それも騙したのが総聯を監視してきた元公安調査庁の長官だという。総聯にとって公安調査庁は「敵」。その敵と総聯のトップ(責任第一副議長)がつるんでいたという話だ。誰だって「これは何だ」と更に胡散臭さが増す。
この問題が顕在化して総聯活動家達に与えたショックは計り知れないものがあったと言う。総聯老幹部から「この問題がどんな形で片付いてもこれで総聯は終わりだ」と電話の向こうからつぶやくような声が伝わってきた。
筆者にとっての総聯は思想的には「初めての男のような存在で」ある。その男が満天下に醜態を晒している姿を毎日テレビで観ている女性の心理にも近い複雑なものがある。
それはともかく、総聯中央の土地建物が、差押さえられるような推移をスケッチすると次のようになる。
バブルが弾けて総聯などから金正日政権に流れていた金が細りだした。すると金正日は朝銀の預金に目をつけ自分の元に運ばせ、結果、朝銀は破綻した。日本政府は、倒産した金融機関に公的資金で援助することになっているといって1兆4千億円の税金を朝銀に投入した。
公的資金投入に伴い、政府が100?株式を所有する「整理回収機構」(RCC)が朝銀の不良債権を買い取った。この不良債権の中に、総聯が中央本部を担保に朝銀から627億円借りて返済しない案件があった。
RCCは東京地裁に総聯相手に返済請求の訴訟をおこし、裁判の過程で総聯に勝ち目がなく差し押さえされる可能性濃厚となった。
そこで許宗満責任副議長は、差押さえ回避のために元公安調査庁長官緒方重威(73)社長の会社に売却、差押さえを逃れようとして、詐欺に掛かったという話である。
本誌は一貫して朝銀の預金を金正日に運んで破綻した朝銀への公的資金導入に反対した。ロビー活動で朝銀に公的資金導入反対の議連を立ち上げて、議会での抵抗を試みた。金融庁に直接抗議もした。当時の金融庁は頑として聞く耳を持たず無視された。
しかし、金融庁は朝銀に対して、総聯が干渉できないように法律改正、監査法人の監査を受ける義務などの諸措置を科した。そして総聯は朝銀への支配権を失い、カネのなる木を奪われたのである。
1年10月前に安倍晋三という政治家が官房長官として登場した。このとき文字通り「歴史が変わった」のである。氏は官房長官就任と同時に、全行政機関に総聯に対する法の執行(優遇措置の撤廃)を秘かに命じた。特にRCCに対し差押さえ物件の適法処理を指示した。
この指示は安倍晋三という政治家だからできたのである。現実に今までどの政治家も総聯に手をつけることが出来なかったではないか。安倍晋三氏の歴史認識などに不満はあるが、日本の敵総聯を潰したというこの一点において氏は日本の歴史に残る政治家となったのである。
RCCが総聯相手に訴訟を起こした報道がなされた直後、総聯老幹部から「日本は1兆4千億円で朝銀と総聯を断ち切り、今度は総聯中央本部の差押さえに入った。高度に発達した資本主義国の新しい弾圧の手法である。誰が考えたのか」との問い合わせがあった。
筆者は「残念なことであるが、そんな戦略を考える人間はこの日本にいない。結果的にそうなったのである」と答えつつ、彼らが1兆4千億円で総聯が潰されたという認識を持っている事実を知った。
今の詐欺事件は、詐欺師たちの断末魔の化かしあいと見るべきものであろう。しかし、許宗満は金正日の指示で動き失敗した。他方、総聯活動家にとっての総聯中央本部は、かつて北に帰国した9万余の在日朝鮮人が、寄付して行った血と汗と油の結晶だ。それが公安庁調査庁のトップの詐欺に掛かり、挙句の果てに日本当局に差し押さえられ競売に付されるという。
活動家の中から「許宗満殺してやる」との声が上がっているという。この事件は金正日に大きな打撃を与えた。推移を注目したい。