現代コリア

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左翼政権三期目への大統領の選挙介入

「現代コリア」平成19年7・8月号掲載
洪 熒(早稲田大学客員研究員)

 

    年末の大統領選挙が投票日までついに半年をきった。選挙法(93条)は、選挙日(12・19)の180日前から広告、挨拶状、張り紙、写真、文書、図画、印刷物、録音、録画テープなどを利用した「特定政党と候補者を支持、推薦、反対したり、政党の名称や候補者の姓名を表してはならない」と明示している。

 

    ハンナラ党は6月13日までに5人の候補(朴槿恵、李明博、洪準杓、元喜龍、高鎮和)が党内予備選へ正式登録した。選挙法は、政党の競選(予備選挙)へ登録した候補は、後でその党から脱党して立候補することを禁じている。したがって、ハンナラ党の大統領候補はよほどの突発事態がない限り、8月20日には「ビッグ2」の朴槿恵か李明博のいずれかに決まるはずである。

 

    一方、与党だったヨルリンウリ党やいわゆる「汎与圏」(親北左派)の方は現在20人以上が自薦・他薦で大統領選挙出馬へ名乗りを上げている。だが、自力で「左派の代表」になれそうな候補は見当たらず、乱立した候補の圧縮、調整も進んでいない。保守派に絶対政権を渡したくない左翼民族主義勢力は時間に追われ、焦っている。

 

    そこで、「汎与圏」候補が決まるまで、現職の盧武鉉大統領や金大中元大統領が前面に出て、野党(ハンナラ党)との代理戦争や露骨な選挙介入を行うという違法で異常な政局になっている。つまり、「汎与圏の代表」は全的に盧武鉉と金大中が合意する候補で決まる成り行きである。

 

    絶対権力を持つ大統領の選挙への介入は重大な違法なので、中央選挙管理委員会は盧武鉉大統領に対し「選挙中立義務」遵守を促したが、盧武鉉は選挙法が大統領の政治行為を「偽善的」に制限していると憲法訴願を提起した。

 

    中央選挙管理委員会は早くも6月22日選挙法違反の取締りの指針を発表した。ハンナラ党とヨルリンウリ党の間、ハンナラ党と政府の間では名誉毀損などで相互告発などがなされ、選挙管理委は選挙法違反の容疑を検察へ捜査を依頼し始めた。韓国の政局は結末が予測できない激動的局面に陥って行く。

 

 

ハンナラ党の候補になるのは誰なのか

 

    4月末の補欠選挙で惨敗しショック状態だったハンナラ党は、暫くして世論調査での支持率が5割台であるのに安堵(?)し、ショックを忘れ、また党内予備戦に夢中になっている。党の弱点を根本的に補完する試みや、左翼(南・北の既得権力)の戦略戦術への対策などは眼中にないように見える。保守系の有権者はハンナラ党に対する失望感を隠せず、はらはらしている。

 

    ハンナラ党は候補者同士の政策討論会を通じての党内遊説を8月19日まで行うが、有権者の関心を引く目的の政策討論会の興行は惨敗し、政権奪還を目指す野党としての覚悟や闘争力よりは、候補同士の相互非難・攻撃や理念的偏差の方が大きく浮き彫りになってきた。

 

    候補の理念的姿勢を見ると、李明博(前ソウル市長)や朴槿恵(前党代表)候補も「保守」というよりは「中道」に近く、他の3人は完全に左派である。洪準杓(53歳、3選議員)候補は、平壌側を国家として認めるべきで、憲法の領土条項(第3条)の改正を主張した。検事出身とは信じられない主張である。元喜龍(43歳、再選議員)候補も検事出身だが、やはり機会主義的親北左派である。高鎮和(44歳、初選議員)候補はヨルリンウリ党と行動を共にしてきた親北左派で、今年の3月日本を訪問した時は朝総連本部を訪問した。そもそも初当選や再選の若い議員が大統領選へ出馬すること自体が尋常ではない。

 

    ハンナラ党の「ビッグ2」(李明博と朴槿恵)の容赦ない相互攻撃は、既に予備選後双方が和解できる線を越えたと憂慮されている。両者がここまで党内の予備選挙に拘るのは、「党の公認候補になれば『汎与圏』の候補には勝つ」との世論調査の結果の所為である。つまり、ハンナラ党の候補は当然大統領に決まる、という確信が両陣営の参謀たちを無限闘争へと駆り立てている。

 

    さて、誰がハンナラ党の候補になるだろうか。「ビッグ2」の支持率は「政策討論会」を通じ若干変化を見せている。李明博候補の圧倒的優位が揺れるかのようだった。「ビッグ2」の支持率は当然ゼロサムゲーム的側面があるが、だからと言って李明博の支持率が落ちても、落ちた分がそのまま全部朴槿恵候補の方には行かない。候補決めには地域的に首都圏と慶尚道での有権者の動向が決定的に影響する。

 

    「候補の適合性検証」キャンペーンは世論へ相当影響を及ぼす。しかし、より手強い影響力は、たぶん国家権力を持つ大統領の意志・選挙への介入である。野党候補への権力からの圧力は、今のところ主に李明博候補へ集中している。それは李明博候補の支持率が断然高いからである。野党の候補が正式に決まると左翼権力の圧力は勿論そちらへ向けられる。

 

 

「汎与圏」の焦りと不安、連帯への合従連衡

 

    ヨルリンウリ党は、去る2月の党大会で、大統領選へ候補を出せない現実を認め、6月14日までに党の改革や新しい進路を決めることを決議した。だが、その後盧武鉉大統領の脱党など党の分裂・混乱ばかりが深まった。ヨルリンウリ党は3年前の総選挙で152議席で過半数を制したが、今年に入り相次ぐ集団脱党で残留議員は73人(6月末)で、結党以来3年半の間、党議長経験者8人のうち、まだ党籍を維持しているのは3人だけである。与党として自滅し、空中分解し、党の性格や路線が変質している。

 

    盧武鉉大統領はヨルリンウリ党の死守と独自勢力の構築に出た。盧武鉉の最側近の安煕正が「参与政府評価フォラム」という盧武鉉親衛勢力を全国的に組織している。「参与政府」とは彼らだけが「参与」した盧武鉉政権だが、この組織は盧武鉉の退任後のためのものだと言われている。

 

    金大中は「反ハンナラ党の大統合」の実現のため「死生決断」で臨むように追従勢力に促している。「汎与圏」の中ではこの「大統合」、あるいは統合の範囲を限定した「小統合」を摸索する合従連衡が時間に追われながら試されている。「汎与圏」は「ヨルリンウリ党」、「ヨルリンウリ党からの脱党組」、「民主党」、「左派市民団体」などに分かれ、主導権や持分の確保の駆け引きを繰り返している。「汎与圏4政派の連席会議」という提案も出たが、「ヨルリンウリ党」からの参加者の資格問題で霧散した。金大中支持勢力が中心になった「大統合国民運動協議会」(張裳代表)などが動き、「汎与圏大統領候補連席会議」という構想も提案されている。本来競争関係であるはずの候補同士が「連席会議」を開くというのは果たして自由民主主義的な発想と言えるだろか。常識を超える左翼の発想には驚くだけである。

 

    こういう動きの中で「民主党」と、反盧武鉉勢力である「中道改革統合新党」が合党(6・27)し、「統合民主党」(朴相千代表)を作った。金大中が望む「大統合」は、各政派が次期大統領の就任の1ヵ月半後に行われる総選挙(来年4月)への思惑の差のため中々進まない。今すぐ「汎与圏」の新党は物理的に無理である。だから候補群の整理、統合にはある種の強制力が必要である。

 

    左派・「汎与圏」は、反ハンナラ党の代表(候補)を「政党の候補」として打ち出せる環境作りへの難関を突破することが当面の死活的課題である。そこで「汎与圏」は、まず20人以上の候補群から「国民候補」を決めるための絞り込み作業を模索している。

 

    結局、「汎与圏」の候補群から選ばれるのは盧武鉉と金大中が妥協・合意できる候補であるが、現在「汎与圏」の代表として有利な立場を確保しているのは孫鶴圭と李海吹i盧武鉉大統領の政務特補、元総理)のようだ。もちろん、両者の共通点は骨の髄まで左翼であり、金大中・盧武鉉の対北路線の継承が期待できる点である。ということは、平壌(金正日)にも好意的に受け入れられる候補でもある(孫鶴圭も李海垂烽アの春平壌を訪問した)。諸般の事情などを総合的に見ると権力の中からは李海垂フ方が有利にも思われるが、「汎与圏」の候補はハンナラ党の候補が決まった後、それに対応して決まる筈である。

 

 

狙撃手になった盧武鉉大統領

 

    いま韓国は、政治だけでなくすべてにおいて、盧武鉉大統領の独擅場である。4月に韓米自由貿易協定を妥結させた盧武鉉は支持率が少々上がったことで自信満々であり、負けず嫌いの性格からレーム・ダックを認めず、暴走している。ところが、大統領を牽制できる装置がまったく機能していない。

 

    盧武鉉は、恰も彼自身が次期大統領選挙へ出馬したかのように、自分の直系外のすべての政治家を無差別に攻撃し、特に野党候補の政策構想までチェック・批難している。

 

    盧武鉉は2月末にヨルリンウリ党を脱党したはずなのに、ヨルリンウリ党の死守を宣言している。そして年初から、自分の後継者として相応しくないと思う候補の除去作業に取り組んできた。すでにハンナラ党に対抗する「国民候補」として有力視された高建元総理を1月に、鄭雲燦前ソウル大学校総長を4月に除去した。

 

    盧武鉉大統領は「ハンナラ党へ政権を渡すのは考えたくもない悪夢だ」と言い放ち、執拗に李明博と朴槿恵を攻撃する。自分の気に入らない「汎与圏」候補の狙い撃ちも続けている。お得意の〝インターネット手紙〟の手法を使って、ヨルリンウリ党解党派への攻撃も行っている。「大統領としてではなく、個人盧武鉉としての資格だ」と強調しながら、同志だった鄭東泳と金槿泰(前ヨルリンウリ党代表)を攻撃した。鄭東泳と金槿泰は盧武鉉に猛反発したが、6月12日、金槿泰は大統領選への立候補を断念した。

 

    盧武鉉大統領の露骨で違法な選挙関与を牽制しようと中央選挙管理委員会は、大統領の「参与政府評価フォーラム」での発言(6・1)、圓光大学校での講義(6・8)、「6・10記念辞」、そしてハンギョレ新聞のインタービューでの発言などを、選挙法が定めた「選挙中立義務」への違反であると決定(6・7及び6・18)した。二〇〇四年に盧武鉉大統領は弾劾されたが、その理由の一つも選挙法違反であった。

 

    しかし盧武鉉大統領は、選挙法が大統領の政治的権利を侵害したとして、憲法裁判所へ憲法訴願を出した。大統領が法律の解釈権までを要求したのである。そもそも大統領には憲法訴願の資格が無い。そこで盧武鉉は、大統領としてではなく「個人の資格」で憲法訴願を出したのである。まさに帝王的大統領制の盲点、つまり権力の頂点である大統領自身の、その人格からもたらされる危機である。

 

    盧武鉉と金大中の選挙介入、つまり、左翼政権3期目への執念は、右派保守政権が登場した時、彼らの国家反逆や犯罪が裁かれるのが怖いからである。だから盧武鉉大統領の暴走は彼が権力を失うまで続くだろう。また地域主義に訴えようとする金大中との権力闘争の側面もある。盧武鉉の孫鶴圭への非難・攻撃は多分に金大中との駆け引きではないか、との観測が強い。孫は正体を隠してハンナラ党に潜伏してきた。金大中は孫のような左翼夢想家らを支持し、利用する。盧武鉉と金大中が共同で巻き起こす動乱が近づいて来ている。

 

 

金正日の介入

 

    平壌側もまた、生き残りをかけて韓国の内政へ介入している。金正日としては、韓国内の強力な親金正日勢力による大統領選舞台への招待に応じないわけにはいかない。

 

    盧武鉉と金大中が操る「汎与圏」は、大統領選挙に有利な環境を作ろうと、あらゆる面で金正日を利用しようとし、また金正日にお願いしている。李海垂ネどヨルリンウリ党の重鎮たちは平壌を訪問して朝鮮労働党の対南工作部門の幹部と「南北関係の発展を協議」し、対北支援を強調した。因みにソウルからの平壌詣でを捌くのは統戦部の副部長の崔承哲である。彼ら(ウリ党の李海垂ネど)は、政府でも与党でもなく、まったくの民間人に過ぎないのに、何よりその対北支援の規模に驚く。

 

    盧武鉉と「汎与圏」が熱狂した南北鉄道の連結試験運行(5・17)は、たったの一日、いや数時間の軍事分界線の開放のために天文学的支援をした。ヒルの平壌訪問で盧武鉉政権は3849億ウォン(約481億円)分の米40万トンの支援を6月30日開始した。

 

    勿論、すべてが南北の左翼の思い通りにはならなかった。金正日は「外勢の排撃」(=左翼民族主義)を強調してきたが、韓米FTA(自由貿易協定)の署名(6・30、ワシントン)は、金正日は勿論、韓国内の親北左派の反発を呼んだ。平壌で開催した「6・15共同宣言」実践のための統一戦線工作行事は思わぬ自らの矛盾で不首尾に終った。

 

    平壌側は「2・13合意」の履行を責められているが、金正日は「6者協議」の目標や方向を「核問題」から「平和体制」構築へとすり替えようとしている。バンコ・デルタ・アジア(BDA)に凍結された不法資金の問題が「解決」しそうになったら、金正日は国連の制裁決議(1718号)に挑戦し、やたらにミサイルを発射し、軍事的緊張感を高めようとしている。また金正日は「南北基本合意書」(91年12月)を無視し、西海のNLL(海上北方限界線)の形骸化を執拗に謀り、挑発し続け、「武装衝突の再発は全面戦争に拡大する」と脅迫戦術に出た。言葉では「わが民族同士」を謳う金正日に対し、左翼政権が10年間一方的支援を続けたにも拘らず、南北関係は破裂を待っているかのように不気味な緊張感が高まっている。

 

 

「汎与圏」を助けるアメリカ

 

    いま「汎与圏」と呼ばれる親金正日勢力は、「6者協議の外務長官会談」や南北頂上会談などを通じ、年末の大統領選挙を「平和勢力」対「冷戦・戦争勢力」の構図をもって左翼政権3期目へつなごうとしている。勿論、南・北の左翼権力らの言う「平和」とは偽物である。

 

    一方、保守右派は、野蛮な独裁体制の金正日と戦うのか、金正日と組むのか、の構図で選挙戦に臨もうとする。善と悪は妥協不可能であり、独裁と妥協してはいけない。

 

    ところが、韓国の命運をかけたこの選挙を前に、事もあろうにアメリカが親金正日勢力の助けに出た。ライスの国務省が金正日への宥和路線に転じたのだ。アメリカは北核の解決のため、「平和体制」構築や米朝関係改善の方へと、金正日が望んできた目標を認めた。

 

    国務省は北朝鮮をテロ支援国家から解除はしなかったものの、金正日の拉致犯罪に対しての記述を縮小し、韓国人の拉致記述は完全に削除した。朝鮮新報(朝総連機関紙)はアメリカのテロ報告書を評価(感謝)した。ブッシュ政権は愛国法に違反してまでBDAの例の2500万ドルを金正日へ送金した。ヒルの言動を見ると、彼は「内在的接近法」で平壌側と接触しているかのように見える。いや、遅れを挽回しようとする功名心がヒルを焦らせた。ヒルは平壌訪問(6・21)後、彼のパートナーである金桂寛と酔い痴れるほど飲んだと言った。最近の報道によると、金桂寛は金正日の特別配慮で、最側近30人以内に与える「恩徳村」に入居したそうだ。これこそヒルの成績表ではないか。

 

    アメリカ国務省は、独裁者との取引で問題が解決でき、平和が保てると期待するようだが、悪の勢力との闘争は絢爛な外交で達成できるものではない。任期の無い独裁者にとってはアメリカの国務省は非常に相手にしやすいところである。金正日にとってはライスやヒルは「有り難い存在」かも知れない。

 

    よく無能な者の功名心は戦争の局面も駄目にする。ライスは、ブッシュ大統領の任期中に達成されるかどうかも分からない結果を期待して、金正日を確実に圧迫できるはずの韓国の保守右派を窮地へ追い込むような愚かな選択をした。平壌の金正日の哄笑が聞こえる。

 

    韓半島においての「平和体制構築」の論議は「パリ平和協定」を彷彿させる。そもそも北核問題においては、朴正煕を独裁者だと圧迫したカーター元大統領が、悪魔的独裁者である金日成と睦まじく北核危機の平和的解決を協議した喜劇的場面もあった。

 

    ライスの「現実主義的」外交で、韓国の保守の中からもアメリカ、特にライスの国務省に対する不信感は深まり、今後韓国で「反米保守」が増えるだろう。

 

    韓国は共和制60年の歴史上最も深刻な国論分裂・内戦的対決状況の中で揺らいでいる。

 

    ハンナラ党は世論調査の優勢を固めて政権を奪還しようとするが、左翼政権は10年間築き上げた反逆のシステムを総動員している。特に、政権に対する批判を封鎖しようとする言論規制、民主主義的政権交替を否定・拒否する大統領の法治無視や選挙への介入姿勢が鮮明になっている。左翼権力はメディアを掌握して有権者を欺瞞できる。権力に影響される中央選挙管理委員会は保守派の金正日糾弾集会までも牽制したりする。平壌の労働党による「反保守」統一戦線が予想される。

 

    いま、韓国の右派はどこを見てもほとんど援軍が見えない。

 

    そもそも、先進国の多くのメディアや知識層は、「民主化勢力」として偽装した「主思派」や共産主義勢力に騙され、金大中など「反民主勢力」を支援した。しかし、「韓国の左傾化」を支援した彼ら「進歩勢力」は、いま野蛮や左翼独裁から自由民主主義を守ろうとする努力には無関心だ。もっとも、彼ら「進歩主義・左派」は脱北者や北朝鮮の人権・金正日の暴政にも無関心である。

 

    フランス大統領選挙で右派のサルコジ候補の当選を見る韓国右派の気持ちは複雑だが、やはり、保守右派は選挙で左翼に勝つためには有権者を覚醒させなければならない。自由民主主義を選択しない、自由を疎かにすると、自由の敵の支配下に入る。左翼政権の反逆システムの動員と、大統領の選挙介入、という自由民主主義の危機を投票で乗り越えるためには、真実を伝える保守右派の決起が希望である。