全政党は、北朝鮮の脅威に危機感なし 佐藤勝巳 (2005.10.19)
総選挙の結果、自民・公明両党の大勝利、民主党の敗北で終わった。前号の編集後記で述べた選挙に対する筆者の期待も空しく、また、9月号の本欄で、小泉首相は郵政民営化法案で「政治生命は終焉」と「予測」したが、これも見事に外れた。 外れた原因は、国民は小泉首相にだまされるほど愚かではないと信じたことにあった。自民党に投票した国民のなかで、どれくらいの人が郵政民営化の中身を理解していただろう。身近の誰に聞いても答えられる人は皆無であった。要するにわけがわからなくて、民営化を「支持」したのである。この国民にしてこの首相ありであった。 9月19日、六者協議は共同声明を発表したが、翌20日に金正日政権は、軽水炉援助が核拡散防止条約復帰の「前提条件だ」として、共同声明を事実上否定した。 「現代コリア」でも繰り返し指摘してきたことであるが、彼らは、核の放棄など全く考えていない。11月上旬からの六者協議は、この金正日政権の「三百代言的」発言をめぐって延々と論議が続くだろう。くどいようであるが、彼らは核を放棄する意思など微塵もなく、時間を稼ぐのが目的である。 何のために時間を稼ぐのか。米国はかつてのクリントンのような民主党政権が登場すれば、金正日政権に融和政策をとってくる。そうすれば延命が図れる。それまで時間を稼ぐということである。 次に、一定の時間があれば、弾道ミサイルに搭載可能な大量破壊兵器の小型化ができる。今彼らはそのための時間が必要なのだ。これはアメリカ国防総省を始め、多数の専門家たちの一致した見方である。 金正日政権は軍事優先政策をとって10年ほどになるが、そのため経済がより悪化、さらに核開発への資金投入などから最新の通常兵器の購入がままならず、イラク戦争にみる現代戦に耐えうるような兵器はゼロに等しい。 従って、あの独裁政権が存続できる道は、国民を餓死させ、核兵器の小型化、核ミサイルの所有しかないのである。 クレージーな金正日政権が核の小型化に成功すれば、日本の全領土の殆どは、核ミサイルの射程圏内に入る。そして「核を撃ち込むぞ」と日本を脅し、いくらでもカネなどを巻き上げることができ、金正日政権は安泰と彼らは考えている。 さらに厄介なことは、現時点で北朝鮮の核ミサイルを撃ち落すミサイルはこの地球上に存在しない。かりに数年後にミサイルディフェンス(北海道稚内から沖縄の下地島までイージス艦とパトリオットミサイル数セット)を配備したとしても、撃ち落せる確率は70%程度(石破茂前防衛庁長官)という見方もあるが、私は実際はるかに低いとみている。 配備されるまでの間、日本は北朝鮮からのミサイル攻撃を防御する軍事的手段を全く持ち合わせていない。これが現実の日本の姿だ。 多分、国民の意識の中には、日米安保条約があるから、米国がなんとかしてくれるだろうと考える人がかなりいると思われる。それはとんでもない誤解と言わなければならない。 六者協議の経緯を見れば明らかなように、ブッシュ政権を始め、各国は自国の国益の実現を優先して外交を展開している。米国が日本の利益を優先させる外交など100%あり得ない。 六者協議の中でそうでないのはわが国の小泉首相だけだ。小泉首相が「拉致解決のために金正日政権に制裁を発動する」と発言したなら、日本以外の五者は一斉に「止めてくれ」と言うだろう。 盧武鉉政権は「北を追い詰めたら戦争になる」、中国は「難民が流れ込んでくるから困る」、米国は「日本の制裁を理由に金正日政権が六者協議出席を断ってきたら困る。制裁を慎重に」と言うだろう。そういう彼らに対して日本は、「だったら日本人拉致解決にどんな協力をしてくれるのか」と問えばよい。 問うだけではなく、それぞれの国に具体的な協力要請をすべきだ。不十分であれば、かつて中国が北朝鮮に石油を送っていたパイプのハンドルを短期間であるが閉めたことがある。それと似た行為をわが国は、中国、韓国、米国、ロシア政府に実行することを伝えるべきである。 制裁カードに拉致解決を図る。これが具体的に国家と国民の安全を守る行為ではないのか。小泉首相の中には、それが全くなくて、あるのは郵政民営化であり、有権者はその小泉首相を支持したのである。考えてみれば空恐ろしい話である。 小泉首相は、昨年5月拉致被害者家族が帰国してから最近まで、日朝の国交を実現して、歴史に名前を残したいと考えていた。任期あと一年。制裁を発動すれば、国交樹立をうたった「平壌宣言」を自ら否定することになる。 言葉を変えていえば、自分が認めた日朝交渉の失敗を認めることになる。だから制裁を発動できないというのが外交筋の見方である。もしこの発言が当たっているのなら、小泉首相は、国家の利益や拉致被害者の人権など何も考えていない。考えているのは個人の利益や名誉のみということになる。 第一、3年前にピョンヤンを訪問、金正日が拉致を認めたのに、宣言に拉致の「ら」の字もない。金正日が謝罪するならともかく、日本が謝罪して経済援助を行うなどという、控え目に言って「犯罪的」な「平壌宣言」に署名したのが小泉首相である。 一部世間では、郵政民営化で解散までして意志を貫こうとした小泉首相を国民が評価したという見方がある。それは違う。「殺されても」という台詞は、日本の安全を守るため、あらかじめ合意していた宣言草案を拒否する時に使う言葉である。
この政治家の頭の中には、国家国民の利益という考えは見当たらない。悲劇的なことである。 東京上空に大量破壊兵器が一発撃ちこまれたら、50万人が殺傷される。小泉首相はこの現実に「対話と圧力」と言って、実際には何もしないできた。これほど無責任な話はないだろう。しかし無責任なのは、小泉首相だけだなく、岡田民主党代表も同罪だと言わざるを得ない。 なぜなら、小泉自民党の誤りは、拉致解決を含む金正日政権の核から国民を守る政策を持ち合わせていないことだ。民主党は制裁を発動し、金正日政権を打倒、拉致を解決、国民を金正日の核から守ると訴え、小泉氏と毅然として対決すべきであった。 それで選挙に負けても、私は岡田代表を「名誉の戦死」と賞賛する。こんな惨めな負け方は「犬死」と言うしかない。国家の安全、国民の生命財産を守ることに関心がなかったという点で、岡田民主党代表と小泉首相(自民党・公明党)との間に差異はなかったのだ。他の政党も同じ。 こえから金正日政権の核をめぐって東アジア情勢がどのように展開するか、不透明な要素が多く予測は難しい。だが、間違いないことは、金正日政権は「殺されても」核弾頭を開発するということである。 だとすれば、わが国の安全をどうやって保障するかである。現状は従来と全く意味が違ってきている。結論を言えば、金正日体制を倒す以外にはないのだ。 問題はどういう方法で倒すかにある。六者協議もその手段の一つ。国連安保理での制裁、核拡散防止機構の北朝鮮船舶の臨検、日本の経済制裁の発動、カネを使っての内部矛盾の拡大を図るなど、あらゆる手段を使うことである。 そうしなかったら、日本の安全は守れない。はっきり言えば、日本の首都東京上空で大量破壊兵器が炸裂することを防げないのである。防げる方法があるとすれば、それは日本が核武装して相互抑止力で防備することである。それが嫌なら相手の言うことに従うしかない。われわれは何をもって自国を防衛するのか今厳粛な選択を迫られているのだ。 多分、こういう主張に韓国現政権は、強く反発することが予想される。われわれも現在の盧武鉉政権の対北朝鮮政策に強い疑問を持っている。 理由は、日本国民(韓国民も)を拉致し、核弾頭を開発しているならず者集団に、盧政権は無原則的に援助を行っているからだ。 昔からそうなのだが、韓国人は、「金正日政権は同胞に核を使うはずがない。使う対象は日本に決まっている」と言っているが、それならあの朝鮮戦争は何だったのか。韓国のアキレス腱は、冷徹に現状を見ることができず、ナショナリズムという観念で「分析」することにある。朝鮮半島の平和と安定は、金正日政権を排除することだ。それ以外にない。 |