現代コリア

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金正日の謀略

佐藤勝巳
(2007.8.12)

 

    南北首脳会談(正式発表文は「面談」)の発表は、前から噂されていたことであり、首脳会談でも実現しなければ、韓国の左派は大統領選挙に勝ち目がないことから、予測されていたことである。

 

    しかし、産経新聞(8月10付)北京発の金正日がブッシュ大統領に「朝米関係を正常化し韓国以上に親密なパートナーになる」と昨年10月の核実験後にメッセージを送っていたという報道は、南北首脳会談よりはるかに驚きである。報道と同時に真偽を確認してみた。

 

    まず、日本政府筋であるが、この情報をすでに知っていた。産経新聞の報道は「パートナーになる」であるが、政府筋の耳に入っていたものは、統一教会の在米韓国人某氏を通じて米政府に渡ったメッセージは、「北のトップが中国に殺される危険があるから助けて欲しい」というものであったという。

 

    筆者に語った同筋は、「あれは金正日のブッシュに対する命乞いで金正日の書いたものとは思われない」とコメントしていた。

 

    いま一つは、韓国右派系からの情報である。韓国政府が金正日のメッセージをブッシュ政権に届けたかどうかは不明であるが、韓国外交通商省が米国務省、ヒル次官補などに宥和政策を強力に働きかけたことは、担当大臣が国会で認めている。今年1月のベルリンでのヒル・金桂寛会談は、「ヒルは韓国と事前に打ちわせている」と答えている。

 

    また、米国家安全保障会議の前日本部長ビクター・チャの両親は韓国全羅道で金大中と同郷。ヒルの特別アドバイザーのバルビナ・ファンは、韓国系米国人で、彼女の大学のときの指導教官がビクター・チャという陣容で、韓国からの国務省などに対する工作は執拗を極めていたという。

 

    分かりやすくいうなら、金正日が中国を警戒し、ブッシュにパートナーになろうと接近してきたということである。古くから朝鮮問題をやっている人間なら、まてよ、いつか何処かでこんなことがあったとすぐ気がつくはず。1959年9月中ソ対立が顕在化した。金正日の父親金日成は、中国に付きフルシチョフをこうげきした。1964年フルシチョフが失脚し、ソ連が関係改善を金日成に求めてくる。他方、中国では1966年から文化大革命がおき、金日成と中国の間に緊張が高まり、1969年には朝中国境で大規模な軍事衝突に発展した。翌年1970年4月周恩来がピョンヤンを訪問、「日本軍国主義に反対しよう」という素っ頓狂な声明を出して握手した。


    この10年間の金日成の外交を見ていると「モスクワが駄目なら北京があるさ、北京が駄目ならモスクワがある」という、綱渡りというか、振り子外交を展開してきた。利用被利用の外交の基準は政権安保だ。イデオロギーなど関係ない。今、金正日がやっているブッシュ政権に対する「パートナー外交」は1960年代の金日成外交をなぞっている。別に新しい手法ではない。


    金正日政権のこの動きに対する中国の対応である。前から感じていたことであるが、日本の小泉から安倍への政権交代を捉え、中国は対日接近を図ってきた。理由は、国内問題プラス朝鮮半島の米国との覇権を争いに日本が必要であったからである。


    ミサイル実験、核実験にいたる金正日政権に対する中国の態度は、国連の制裁決議に賛成。非公式に耳に入ってきていた中国の金正日に対する圧力は、ミサイル実験などを巡って「やれるものならやってみろ」というやくざまがいの恫喝を思わせるものがあった。


    また、バンコ・デルタ・アジア(BDA)の送金問題に対する故錦濤政権の消極的態度は、米朝を牽制する以外のなにものでもなかった。


    そもそも南北首脳会談を目前にして、北京が日本メディア(産経新聞)にこんな内容をリークすること事態が、米国指導による南北首脳会談に対する牽制であることは誰の目にも明らかである。中国を無視してやれるものならやってみろ、というこれ以上強力なメッセージはあるまい。次に、何を暴露するか分からないというぞという脅迫が、言外に含まれている。


    さて、ブッシュ政権であるが、ヒルなどを見ていると、朝鮮問題の歴史すら知ろうとしていない。金丸訪朝時代のわが国の外務省とよく似ている。韓国系米国人だから、北朝鮮のことを知っているというレベルである。金正日政権から見れば米国務省のヒルのような連中を騙すのは赤子の手を捻るより簡単なはず。金正日からどんなメッセージが届いたか知らないが、そんなものを信用するほうが馬鹿である。必ず反故にする。


    ブッシュがこの金正日のメッセージを信用している証拠は、ヒルが来年末までに米朝国交樹立を目指すと公言していることである。今回の取材で分かったことは、政府筋は、ブッシュ大統領は、米財務省の金融制裁(現代コリア9月号真田幸光論文参照)で金正日政権を締め上げることが出来ることを承知しながら、それの発動(金正日政権打倒)を許さないでいる、という重大な事実を知ったことである。

 

    この政府筋の話が事実なら、ブッシュは金正日の生殺与奪の権を握っているということである。これの真偽は6者協議の行方を見ればすぐ分かる。

 

    事態がこのようである以上日本はどうするのか。結論を先に言うなら、拉致・核解決に日本は主導権を握った。安倍晋三内閣の拉致救出の方針は「拉致の進展なくしてカネは出さない」であるし、ブッシュ政権が、拉致を置き去りにして、米朝国交樹立などに動いたら、日米関係が目茶苦茶になるがそれでもよいのか。それをしたくなかったら、拉致解決に本気で協力せよと迫ることである。韓国・中国にも同じことを断固主張すべきである。中国は支持するはずである。


    日本に拉致解決の千歳一遇のチャンスが訪れたのである。