安保問題や国民の大多数が望んでいるものとはかけ離れた欺瞞的な過程だったからだ。多くの有権者、特にそのストレスが限界を超えていた。保守系は今の閉塞状態を打ち破る革命的転換を望んでいたのである。特に、保守系のストレスが限界を超えていた。
李会昌氏は3度目の挑戦である出馬の名分として次の点を強調した。(1)左派政権を終息させる、(2)相互主義を無視した「太陽政策」の破棄、(3)国民生活に多大な支障をきたしている「公共の敵」、左翼デモなどによる暴力的威力を根絶させる「法治革命」、(4)長期的国家発展の基礎を造るため憲法改正を含む大々的な改革、そして、国民の多数が自分を選択しない時は保守系の一本化のため候補から降りる。つまり、「ルール違反」の是非はあるものの、李会昌の主張は的を得た内容のものであった。少なくとも、有権者の三分の一の保守派が望んでいた、ごく当り前のこと、次期大統領に期待される諸課題を、今度の大統領選に出た他の候補が誰も言わなかったことを、李会昌は明確に語ったのである。李氏の今度の出馬の弁は、多分この10年間、政治人の選挙演説としては最も素晴らしいものだった。
韓国で最も発行部数の多い朝鮮・東亜・中央日報をはじめ、ほとんどのメディアは李会昌がルールに違反し、しかも政権交替の原動力である保守層を分裂させたと指摘、非難した。しかし、自力では政治的な再起が不可能だった李会昌を蘇らせ、出馬をうながしたものは、時代的要請を自覚しなかったハンナラ党や李明博候補側である。また今の韓国の状況で違憲的連邦制という名の民族への阻止のためには国民抵抗権さえやむを得ないと思う「愛国勢力」から見れば、党内ルールの違反は、違法でもないし、言わば「緊急避難的」、あるいは「正当防衛的」行動として認められそうだ。特に、李明博と李会昌の支持率の合計は、李明博一人の時の支持率(50%台)を10%以上上回るから、結果は保守の分裂でなく、明らかに保守の拡大である。
「正統保守派」の立場と選択
だから、韓国の真正保守の一角では、李会昌の出馬を、保守的価値を追求する競争による、保守の新たな支持者の拡張のチャンスだと期待を膨らませている。
真正保守の代表的論客の一人の趙甲済(前月刊朝鮮編集長)は、李会昌の出馬が(真正)保守の課題(悩み)を一挙に解決してくれた側面があると、次のように評価する。(1)選挙期間中、万が一李明博候補に事故が生じた場合の代案ができた(今の選挙法では12月2日から19日の投票日まで候補が死亡しても代替候補を出せない)、(2)李明博候補が仮に「BBK疑惑」(若いベンチャー企業家が384億ウォンを横領、アメリカへ逃亡した事件)などの左翼勢力による謀略で支持率が急落しても代案ができた、(3)ハンナラ党の候補の曖昧な安保政策や対北姿勢に不満があっても、代案がないために、面従的な支持を強いられた真正保守層に代案ができた、(4)金大中・盧武鉉政権の登場を可能にした湖南(全羅道)-忠清道の地域連帯を遮断できた(忠清道が李会昌を支持)、(5)左翼政権による憲法違反に傍観的な政界に鮮明な保守勢力の橋頭堡が確保され、国民の三分の一の世論を代弁することができた、(6)愛国運動勢力が政治勢力化し鮮明な保守政党を作り、来年春の総選挙を通じ国会への進出が望める、(7)李明博と李会昌が本選で一位、二位になると、左派勢力は致命傷を負い、保守系の両党体制による自由統一や一流国家建設へ向けての権力構造の構築も期待できる。
上記のように李会昌の出馬で本質的問題、つまり、左翼政権終息(体制交替)の命題が一層はっきりしてきたのである。伝統的保守勢力から見れば、ハンナラ党はとても健全な保守政党とは言えない。しかも、政権交替に止まらず、左翼政権十年間で破壊された自由民主主義体制の再建に向けての体制交替を目指すべきなのに、ハンナラ党やその候補は「左派的既成事実」に迎合しようとしている。保守派は北の同胞を解放する大統領の登場を望む。メディアの執拗な妨害がなければ、選挙戦は経済重視の「中道保守」の李明博のハンナラ党と、安保優先の「鮮明保守」の李会昌の競いになる構図も予想される。李氏の出馬宣言の直後の朝鮮日報の世論調査の結果は、李明博(ハンナラ党)37.9%、李会昌24.1%、鄭東泳13.9%だった。中央日報の世論調査は、李明博41.3%、李会昌19.1%、鄭東泳11.1%で、つまり、李氏はここ一週間メディアから集中攻撃されても支持率が高いし、特に、左派の支持率の低下をもたらしたことがはっきりしている。
李明博とハンナラ党の事情
ハンナラ党は選挙対策の軌道修正を余儀なくされた。遅すぎた感はあるが、李明博体制の中心である李在五最高委員(選挙対策委副委員長)が党の役職を辞退した。党指導部は追加離脱(特に、朴槿恵)防止と、李会昌に対するネガティブ・キャンペーンに集中している。
そもそも、李会昌が出馬できたのはハンナラ党が事実上分裂状態だったからだ。朴槿恵は予備選での敗北を承服するとは言ったが、以降ずっーと傍観的だった。李会昌の支持勢力は朴槿恵を支持した勢力と重なっている。朴槿恵が李会昌を支持すると、李明博・李会昌の支持率はほぼ対等になると予想される。朴としては来年の総選挙など将来の政治的資産を拡大する上で、今のキャスティングボートを大事に使うつもりのようだ。朴槿恵は態度表明を最大限延ばそうとしている。
李明博は今の「中道寄」から多少は保守的ポーズを強めるだろうが、本格的に保守的価値を中心として李会昌と競争するよりは、やはり「中道」(ポピュリズム)を頼りに李会昌に対するネガティブ・キャンペーンで、支持率の優勢を保とうとすることが予想される。結局、李明博やハンナラ党は、保守的価値を目指す保守同士の競争よりは、専ら世論の支持率の動きを気にしながら段階的に李会昌との対決関係を調整する可能性が高い。まずは候補登録(11月26日締め切り)まではネガティブ・キャンペーンが選挙運動の中心になろう。今後二人の支持率の合計が七〇%台ならば保守系候補の一本化の必要性もないが(保守系が金・銀メダルを取る)、両李の支持率の合計が六〇%を超えられないと、一本化する候補は保守的価値や目標を政策に反映させなければならない。
大統領選への残りの不確実要素
李会昌の出馬により候補群が出揃ったことで、今度の大統領選の投票まで残りの要素は盧武鉉・金正日の南北左翼権力による選挙干渉だけだ。南北の左翼権力は保守政権の登場を阻止するために、平和と民族共助名目の名目でのキャンペーンやイベントなど、ありとあらゆる謀略まで辞さないだろうと予測されるが、李会昌の登場によって保守の座標軸の象徴的・中心的役割変化が期待できる。 もう一つの撹乱要素は来年春の総選挙と関連した問題である。というのは、この大統領選は「体制交替」の前哨戦であり、来年4月に後半戦(総選挙)が控えている。国会議員(政治家)一人一人が生残りをかけるのはやはり総選挙である。だから、大統領選で当選の可能性の低い候補や政党は、総選挙での有利な立場の確保こそ大統領選の隠れ目標である。中央選挙管理委へ登録した「予備候補」は政党の候補だけで、すでに14人以上(無所属の個人を入れれば130人以上)だが、五ヵ月後の総選挙に出馬をめざす者は、みんな大統領選の過程で有利な立場や持ち分の確保が何より大事である。これこそ、右派も左派も抱えている宿題であり悩みである。
李会昌の出馬が保守派の選挙革命の起爆剤になるかどうかはしばらくの観察が必要だが、李氏の出馬は保守の分裂ではなく、保守の拡大・強化につながると期待できる。日本としても韓国にしっかりした保守政権ができることで、「6者協議」において日本が孤立気味の「5対1」から「3対3」に戻すことが期待できる。12月19日の大統領選の観戦がいよいよ楽しくなった。
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