個人独裁政治 破滅の構造 佐藤勝巳 (2005.1.11) 金正日政権は昨年末、横田めぐみさんの骨といって日本政府に渡してきた。骨は高温で焼却されたもので、関係者はDNA鑑定不可能と思った。ところが、帝京大学はそれが別人の骨であることを立証した。 某雑誌はそれを知って、首相官邸は狼狽したと報道したが、なぜ狼狽する必要があるのか。私は、某政府筋から「官邸周辺は金正日政権に『焼却した骨を横田めぐみさんのものといって日本に渡せば、鑑定不能を理由に拉致の幕引きができる』という趣旨の話をしている可能性がある」ということを耳にしていた。官邸が本当に慌てたのであれば、上記の推測を裏付けたことになる。 金正日政権が2年前、松木薫氏の骨と称して外務省に渡してきたものは、焼却度が高く、警察庁科学捜査研究所ではDNA鑑定ができず、歯から別人のものと認定した経緯があった。首相官邸筋が承知していた骨の焼却度は、上記研究所の鑑定能力であって、帝京大学のそれではなかった。 拉致問題幕引き勢力の読み違いはこの一点にあった。帝京大学のDNA鑑定によって、謀略は粉々に打ち砕かれた。この鑑定に対する金正日政権の反応は、日本政府の「政治的謀略」というものである。 過去この政権は、ソウル五輪(1988年)中止を目指し、大韓航空機をテロで爆破した。爆破を隠蔽するために「韓国政府が自己の政治的危機を回避するための自作自演」という奇想天外なことを口にした。それに比べるとDNA鑑定結果を「政治的謀略」と主張することなど朝飯前である。 金正日は、どうして平気でウソを繰り返すのか。事実無根のことでも主張し続ければ、盧武鉉政権を支持する韓国左傾勢力のように、金正日らの「自作自演」説を容易に信ずるものが現れてくる。 もう一つは、自己保身だ。今回のDNA鑑定結果を日本の「政治的謀略」といえば、金正日の分析と判断ミスは責任追求の対象とはならない。 過去も同じであったが、独裁者の無誤謬という虚構を維持するために、責任を他に転嫁するという愚劣な行為が、金父子独裁政権下で半世紀以上も続いてきた。その結果が、国際的孤立、解決不能な慢性的飢餓、国を捨てる脱北者の増加、幹部の失脚や亡命である。加えて、幹部間の責任のなすり合いなど、今、北朝鮮政治上層部では、半世紀以上にわたって蓄積された矛盾が顕在化し、かつてない緊張が醸成されつつある。 |