現代コリア

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輪郭が浮かび上がる大統領選挙の構図

「現代コリア」平成19年9月号掲載
洪 熒(早稲田大学客員研究員)

 

    大統領選挙(投票)のちょうど4ヵ月前の8月20日ハンナラ党の大統領候補が決まる。

 

    「汎与圏」(左派・親金正日勢力)は8月5日までに「反ハンナラの大統合」の「第3地帯」での新党を発足させるための突貫作業を行っている。旧与党だった「ヨルリンウリ党」は8月半ばまで「第3地帯新党」へ統合方針を決めた。「中道統合民主党」は金大中の圧力にも拘らず無原則の大統合に抵抗し、独自の大統領候補擁立の余地を残している。

 

    朝鮮労働党の友党である「民主労働党」は独自の左翼候補を出す。右派ではシステム未来党の池萬元総裁が正統保守を標榜し必要だったら立候補するという構えである。

 

    韓国人青年宣教奉仕団23人がアフガンでタリバーンに拉致(7・19)され人質が殺害された事件が起きたが、左翼勢力はこの事件を反米に利用しようとする姿勢を見せている。

 

    ハンナラ党の「ビッグ2」(李明博前ソウル市長、朴槿恵前党代表)に対する一般有権者の好感度は7月末の時点でも「汎与圏」の候補群より圧倒的に高い。

 

    ハンナラ党の候補は選挙人団18万5189人の投票(8・19)結果に一般世論調査を合算して決める。選挙人団は代議員20%(4万6197人)、党員30%(6949人)、非党員30%(6万9496人)で構成し、世論調査の反映比率は20%(4万6197人)であるが、世論調査の方式はまだ決まっていない。

 

    李明博は、朴槿恵陣営のネガティブ攻勢で支持率が落ちたものの、李は党内の支持率で7%、一般世論調査では10%の優勢を維持(7月末現在)している。

 

    金大中と金正日が求めた、「反ハンナラ党の大統合」への「汎与圏」のいわゆる「第3地帯での新党」が姿を現した。「未来創造大統合民主新党」(仮称)という、韓国の政党史上最も長い党名である。名前はその組織・団体の性格を現わすが、この暗号のような名称から「汎与圏」の苦心や出方が分かる。この急造された「大統合」の新党は、企画から指揮・演出、そして強力な接着力まで全てが金大中の力で、政党作りが得意の彼の最後の政党だろう。

 

    この「新党」は発足(8・5)の時点で国会議員が80人を超え(ほとんどがヨルリンウリ党出身)、ハンナラ党に次ぐ第二党になるが、予定通りにヨルリンウリ党(7月末現在58人)を吸収、統合すれば第一党になる。つまり、この新党こそ補欠選挙で43対0の全敗で空中分解・解体されるはずの旧与党の「ヨルリンウリ党」の復活、「新装開業」である。

 

    金大中は、大統合に抵抗する民主党(中道統合民主党)を抑えるため、今年4月の国会議員補欠選挙で民主党が当選させた次男の金弘業や、党の基盤である自治体の首長や議員を離党させる強引な実力行使に出た。

 

 

党内予備選を通じて浮き彫りになったハンナラ党の課題

 

    ハンナラ党は、「ビッグ2」の候補としての資質や道徳性を検証する「聴聞会」を開催(7・19)した。しかし、ラジオとテレビで全国に中継されたこの「検証聴聞会」は、どうも「ビッグ2」にまつわる「疑惑」を解消どころか増幅させ、本選で攻撃される素材を作りだす結果になった。この前代未聞の「自害検証」が、期待通り本選で左派との戦いに役に立つといいが、現実では「ビッグ2」のイメージ改善に何の効果もなかった。

 

    朴槿恵陣営が李明博を追い落とすために、政策や理念ではなく、過去の道徳性の「検証」を仕掛けたのは戦略的に致命的ミスである。朴とその核心参謀たちは、盧武鉉・金大中左翼権力や金正日独裁体制に対しては道徳性を攻撃したことがないのに、党内競争者に対しては執拗に食い下がるとは驚きである。朴槿恵陣営のネガティブ・キャンペーンの結果は両者の支持率の同伴下落で現れ、李明博の支持率の低下分が朴槿恵の方へ行かなかった。「汎与圏」は本選で朴槿恵との対決を望んでいると言われるが、徹底したネガティブ・キャンペーンを通じての勝利は自らだけでなく党に深い傷を残す。

 

    過去に罪を犯し、あるいは過去に失敗したことのある人は永遠に罪人であり、今まで罪や失敗が知られていない人は永遠に善人で能力のある人だと言えるだろうか。多くの保守派が、「ビッグ2」に期待したのは、未来へのビジョンをもって競争することだった。ハンナラ党員(保守右派)は自ら左翼・親金正日分子との違いを意識し、打ち出すべきだった。保守右派は左翼とはその根本において体質的に違うということ、品格が違うところを見せてほしかったのである。

 

    ハンナラ党は果たして保守右派の求心点・希望になれるのか。どう見てもそうではない。いや保守の求心になるのを放棄したかのように見える。ハンナラ党は「太陽政策」の亜流の「韓半島の平和ビジョン―韓半島の平和統一のための積極的対北開放・疎通政策」を発表(7・4、鄭亨根・党最高委員)したことで、金大中と盧武鉉政権の対北反逆路線を追認・追随した。

 

    ハンナラ党は左翼の情報操作に騙され、戦略的に左翼が仕掛けた罠にはまった。ハンナラ党が理念的に変質したのはいつなのか。それは最近のことではない。韓国に保守主義が最も必要だった時、つまり、韓国社会が左傾化し始めた頃に、ハンナラ党も進んでポピュリズムへ走ったのである。進歩主義の真似をし「オープン・プライマリ」のようなポピュリズムの装置を党の制度として受けいれた時、ハンナラ党は保守主義でなくなったのである。ハンナラ党が保守派のように見えたのは、左翼政権から攻撃されたためである。ハンナラ党が選挙で勝てたのは、敵失によるものだったではないか。

 

 

「反ハンナラ大統合」の「第3地帯新党」の正体

 

    「未来創造大統合民主新党」との長い党名は暗号のようだが、実はすごく簡単な暗号である。この党名(仮称)を分解すると、未来創造+大統合+民主+新党になるが、「未来創造」は左翼政権に近い市民団体勢力の「未来創造連帯」、「大統合」は「ヨルリンウリ党」の親盧武鉉勢力が主張してきた大統合のこと、「民主」は「中道統合民主党」又は「民主党」を指す。要するに、ただ、ハンナラ党から脱党した孫鶴圭(「先進平和連帯」)を始め、鄭東泳、李海瓚など諸政派の大統領選候補すべてを盛るための受け皿ということである。

 

    当初の構想では政治圏と「市民社会」側が1対1の対等な形で創党に合意し、6人の共同創党準備委員長も市民団体代表(呉忠一、金浩鎮、金相姫)と政治圏(鄭大哲、鄭均桓、金ハンギル)が3人ずつを充てた。しかし、政治圏は最初から市民団体勢力を「斬新な」イメージの飾りとして利用したいという思惑だったし、「市民団体」側は逆に、国民的に人気の無いヨルリンウリ党に代わり来年4月の総選挙に備え新党の主導権を狙っていた。共同創党準備委員会の発足(7・24)から中央党創党大会(8・5)まで2週間もない。政綱政策すら関係者らが討議する余裕もないと言われ、正式党名がどのように決まるのかも分からず作業をしているそうだ。創党主役の一人の金ハンギルは、この5ヵ月間二度も脱党し三度も新党を作る珍記録を持つ。これはもう政治でなく政治工作である。

 

    すでに、「大統合新党」へ参加を決めた候補群から、キング・メーカーの金大中の意中の人が孫鶴圭ではないかとの反発が噴出し、候補同士の容赦ない牽制が始まった。当然のことである。

 

    孫鶴圭は自分の「先進平和連帯」を動員し大統合新党を蚕食、先占しようとする。その孫鶴圭陣営に金大中の家臣グループの薛勲が状況室長として合流した。薛勲は2002年の大統領選挙の時、ハンナラ党の李会昌候補の20万ドル収受説を流し李会昌の落選工作を企み、虚偽事実流布罪で有罪判決を言い渡された者である。盧武鉉大統領が彼を赦免したが、薛勲自身は自分の違法に対し未だ謝罪もしていない。その薛勲は金大中+盧武鉉+孫鶴圭の団結で勝利すると壮語している。金大中の執念がまた韓国の政治を一世代前へと後退させている。

 

    ヨルリンウリ党は8月12日ごろ党大会を開き、「未来創造大統合民主新党」への統合を決議する予定だそうだが、ウリ党の中にも大統合に反対し党の死守を叫ぶ勢力がある。彼らの主張が簡単に無視されるのかどうか、政党の民主的体質が問われる。もっとも「大統合」の候補が大統領選で勝てる保証はどこにもない。どうせ「鶴の一声」で出来た党だから。

 

    民主党は金大中の「大統合」への強引な干渉に激しく反発しながらも、群小政党への転落の危機感や無力感に駆られている。しかし、草の根の人心の反発と、3年前盧武鉉大統領の弾劾を主導した趙舜衡議員の立候補宣言が民主党の雰囲気を変えた。趙舜衡の出馬宣言は「汎与圏」の構想を揺るがすものである。趙舜衡は良識派でクリーンなイメージで有力候補群の一人として認められた。趙舜衡は、非常識の「汎与圏」の予備選には参加せず大統領選へ出るつもりだと言っている。趙舜衡の常識や勇気は評価され、ハンナラ党にもよい刺戟になるはずである。金大中のお金に、旧い、反逆のカリスマにすがる政治家たちが哀れだ。

 

 

左派「市民団体」の素顔と権力野望

 

    今や486世代になった「386世代」を含む韓国の左派勢力は、政治圏だけでなく教育、言論・放送、文化、宗教、NPO(市民団体)などいろんな部門に永い間計画的に蚕食し、解放区を作り支配圏を広めてきた。この左派市民団体は当然左翼政権登場に寄与し、金大中政権以来左翼政権との共生関係を築き、権力システムの重要な軸の一つになっている。そしていま「未来創造大統合民主新党」の受け皿として、ヨルリンウリ党と同じく左派の総決起路線に従い、ハンナラ党の執権を阻止する構えである。

 

    「市民社会団体」勢力の目標は、大統合新党の付き添いになるのではなく、来年4月の総選挙を契機に腐敗した左派政権の代案になることのようだ。

 

    彼らは自らが市民団体(NPOなど)というが、だいたい政治志向である。今度の「大統合新党」の市民団体側の中央委員には金大中の下で政治に参加した前歴の人も多数含まれている。NPO・市民団体出身は左翼政権の貴重な人材プールなのだ。左翼政権で政府公共のあらゆる「委員会」は彼らのためのポスト・職場なのである。そして、市民団体の活動家は一度権力や金力の味を味わうと政治家になりたくなるようだ。

 

    「新党」の6人の共同創党準備委員長の中で3人が市民団体の席である。呉忠一牧師は国家情報院の過去事究明委員会の委員長であり、左派政権で権力へ参加した政治聖職者の一人である。

 

    金浩鎮は高麗大学教授出身で、金大中政権の労使政委員長や労働部長官を歴任し世宗大学校理事長である。金相姫は女性運動家出身で、盧武鉉政権の大統領諮問持続可能発展委員長を歴任した。

 

    因みに、市民団体活動家出身の多くは公的仕事のポストに就いても市民運動的感覚で物事を判断、処理する。特に、宗教人出身の市民団体活動家の場合がひどく、自分の信念を法律より優先させ、彼らのネットワークを政府のシステムより重視するようなケースが多い。李在禎統一部長官や宋基寅「真実和解のための過去事整理委員長」(長官級)などは聖職者出身の代表だが、彼らの権限の行使ぶりは独善的、独裁的だ。韓国のいわゆる「市民社会団体」の中には平壌側を「祖国」と呼ぶ反逆的団体も多いが、そのようなところにも政府の補助金が出されている。

 

 

選挙政局の波乱要素と金正日の高次元的介入

 

    北核解決のための6者協議が、いつの間にか平和体制構築の議論の場に変わりつつある。盧武鉉は、「韓半島の非核化を早期に達成し、停戦体制を平和体制へと転換するべきだ」(7・20、民主平和統一諮問会議で)と指示した。左翼政権が平和ムードを作り、保守右派を戦争勢力として孤立させる、安保の枠を変える措置を講じている。

 

    李在禎統一部長官も金剛山訪問後の7月18日、「韓半島の平和体制のためのいろんな内容を盛った平和の制度化が必要」で、「政府は早晩このような提案ができるではないかと思っている」と言った。現在、青瓦台、外交部、統一部、国防部などによる「韓半島平和体制論議タスクフォース」が稼動中で、政権核心部からは一方的終戦宣言など大胆なアイデアが洩れて出る。「6・15宣言」以上の反逆暴挙はあるだろうか。

 

    年末の大統領選挙は金正日にとっても死活的問題である。金正日は従来型の対南撹乱工作と並行して、安保面で韓国から決定的な戦略的譲歩を誘導する次元の工作に取りかかっている。

 

    金正日はBDAの不法資金2500万ドル問題が解決できそうになると、ミサイルの発射を増やし意図的に軍事的緊張を高めた。金正日は韓国と米国に対し、「6者協議」の方向を核問題解決から平和体制構築問題へ誘引、誘導している(平壌側は対日関係においては、「朝総連への弾圧」に反発、日本を「6者協議」から外そうとする姿勢を取っている)。

 

    北側はアメリカに対し、「韓半島の非核化は駐韓米軍の撤退などを通じてのアメリカの敵対的措置の中止や米朝の核廃棄のための同時的措置を通じてだけ可能だ」と7月4日主張(韓成烈軍縮平和研究所所長代理)した。

 

    また、北の人民軍板門店代表部は7月13日、「朝鮮半島の平和と安全保障と関連した問題を討議するため、国連代表も参加する米朝軍事会談を提議し」、「我々の核問題とは本質的にアメリカの核問題である」と主張した。

 

    さらに、金桂寛は、第6次「6者協議」後の7月21日、「我々は重油を食う寄生虫ではない。軽水炉が来てはじめて寧辺の核施設を解体できる」と核を放棄する考えがないことを強調した。

 

    第6次南北将官級会談(7・24~26、板門店)はNLL(海上北方限界線)問題で対立、決裂した。北側はNLLの再設定を執拗に要求し紛争化を目論み、緊張感を高めようとしている。

 

    北側の米朝軍事会談提議の背景に対し、宋大晟世宗研究所首席研究員は、①「6者協議」参加5ヵ国も「不能化措置」および「第2段階北核廃棄」のための実践計画を撹乱又は遅らせ、場合によっては「6者協議」そのものを無力化するため、②今後北核の廃棄と駐韓米軍の撤退を連携させるため、③北核廃棄問題を米朝の核軍縮問題化するため、④北側が核保有国であることを既成事実化する目的、と分析している。金正日はブッシュ政権をうまくコントロールできると自信をもっているように見え、それなりに成功しているようにも見える。

 

    金正日の行動は、大統領選挙を前に盧武鉉政権が南北頂上会談を渇望する背景や具体的雰囲気を読み、韓国の弱点や窮地を利用し彼が獲得すべき目標・条件を提示したものである。

 

    そもそも南北間の接触は平壌(金正日)側が進展を演出したい時だけ進展する(進展するように見える)関係である。金正日は、去年8月の盧武鉉からの(原爆実験の中止を求めようとする)頂上会談提案は無視した。任期の無い独裁体制と任期(選挙)に追われる民主主義的体制の関係は独裁体制の方が有利に見える。だから我慢強くない民衆はよく大衆扇動政治家(ポピュリスト)や独裁体制に騙され負ける。

 

 

「次悪の選択」を強いられる保守系の有権者

 

    韓国の保守有権者、いや韓国民にとって今度の大統領選挙の最高の命題は政権交替である。死んだふりをし有権者を騙し、変装してまた生き返ろうとする左翼独裁政権の延長を、絶対許してはいけない。左翼による経済自由の抑制は経済の不振をもたらした。韓国にはこれ以上左翼に試行錯誤の実験を許す余裕はない。「汎与圏」は自分たちの失敗をも反省せず、失敗からも何の教訓を得ようとしない勢力である。今度の選挙は、成功してきた韓国の歴史を否定し、金正日独裁体制と組み、民族共助を叫ぶ野蛮との戦いである。

 

    もっとも、今まで韓国の国政選挙では政策や理念路線が選挙(投票)の中心になった例はない。そもそも選挙を政策で勝負するのが先進国であり、そうでないのが後進国とも言える。せっかく政策や路線が選挙の中心になっても次元の低い似非政策、つまりポピュリズム(大衆迎合主義)に左右されるのが後進国の後進性である。

 

    「汎与圏」の支離滅裂さを見れば今度の選挙は楽観していいだろうか。当然安心できない。というのは、ハンナラ党の候補は共滅をもたらす自害検証キャンペーンをも、やめないくらい愚かな候補だからだ。ハンナラ党には期待できない。保守の有権者が選択すべきは、保守主義、自由主義の精神に欠けたハンナラ党か、それとも保守の第3の候補か。選挙という現実の中で有権者の選択は「最善」、「次善」、「次悪」、「最悪」のどちらかである。

 

    ソウル地検は、李明博の「財産検証」関連告訴件を、告訴を取り下げても引き続き捜査すると発表(7・30)した。仮に李明博が候補に決まっても逮捕できることを意味する。

 

    国会は有力大統領候補へのテロを予防するために、世論調査1―2位の政党推薦の候補が候補登録5日(再登録時限終了)後に死亡した場合、「大統領の任期終了40日前の水曜日を選挙日とする」選挙法改正案に合意した(現行は70日前)。

 

    今は野党や候補に期待するより、保守主義や常識人の有権者たちの決起が最大の希望である。保守右派は、暴力と政治工作に対応するため、「国家先進化・工作政治粉砕国民連合」(7・24)や「国民希望連帯」(7・30)を発足させた。

 

    大統領選挙は前半戦にすぎない。後半戦(総選挙)が待っている。後半戦こそが真の勝負どころかも知れない。保守右派が賢く断固として対処すれば、左派・親金正日勢力を消滅できる。最高権力者(大統領)に期待するより、長期的にしっかりした保守主義を育成すべきである。後半戦こそ韓国社会で親金正日勢力を一掃できるチャンスである。