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コメ支援は被拉致者を切り捨てる国家犯罪だ

佐藤勝巳

(2000.1.7)

 

    一月五日読売新聞夕刊は、一面の中央五段見出しで、政府与党が、二月上旬に、北朝鮮へ数十万トンの食糧支援を本会談再開前に実施する旨の報道をした。

 

    情報の出処は「複数の与党幹部」である。数十万トンのコメ支援は「早ければ二月にも国際機関を通じて供与する案を軸に調整する」と言うものだ。

 

    村山訪朝団は、帰国直後の昨年十二月三日記者会見を行った。そこで「コメ支援は日朝交渉再開に優先するのか」という質問に、野中広務訪朝団幹事長は、「今回は『前提を置かず』ということが基本で、双方それを確認した上でやっている。無条件、前提なしでやっている」と答えたことをわれわれは忘れていない。

 

    ところが、一カ月後、日朝本会談前に数十万トンのコメ支援だと与党の複数幹部が言い出した。これは訪朝団が嘘をいって国民を騙したと言うことだ。

 

    前記読売新聞の報道によれば、コメ支援をする理由を、

 

(1)日朝赤十字会談で「日本赤十字社が日本政府に早期の食糧支援を提起し、日本政府も検討する」といった。

 

(2)同赤十字会談で北朝鮮が「行方不明」との表現を使いながらも「しっかりとした調査を行う」と約束をしたことと日本人妻の里帰り再開を受け入れた。

 

(3)北朝鮮が、日朝予備会談で、本交渉再開前に食糧支援を強く求めるとともに、拉致疑惑で前向きに調査する姿勢を示したことから「食糧支援の早期実施が拉致疑惑を進展させるきっかけになる」。

 

(4)北朝鮮は食糧支援が先に実施されない限り、本交渉の再開は困難との姿勢をとっている。「国交正常化交渉という対話のチャンネルが途絶えてしまうと拉致疑惑が進展しない事態を招く」。だから数十万トンのコメ支援が必要という主張である。

    以下反論を試みる。(1)だが「日赤が日本政府に早期食糧支援を提起した」という。日赤にどんな資格があってこんな提起が可能なのか。かつて日赤は、拉致家族の陳情に「日赤には何の権限もなく、何もできない」と延々と弁明したことを忘れたとは言わせない。

 

    日赤は自国民の救出に何の権限もないといって動かず、日本人を拉致した金正日政権に「何の権限もない」日赤が「早期食糧支援を政府に提起する」という。どこの国の赤十字か。よくこんなことがいえる。

 

    (2)の「行方不明者」の調査を「しっかりと約束した」というが、九八年六月朝鮮赤十字会は調査したが「行方不明者」は一人もいなかったと声明をだしている。

 

    日赤や政府与党が彼らのいう「調査」に本当に期待を寄せているとしたら救いようのない無知・無能な集団ということになる。

 

    なぜなら拉致された日本人は北朝鮮の謀略機関が入っている「三号庁舎」の管理下に置かれている。「三号庁舎」の責任者は金正日である。その下に、(1)統一戦線部、(2)社会文化部、 (3)作戦部、(4)対外情報調査部があり、これらの機関が金正日の命令で日本人を拉致し、管理している。拉致された日本人が何処にいるか調査の必要など全くないのだ。

 

    超党派訪朝団を迎えた金容淳統一戦線部長に聞けば、すぐ分かるはずだ。朝鮮赤十字が「行方不明者」をしっかり調査すると言ったことを根拠に、数十万トンの食糧支援云々する我国の政府・与党幹部の言動は、あまりにも幼稚である。そして明白に間違っている。彼らは日本からコメをとるための駆け引きの材料として「調査」を使っているだけだ。こんなことがどうして分からないのか。

 

    (3)だが、北に早期食糧支援をすれば拉致疑惑が進展するというのが与党幹部の認識だ。何度でも書くが、日本政府は、九五年にコメを北朝鮮に直接五十万トン事実上ただやった。九六年には食糧・医療品など六百万ドル相当、九七年にはコメ七・六万トン三十四億円を国際機関を通じ無償供与した。

 

    その結果北は、拉致は依然全否定。「行方不明者」も一人もいないという。また、射程千三百キロ、日本に七分で飛んでくる弾道ミサイル・ノドンを完成、二十基から三十基を日本に向けて実戦配備している。

 

    テポドン2の射程は六千キロ以上と推定され、米国の安全が脅かされるとペリー政策調整官はいっている。また、泰川の地下で米朝合意に違反してプルトニューム抽出を行っていることは専門家の間では秘密ではない。

 

    クリントン政権は金日成・金正日政権を「軟着陸」させると言って、大量のモノ・カネを与えてきた。金大中政権も同じことをいって金正日支援をしている。それで一体北の何が変化したのか。何も変わっていない。むしろ核ミサイルの開発が進んでいるではないか。

 

    コメを数十万トン援助したら「拉致疑惑が進展する」とは、寝言に等しい金正日認識である。

    (4)のコメを出さないと対話のチャンネルが切れ、拉致疑惑が進展しないとの見解であるが、コメを出して対話を継続すると言うことは、拉致問題を放棄することを意味する。

 

    なぜなら、九二年の日朝交渉が決裂したのは外務省が交渉の席上で、拉致を問題にしたからだ。対話継続を前提にする限り、交渉で拉致を問題に出来なくなる。コメをただ取りされるのは過去の例が示している。

 

    また、一度コメをだせば、彼らは会談決裂をカードに果てしなく食糧を要求してくる。拉致問題の前進なくしてコメ支援などはいかなる角度からも国益の放棄、被拉致者の切捨てにつながるのである。

 

    正しい交渉は、交渉の入口で拉致問題の解決を断固主張することだ。それで交渉が進まなければ困るのは金正日であって日本ではない。ここが最も肝心なところで勘違いしてはならない。

 

    政府与党は自国民の拉致を二十余年間放置し、この期にお及んでもなお、拉致を切り捨てて、拉致の主犯金正日にコメ支援をしようとしている。そうなれば拉致家族並びに支援者は体を張って阻止するであろう。

 

    更に、国家の安全と国民の生命と人権を守らない自民党に対して、われわれは次の総選挙で、厳しい批判を加え、覚醒を促さなければならない。