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北朝鮮外務省声明を評す

佐藤勝巳

(2005.2.15)

 

    北朝鮮は2月10日、外務省声明を発表した。中身は、

 

(1)第二次米ブッシュ政権は北朝鮮を「暴圧政権」と位置づけて制度転覆を目標としている。一方で対話を、他方で転覆を企む「謀略と欺瞞」の政権を相手に六者協議は出来ないというもの。

 

(2)日本も米国に追随して拉致問題で北に言いがかりをつけ、「遺骨問題までデッチ上げて、朝日平壌宣言を白紙化し、国交正常化を行わないという日本と、どうして一堂に会して会談できよう」といって、これまた日本との会談も拒否した。

 

(3)「自由と民主主義を守るために核兵器庫を増やすための対策を講じる」「自衛のために核兵器をつくった」と初めて核兵器を製造したことを北朝鮮外務省が公に認めた。それにしても北朝鮮のどこに「自由と民主主義」があるのか。日本人で笑わない人はいないだろう。

 

    テレビなどの一部解説者は、この声明発表理由を、金正日がブッシュ政権の対北朝鮮政策を見て、態度表明したものと北朝鮮外務省と同じことを言っている。が、筆者はそうは思わない。

 

    現在、大統領が同じブッシュで、国務長官がパウエルからより強硬なライスに代わった。融和政策など生まれる訳がない。いかに金正日政権が判断力を欠いているとはいえ、こんな初歩的なことが分からないはずがない。金正日政権の言うことをまだ信用する日本人専門家がいることは驚きであった。

 

    それはともかく、この時期にこんな素っ頓狂な声明を発表した背景に何があるのかである。理由は二つある。一つは北朝鮮の国内政治情勢などにある。

 

    今までも指摘してきたように、

 

(1)金正日の後継者に子供4人(男子)、金日成の子供1人計5人が手を上げ、重大な政局(抗争)となっている。これに対して金正日の指導力が全く見られない。

 

(2)前参謀総長・現党作戦部長呉克烈父子の米国への亡命はほぼ確実。党組織指導部第一副部長張成沢の姿が見えないことなどとも重なって指導層内に深刻な動揺が起きている。

 

(3)対米政策を巡って、強硬、非強硬派の対立が先鋭化してきている。

 

    このような矛盾と混乱を収拾するためにポーズであっても「六者会談への無期限中断」という強硬姿勢を示す必要に迫られている、というのが筆者の分析である。

 

    今一つの理由は、金正日政権のお決まりの駆け引きである。この声明を精読すると、金正日政権が従来お題目のように口にしてきた「強硬には超強硬で臨む」「米帝が侵略戦争を仕掛けてくれば米兵の全ては、無縁仏となる」などというハッタリがない。

 

    また、「後は米国の態度如何にかかっている」という思い上がった常套句表現もない。こんなハッタリすらない声明は記憶にない。

 

    声明は「六者会談を望んできたが、会談への参加の名分が整えられ、会談の結果(成果)を期待できる十分な条件と雰囲気がつくり出されたと認められるときまで、やむを得ず、六者協議への参加を無期限、中断する」という。

 

    こういう駆け引き(表現)は、出席を理由に物を獲る手段で、物を獲得すれば「環境が整った」といって六者協議に出席するという今まで散々使ってきた「手口」であり、特に目新しいものではない。

 

    声明の最後に「対話と協商(協議)を通じて問題を解決しようとするわが方の原則的立場と、朝鮮半島を非核化しようとする最終目標には変りはない」とこれまた対話を放棄したものではないとわざわざ断っているのは、盧武鉉政権や小泉政権などを騙す詭弁だ。だったらなぜ六者協議に出てこないのか。

 

    北朝鮮の国内事情を冷静に分析すれば、今回の声明は、強さではなく、逆に弱さの現われである。また、金正日政権は核保有宣言をしたため、ブッシュ政権始め国連など核関連国際機関は黙視できない立場に立たされた。中国の面子は丸潰れ、盧武鉉政権の対北融和政策が見事に破綻したことも立証された。

 

    彼らは声明で日本政府が「平壌宣言を白紙化した」と暴言を吐いているのに、小泉首相はなお経済制裁の発動をためらっている。これは重大な誤りである。首相は制裁を発動しない理由を国民に説明する義務がある。

 

    いずれにしても国際的金正日政権包囲網の強化は避けられず、当該声明は、客観的には金正日政権の「自殺声明」に他ならない。政権の末期を象徴する非常に注目すべき「声明」といえる。