韓国の主要メディアは、8月下旬のトップ会談は、大統領候補選びや翌年の国会選挙の思惑などが絡み、混乱・混迷している韓国左派勢力(与党圏)に梃入れするのが狙いと報道していた。金正日政権から見れば、引き続き韓国左派を選挙に勝たせ、韓国からの援助で政権延命を図る、という狙いがあるというものであった。
この分析が正しければ、金正日政権のトップ会談延期は何を意味するのか。言われているように水害の被害が深刻であったとしても、この国はすべて政治優先。南北トップ会談という最大の政治課題を後回しにして、水害復興が優先するなど、太陽が西から昇ってくるような話しである。こんな理由に疑問を持たないのは持たないほうがどうかしている。
韓国統一部の話では、水害が起きると同時に、「首脳会談に支障はないか」と北に問い合わせたら、「北朝鮮は国家だから水害に関係なく首脳会談は約束どおり行うと17日までいっていた」(朝鮮日報8月20付)という。
だとすると、金正日から盧武鉉に高額の貢物(援助)が要求されたか、実現困難な政治案件が附されるなど紛糾している可能性が高い。過去、3回も自らの要求を通すため首脳会談を延期させた実績を持つ政権である。要求実現のために盧武鉉にトップ会談「延期」を突きつけ揺さぶりを掛けてきているのではないか。
それを暗示しているのが盧武鉉大統領の8・15演説である。首脳会談に対する基本姿勢として「何か新しい歴史的転換を作ろうとするよりも、歴史の道理が実現するように最善を尽くす」「お互いに理解と信頼を増進する」「歴史が私に課した役割は、成果を上げるためではなく、責任を全うするため」と常識的で気負いはない。
経済協力については「南北経済共同体」の建設、具体的には、「韓国にとっては投資の機会に、北朝鮮にとっては経済復興の機会になるよう進めなければならない」と経済の「改革開放」ではなく、北朝鮮を「投資」の対象と位置づけている。これは資本による支配、金正日が最も警戒している独裁体制の否定につながる。
六者協議との関係では、首脳会談を「6者協議と調和させ、6者協議の成功に結びつける」と米国の要求を100%受け入れた。特に目を引いたのは、「7・4共同声明、南北基本合意、韓半島非核化宣言、6・15共同宣言など過去の4大南北合意を…実践に移す努力が必要な時」と述べ、「連邦制」など新たな提案の気配がみられなかつた(以上の引用は中央日報8月15日付)ことだ。
従来の金正日政権の盧武鉉に対する態度は、「俺の欲するものをもってこい」であった。ところがこの度の盧武鉉演説は、韓国が北に投資して経済の発展を図るというものである。金正日政権が反発したのは、使用人が主人と対等以上の態度を取り、金正日政権の土台に揺さぶりを掛けてきたと受け取っているはずだ。金正日政権が「トップ会談を延期した」最大の理由はこの点にあったと推定される。
いまひとつは金正日の体調に異変が起きたのではないかということである。朝鮮中央通信の報道が事実なら、金正日は盛夏に延べ10日間続けて「現地指導」したことになる。糖尿病であり、5月に心臓の手術をした(朝鮮日報)人間が、こんなハードな動きをして体調を崩したとしてもおかしくない。
そもそも10月4日トップ会談というがどうして10月4日なのか。この時期が、韓国左派にとって大統領選挙に有利との見方があるが、それなら最初から10月上旬にトップ会談を設定すればよい。これは後からつけた理屈であろう。
金正日の体調不良は、北朝鮮政治上層部では定説化しており、実の妹・金慶姫の台頭とあいまって静かな動揺が広がっていることはまぎれもない事実である。それにしても政治というのは何が起きるか分からないものである。この度も改めてそれを知らされた。